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413 シャネルからの手紙


拝啓


 冬が近づき、ここのところめっきり寒くなってきました。体調など崩していないかと心配しております、いかがお過ごしでしょうか。


 時候の挨拶の続きをするようで不調法かと存じますが、パリィの方ではちらほらと雪がふる日がありました。雪といっても柔らかな綿雪でつもるということはなかったのですが。テルロンはこちらよりも少し暖かいと聞いております。とはいえお体にはお気をつけください。


 貴方様がパリィを発ってから、毎日貴方様のことばかり考えております。最近ではなにも手がつかず、日がな一日ほけているような状況です。これではいけないと思いフミナちゃんに編み物を教えていただきました。貴方様が返ってくる頃には簡単なマフラーの一つでも編めていると良いのですが。あまり期待せずにお待ち下さいね。


 テルロン戦線では、ドレンス軍がおしていると風のうわさで聞いております。この分なら貴方様が戻ってくるのも近いのかと楽しみにしております。もちろん貴方様ほどの人がテルロンなんていうチンケな戦場であたら命を落とすとは思っておりません。その点は全然、まったく、これっぽっちも心配しておりません。とはいえ愛する人が戦場へと行き、女がこれを待つ。古来より幾星霜と繰り返されたこの行為がこんなにも辛いものだと、私は物の本で読んだだけで実感としてまったく知りませんでした。


 いま、ここにはっきりと言っておきます。


 私は貴方様がいなくて寂しく思っております。こんな弱い私を貴方様は軽蔑するかもしれません。それでも言わずにはおれないのです。


 もし、次があるならば私はどうしても貴方様についていきたい。ただ待つだけの日々なんてまっぴらです。戦場が男の場所であると言われても、私だって手伝えることがあるのではないかと、それは傲慢でしょうか。おごりでしょうか。それとも夢のようなたわ言でしょうか。


 貴方様と離れ離れになる日は、一日千秋です。ルオの国でこれを経験したときは、ここまでではありませんでした。これはきっと、私の愛情がより深くなったからと自己分析しております。そうです、私はきっと貴方様のことを過去よりも現在において、さらに愛しているのです。そして未来ではさらに貴方様を愛しているでしょう。


 長々と、自分のことばかりを話してしまい申し訳ありません。


 このような手紙を受け取れば、返信にも苦慮するというものですね。ですので手紙を返すことはしなくてもいいです。この言葉に他意はありません、裏もありません、私は貴方様に嘘や隠し事をしません。お返事は、会ったそのときに愛の言葉とともに。


 あまりあれもこれもと要求しては、ますます重い女と思われそうで怖いのですが。それでも貴方様にこんなふうに言ってしまうのは私の甘えによるものです。よるべない夜に手紙など書くべきではありませんね。感傷がすぎます。


 貴方様に次お会いできたら、きっといつも通りの私でいられると思います。


 けれどいまだけはこんな弱い私を許してください。


 そしてもし図々しいお願いをさせていただけるなら、貴方様も私と同じように、寂しい思いをしていただければ。そうであったならば、私は嬉しいのですが。


 最後になりますが、貴方様の武運長久を祈っております。その麗しく素敵で精悍なお顔を、また見る日を楽しみにしております。


 貴方様を愛する女より。



かしこ



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