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407 ふたたび拠点にて


 拠点に戻った俺たちを迎えたのは、エルグランドだった。


「逃げたのではなかったのですね」


 と、嫌味っぽく言ってくる。


「だから脱走じゃないって言ってただろ。馬、ありがとうな」


 いちおうお礼を言ったが、エルグランドは忌々しそうに鼻を鳴らしただけだった。


「夜明けまでもう1時間もありませんよ、さっさと寝るのですね」


「そっちこそ。なんだよ、俺たちが帰ってくるのを待っててくれたのかよ」


「おめでたい頭です。もし貴方が本当に逃げていたならば討伐隊を差し向けなければいけないところでした、その準備をしていたのですよ」


 それがどこまで本気かは分からないが、あながち嘘でもないのだろうというのは雰囲気から想像できた。


「なんにせよ帰ってきたんだ。これで文句ないだろ」


「本気でこれですむ問題だと思っているのですか」


「さあ、どうだろうね」


 俺たちはにらみ合う。


 しかしエルグランドの方から根負けして、きびすを返して拠点の中へと入っていく。


「ったく、嫌味な男だな」


 俺は普通に文句を言うのだが――。


「僕たち、処刑とかされないかな」と、デイズくんは心配そうだ。


「大丈夫だよな、シンク隊長?」


「さあ、大丈夫だろう。あいつだって本当に俺が死んだら困るはずだし」


 なんせ俺がこの戦いに参加することを望んだのは、ディアタナなのだから。


 俺はそこらへん、よく知らないが。たとえば俺がアイラルンと時々会話するように、ガングー13世もディアタナに会うことがあるのだろう。


「貴族相手にあんな態度とって……怖いよ」


「貴族ってそんなにすごいもんなのか?」


 はっきり言って俺はそういう知識がまったくない。


 まあシャネルは王族らしいから(なんせ初代ガングーの直系の子孫だ)、なんかあっても問題にはならないだろう。……なるか。


「すごいというか……」


 ルークスは歯切れが悪い。


「そりゃあすごいんじゃないの?」


 と、デイズくんも微妙な答え。


「なんだよ、はっきりしないな。そもそも貴族ってなんだよ、どういう人が貴族になれるんだよ。わっかんねーな」


 貴族だからってあんなふうに偉そうにされちゃあ、たまんねえよな。


 とはいえ今回はこっちにも悪い部分があるからな。素直に聞いてたけど。


 でもなあ……なんというかなあ……こっちは疲れて帰ってきたんだからあんなふうに文句言うことないよね。というかあいつ、文句言うために起きてたの? 暇なの? それとも不眠症かなんかか?


 イライラしたまま拠点の中へと入ってく。


 廊下のそこらへんに冒険者たちが寝転がっているのでそれを踏まないようにする。


 あいている場所を見つけて寝転がる。


 あと1時間でも寝ていたほうが良いだろう。


 そう思って目を閉じたところ、いきなり横から声をかけられた。


「おつかれさん」


 フェルメーラの声だ。


 毛布にかくれた顔から、特徴的な鷲鼻わしばなが少し見えている。


 どうやらこの場所は、俺が拠点を出ていく前と同じ場所だったらしい。疲れているんだな、ぜんぜん気づかなかった。


「おう……」


 目を閉じて答える。


「ちゃんと連れ帰ってこられたのかい?」


「けっこう大変だったけどな。なんだ、起きてたのか?」


 エルグランドといい、フェルメーラといい。夜が明けたらまた行軍だぞ、大丈夫かよ。


「いや、いま物音で起きたのさ」


「そうか、それなら良かった」


「なにがいいもんか、起こしやがって」


「ごめん」


「まあいいけど。それでどう大変だったんだい?」


 それを聞いてなにか良い事があるのかな、と思ったがけど。まあ寝る前の無駄話だと思ってのってやることにする。


「なんかな、キング・モーズーってやつと戦ったんだ」


「キング・モーズー? あの、殺した獲物を木に串刺しにするモンスターか」


「そうなの?」


 そういえば森の中でそんな光景を見たな。そうか、あれはキング・モーズーがやったことだったのか。


 周りで寝ている人がいるから、俺たちは小声で会話する。


「倒したのかい?」


「倒した」


「すごいね、1人でかよ」


「いや、2人がかりで」


 それでもすごいさ、とフェルメーラは言ってくれる。


 まあ悪い気分じゃない、人に褒められるのは。


「よし分かった、明日になったら美談としてみんなに流そう」


「え、なにそれ」


「部下のために体をはって助けに出る隊長、これはみんな喜ぶぞ」


「やめてくれよ、恥ずかしい」


 褒められるのは嫌いじゃないかもしれないけど、周りから祭り上げられるみたいなのはなんだか嫌だ。


「なあに、そういうのも大切になるのさ」


 なにか言い返してやりたかったが、睡魔が襲ってきた。


「……起きれないかもしれないから、日が出たら起こしてくれ」


 それだけ言うのが限界だった。


「ああ、僕にまかせてくれたまえ」


 フェルメーラの声を聞いて、俺は眠りに落ちていく。


 ……ふわふわとした感覚。


 そして、俺は、夢を見た。


 夢の中で俺はシャネルと一緒にいた。


 べつに一緒にいてなにかしていたわけではない。会話すらしていない、ましてエッチなことをしていたわけでもない。ただ一緒にいて、2人でアパートの部屋の中にいただけだ。


 だというに幸せだった。


 もしかしたら俺、シャネルに会えなくて寂しいのかな? たぶんそうだろうな。


 ……そして、朝になり。


 フェルメーラに叩き起こされた俺。


「ぜんぜん寝た気がしねえぞ」


「実際あんまり寝てないからね」


 それでも行軍は始まるのだから、軍隊というのは無情だ。


 俺たちは今日も歩き出す。


 戦いの場に向けて。


 目指すはテルロン。


 その場所になにがあるのか、俺たちは何も知らない。


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