439 人はそれを勇者という
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町の被害はひどかったが、しかし死者数は奇跡的ともいえるほどに少なかった。
それはフェルメーラがうまい具合に陣頭指揮をとったからで、本人いわく「革命なんてやろうとしてたくらいだからね、町中での戦闘なんてお手の物さ」とのことだった。
たしかに町にはいたるところにバリケードが築かれており、ここを攻めるのは骨が折れそうだと見たときに思ったくらいだ。
驚嘆すべきはこれを短時間で作るったことだ。
フェルメーラ、やはり有能な男だ。
おしむらくはアルコール中毒なことくらい。いまも飲んだくれてゲラゲラと笑っている。
「シンクくん、キミは偉い!」
「そうかい、ありがとよ。なんでもいいけどフェルメーラ、飲みすぎだぞ」
「こんなの飲んだうちに入るか!」
「いや、そうじゃなくてさ……」
俺たち、いまから船に乗るんだぞ?
あんまりアルコールを入れてるとたぶん……吐くぞ。
港には巨大なアメリアの船がある。修理は終わっているので、もう出港できる。なにが壊れていたのか俺はよく知らないが、アメリアの人たちが徹夜で直してくれたらしい。
「シンクさん!」
と、レオンくんがやってくる。
「うん、どうした?」
「いえ、お別れを言いたくて」
「お別れね。はいはい」
俺は手をさしだす、握手だ。
レオンくんはそれをがっちりと掴んだ。
「ありがとうございます。町のみんなも本当に感謝しています」
「いや。俺たちは俺たちにできることをやっただけさ。むしろ自分たちのことで必死だったくらいさ。町だっていろいろ大変にしちゃっただろ?」
砲撃も受けた。
バリケードを作るために家の中から家具みたいなものも外に出した。なによりも、魔族の出来損ないの死体とでもいえばいいのか? 残骸がそこらへんに転がったままだ。
「それでも命があって良かったって、みんな喜んでいますよ」
「そうかい? なら良かったけど」
「はい。町を代表して、っていうのはおかしいですけど。でもお礼を言います」
「なに言ってんだよ。俺たち友達だろ?」
友達、と言ってみた。
これで否定されたら俺はショックで3日は寝込むだろう。
でもレオンくんはにっこり笑って頷いた。
「はい!」
やった、友達が増えたよ!
と、まあ。これは冗談なんだけどね。
フェルメーラは俺の横で笑っている。
「素晴らしいね、シンクくん」
「なにがだよ?」
「キミはまさしく勇者だよ」
「勇者?」
なにを言っているんだこいつは、と思う。褒めるにしてももっと違う言い方があるんじゃないか? 勇者って言ったら俺は月元のことを想像してしまう。
「他者のために自らの勇気をもって道を切り開き、他者を助け、笑顔にし、救い出す。それは勇気の伝搬にほかならない。それができる人間を、人は勇者というんだよ」
「勇気の伝搬?」
「そうさ。僕の先祖であるアルピーヌはそれができた。戦場において、敗戦濃厚となっても自らの勇気で兵士を奮い立たせることができた。シンクくん、キミにもそれができるんだよ」
「買い被るなよ」
「どうしてだい? キミが今回やったのはまさしくそれじゃないか。キミが1人であの魔王軍の四天王と戦ったみせたから、僕たちもこの町で防衛戦ができた。言っただろう、人は勇気に向かって走るのだと――」
俺は照れくさくなって、逃げるようにレオンくんに「そうなの?」と話をふる。
レオンくんは即答した。「そうですよ!」そうなのか……。
「ふーん」
なんでもいいけど、英雄と勇者というのは違うのだろうか?
なにかしらの違いがあるのかもしれないが、俺にはよく分からなかった。
「これにて長かったテルロン戦線からも離脱できますね」
と、最初からいたエルグランドが言う。
いかにも達成感に満ちた顔をして港にあるあれ――なんかよく海の男が足を乗せているようなあれに、気取った様子で足を乗せてポーズをとっている。
「なんでもいいけどさ、その足を乗せてるやつなんて名前なの?」
世の中、形は思い浮かぶけど名前を知らないものってあるよね。トイレがつまったときに使うキュッポンッってやつとか……。
「さあ?」と、エルグランド。
こいつ、名前もしらないものに足を乗っけて格好つけてたのかよ。
「それはポラードというものですよ」
船から降りてきたリーザーさんが教えてくれる。
「準備は整いましたか?」と、エルグランド。
「はい。もう出港できますよ」
「そうですか。エノモト・シンク、フェルメーラ、乗りますよ」
「はいはい。レオンくん、じゃあね!」
「はい、シンクさんもお達者で!」
乗り込むと、ミラノちゃんとローマが待っていてくれた。
「遅いぞ!」
「うちの大将があのポラードとかいうのに足を乗っけるのに忙しくてな」
「はあ?」
「感慨にふけってたんだよ。男にはそういうときがあるんだから」
「なんだそれ?」
「うふふ、ローマには分からないわよね」
「あ、ミラノ! 僕のことバカにしないでよ!」
「ああ、ごめんなさい。シンクさん、船が出ますよ。ほら、町の人が手を振ってくれてます」
「本当だな」
うーん、なんだろう。
照れくさい。
だってみんな俺たちのほうを見て、ありがとうなんて言いながら手を振ってくれてるんだ。
自分がちゃんとこの町の人を守れたという自信はない。
でもこうして感謝しえてもらえるなら――頑張ったかいもあった。
俺たちの乗る船は少しずつ町を離れていく。
それでも町の人たちは俺たちに手を降り続けてくれた。
いつまでも、いつまでも。
エルグランドの達成感もちょっと理解できた。
負けは負けだけど、最後に取り返した分もある。
凱旋とは言えないが、敗走とも言い切れない。
だから俺たちは――パリィに堂々と帰るのだった。
これから2週間ほど、更新を停止します。
読んでくださる方々には申し訳なく思います。
更新を再開しましたらまた毎日投稿していこうと思うので、どうかよろしくお願いします。




