表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

435/783

428 ギリギリエルグランド


 通路の壁際に追い込まれたローマが、困ったようにニヤニヤ笑いながら、誤魔化そうとしている。


「な、なあミラノ。べつになにもないって」


「そんなことありません、ローマったら私に内緒でシンクさんと2人きりだったじゃないですか!」


「いや、2人きりというかね。ほら、そこの男も一緒だから。3人だから」


「そんなの関係ありません! もう、シンクさんに会いに行くなら私も誘ってください!」


 ……なんでミラノちゃんこんなに怒ってるの?


 わけがわからない。


 ローマは助けをもとめるようにこちらを見てくるが、どうしろというのだ。


「エノモト・シンク。貴方は意外とモテるのですね……」


「あー? モテてないだろ」


 こいつ、目がおかしいんじゃないのか。


 あれ、もしかしてこれ逆か? エルグランドなりの嫌味か? かぁー、これだからイケメンは嫌いなんだよな。自分の方がモテるくせに人にそういうこといを言う。


「とにかくローマ、抜け駆けは禁止ですから!」


「僕がミラノを裏切るわけないだろ? な、そうだろう?」


「むうっ……いまはシャネルさんがいないみたいだから、チャンスなのに」


 すごい小さな声でミラノちゃんが言う。


 チャンスってなんのことだ?


「シャネルがいないと都合が良いのか?」と、俺は聞いてみる。


「な、なんですもないです! というかシンクさん、よく聞き取れましたね」


「まあ、耳は良いんだよ」


「地獄耳ってやつかよ?」


「お前のケモミミよりはマシだよ」


 なにがマシかは知らないが、売り言葉に買い言葉というやつだ。ただのじゃれ合い。


「お前にはこのローマ様の耳の美しさは分からないだろうな~」


「美しさっていうんならミラノちゃんの方が断然上だな」


「えっ……」


 ミラノちゃんはなぜか顔を赤くしている。風邪だろうか?


「エノモト・シンク、早く行きましょう」


「うん、そうだな」


 やる気になってくれたのならば、良いな。


「あ、じゃあ私が案内しますよ。指揮官室に皆さん集まっているらしいので」


 ミラノちゃんが率先して案内を買って出てくれる。


「いやあ、気が聞くなぁ。どこかのローマとは大違い」


「どこかのローマって僕しかいないだろ!」


「はい、ナイスツッコミいただきました」


「お前、やっぱり落ち込んでたほうが良いぞ? うざいから」


「だってさ、エルグラさん」


「私も貴方がうざったらしいと思っていますよ」


 お、総スカンだ。いやあねみんな、酷いなあ。


「シンクさん、私はシンクさんのこと、す、好きですよ」


「はい、ありがとね」


 俺たちは現在、船の中にいた。


 とりあえず3人で船に入るとミラノちゃんに捕まって、ローマがなんかいろいろ言われてたけど、まあケンカというほどでもなかったようだ。


 仲良きことは美しきかな。


「なあなあ、エルグランド」


「なんですか」


「お前、レズものってどう思う?」


「そういうくだらない話はフェルメーラとでもしてください」


 俺は適当に笑った。


 ミラノちゃんは俺たちの先頭を歩いていくけれど、アメリアの人とすれ違うたび、すれ違う人たちが嬉しそうに挨拶してくる。


「ミラノさん、お疲れさまです」


「ミラノさん、今日も素敵ですね」


「ミラノさん、今度のライブはいつですか?」


 ミラノさん、ミラノさん、ミラノさん。


 なんだか大人気だ。すげえ。ライブとか言ってたけど、マジでアイドルなのか? というかアイドルってなんだよこの世界にもあるのかよアイドル。


 まあけっこういろいろあるから、もうなにがあっても驚かないけど。


「ミラノ、大人気だろう?」


「おう。マジでなんなの、アイドルって」


「そのままの意味ですよ。アメリアには昔からある制度らしいです。戦争の際に士気高揚しきこうようをはかるため、徴用される偶像のことです」


「ほえー」


「アイドルのために身を粉にして働くアメリア軍は、強いですよ」


「まあ、士気は大切だからな」


 で、そのアイドルってのがミラノちゃん。


 うーん。


 もしかしてエロいあれなのかと考えてしまう俺はきっと心が汚れている。


「それどころかミラノはすごいんだぞ! アメリア軍全体のアイドルなんだ! つまりトップアイドル! すごいだろう?」


「ほー。まあミラノちゃんは可愛いからな」


「ひょっ!」


 ミラノちゃんが変な声をだす。


「どうした、ミラノちゃん?」


「あ、いえ。しゃっくりです」


 しゃっくり?


 変なしゃっくりだな。


 そんな感じのことを話しながら、指揮官室なる場所へ。


 ミラノちゃんがコンコンとノックする。


「失礼します、ミラノです。シンクさんと他1人を連れてきました。入ってもいいですか?」


 中から声が。


「ああ、どうぞ」


 リーザーさんの声。


 なんだかガムテープをはがすようなザラザラした声だ。


「失礼します」と、俺。


 エルグランドは入ってから、扉をノックした。


「失礼」と、偉そうに言う。


 中にいたのは4人。リーザーさんとフェルメーラ。あとはレオンくん。そして見たことのないおっさん。たぶんこのポラン・クールの町の町長だろう。


「おう、エルグランド。やっと来たかい」


 と、フェルメーラ。


「……ふんっ」


「それで、いまなんの話をしてたの?」


「とりあえず、この船の乗員のこと。全員を町に下ろすことはできないからね。とりあえず船で過ごしてもらうことにしたよ」


 と、フェルメーラ。


 そこらへんの調整というか、調停をちゃんとやってくれているらしい。


 船乗りたちもせっかく港についたのだ、陸地におりたいだろうに。申し訳ない。


「ただ我々も食料と真水が少なくなっております。そこだけは配慮していただきたい」


「たしかにリーザー氏の言う通りですね。町長、どうしましょう?」


 レオンくんが町長さんに聞く。町長さんはあんまり度胸がないようで、蛇に睨まれた蛙みたいな顔をしている。


「わ、我々の町としてはお金さえ払っていただければ、売買として食料や飲料を提供します」


「ありがたい。とはいえこちらも長居していては、この町を枯らすことになりますね」


 リーザーさんはチロチロと舌をだす。


 いかにもトカゲだ。すげえ……。


「そこでエルグランド。お前の出番だよ」


「なにがですか、フェルメーラ」


「だから、お前が決めるのさ。僕たちの進退を」


「私が……」


 まずいな、と俺は思った。


 あまりプレッシャーをかけるべきではない、と。


 いま現在のエルグランドは本当にギリギリの状態だ。この場所に来たのだって無理やり連れてきただけなのだ。


「ま、まあそんなに慌てることないんじゃないのか? ほら、アメリアの人たちもこの町に来たばっかりだし。いまはゆっくり休もうよ」


 分かってくれよ、とフェルメーラに視線を送る。


 そしたらフェルメーラは理解してくれたようで、しまったという顔をした。


「そ、そうだなシンクくん。僕も少々焦りすぎたよ」


「……私が、私が決める」


 ぶつぶつと呟くエルグランド。


 ダメだこりゃ、と俺は頭をかかえた。


「とりあえず会議はここまでにしようか。あとで会食でもしよう、アルコールもだすよ」


 フェルメーラが無理やりまとめた。


 やれやれ、どうなることやら。


 自信のあるエルグランドはうざいけど、くよくよしているエルグランドも別ベクトルでうざい。総じてこの男は嫌なやつなのだが。


 まあ嫌いじゃないってことだな。


 俺は優しいやつだよ、まったく。自分でいうのもなんだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ