405 デイズくん発見、そしてキング・モーズー出現!
ガリガリと、なにかを削るような音がした。
地鳴りがして、衝撃が伝わってくる。
巨木が倒れた音だと気づいたとき、冷や汗が出た。
――敵はデカイのか?
悲鳴はもう聞こえない。デイズくんはどうなってしまったのだろうか。
また、木が倒れる音がした。地面が揺れている。そして、聞こえる、怪鳥音。
出来損ないのカラスの鳴き声みたいな音で、俺の肌はブルブルと震える。なんて大きな鳴き声か!
「いるな、すげえのが!」
嫌な予感がビンビンする。
これから俺たちは死地におもむくのだと、察しの悪い人間だろうが分かる。
「デイズ待ってろよ!」
馬を走らせる。悲鳴が聞こえた方向はわからなくなっても、木々がなぎ倒される音がする方向に行けば良い。
やがて倒木が大量にある場所に出た。
なんだ、これは!?
どうするべきか分からず、俺たちはとりあえず馬から降りた。
木が倒れる音はもうしない。それに、悲鳴も――。
そう思っていると、なにかが上空で飛び上がった。
まだ倒されていない木の上から、黒い影が落ちてくる。
落ちてきたそれはどうやら人のようで。
「ルークス!」
いきなり、ルークスに抱きついた。
「デイズ、無事だったか!」
「うん、うん」
俺はほっとした。どうやら落ちてきたこれがデイズくんらしい。
……小さいな。身長はたぶん140センチくらいだろう。小学生くらいに見える。
大きな、黄金色の目をした少年だ。白い髪――というよりも毛並みをしている。頬には小さなヒゲのようなものがあり、なんだかネズミみたいな子だと思った。
ネズミといってもドブネズミではなく、ペットショップに売っているようなモルモット……あ、これぜんぜんフォローになってねえな。
「ルークス、ボロボロじゃないか!」
「ああ、さっきヘルウルフに襲われてな」
ちなみに、俺のほうは血はすでに止まっている。なんなら傷が治りだしている。
自分の治癒能力とはいえ、ちょっと怖いくらいだ。
「大丈夫なの?」
「ああ、シンク隊長に助けてもらった」
いまさら俺に気づいたわけでもないが、デイズくんは俺を見てペコリと頭を下げた。
「ど、どうも」とおどおど言ってくる。
なんだか恥ずかしそうだ。
「えっと、榎本シンクです」
と俺も頭を下げた。
「あっ、知ってます」
「デイズくんだよね? いちおうこっちもルークスから聞いてる」
この幼い容姿ならまあ、「くん」付けでよかったな。
「シンク隊長はお前のことを心配して、一緒に探しに来てくれたんだ。ありがとうってお礼を言えよ、デイズ」
「う、うん。ありがとうございます。あの、ルークス?」
「どうした?」
「ちゃんと謝ったの?」
いきなりそれが気になるか。俺はちょっと微笑ましく思う。
ルークスはなかなか男気があるやつだが、デイズくんは逆で優しい少年らしい。
「謝ったさ」
俺はニヤニヤと笑いながら、ルークスの腰を小突く。
ルークスはきまり悪そうにこちらを見てから、頷いた。
「あのな、デイズ」
「なんだよ、ルークス。あらたまっちゃって」
「いや、あの。悪かったなデイズ。その、お前の言う通りだよ。俺はシンク隊長に謝った方が良かった。あんなふうにいきなりケンカ売っておいて、しかも負けてなにもなしじゃあな」
「うん、うん。シンクさん、僕からもごめんなさい。ルークスがいきなりあんなことして」
「いや、俺は気にしてないよ」
それよりも気になるのは……周囲の木だ。
いや、冗談ではなく。
こんなのん気に話している場合などないのだから。
「ありがとうございます、シンク隊長」
「さ、感動の再開も済んだところで。逃げるぞ」と、俺。
「そうだった。デイズ、さっきの悲鳴はどうしたんだ。なんかあったのか」
「キング・モーズーが出たんだよ!」
キング・モーズー?
なんかすごそうだな、なにせキングだ。
俺は笑いそうになったが、ルークスの表情があきらかに冗談ではなさそうだ。
「まずいな。シンク隊長、いますぐ逃げましょう」
「お、おう」
そんなにすごいの、キング・モーズー。
「デイズ、俺の方の馬に乗れ。お前は軽いから2人乗りで大丈夫だろ」
「うん」
「なんでもいいけど、キング・モーズーってどんなモンスターなんだ?」
とりあえず聞いてみる。
「大きな鳥です」と、デイズくん。「けど、巨大化しすぎて自分の羽じゃあ飛べないんです」
それを鳥と言ってもよいのか?
進化、失敗してませんか?
「好戦的なモンスターで、普通だったら冒険者8人、つまり2パーティーくらいで倒すもんなんだけど……」
「俺たちはいま3人か。でもデイズくんは逃げてたんだろ?」
「僕は木の上を飛び回って逃げていました。キング・モーズーは空を飛べないので」
なるほど、だからそのモンスターは木をわざわざ倒していたのか。
で、そのキング・モーズーはどこに行ったのやら。
俺たちは馬に乗るのだけど。
その瞬間に「キィツッー!」というまさに怪鳥音が響いた。
思ったよりも近い!
「いまの、キング・モーズーか!?」
「どう考えもそうだな。シンク隊長、全力で行くぞ!」
「ほいさっ!」
俺は馬に早く走れと馬を急かす。馬の方も危機感を抱いているのか、さっさと走ろうとした。
だが、俺はすぐに、
「止まれ!」
と叫んだ。
嫌な予感がしたのだ。
俺の声で、2頭の馬は走り出そうとしていた体を急停止させる。
そして次の瞬間、俺たちの前になにかネバネバとした液状のものが飛び散った。
その液体はあきらかにやばい音をたてて木や地面を溶かしている。
「溶解液だよ!」と、デイズくんが叫んだ。
「そんなもんを吐くのかよ!」
聞いてないよ、それ先に言ってよ、というかなんで鳥がそんな気持ち悪い液を吐くんだよ!
ツバか、ツバなのかキング・モーズーの。
バリバリと音をたてて、木をなぎ倒しながら巨大なモンスターが現れる。
キング・モーズーだ。
ちょっとした一軒家くらいの大きさのそれは――。
「鳥ってこれ、ヒヨコだよ!」
そりゃあ飛べないだろとつっこみたくなるような容姿をしていた。
キング・モーズーはギョッギョと鳴きながら俺たちの前に立ちふさがる。
「シンク隊長、どうするよ!」
「どうもこうも――」
戦うか逃げるか、二者択一。
とはいえ逃げようと背中を向ければあの溶解液がとんでくる。戦うしか、ないのか。
ルークスも覚悟を決めたらしい。
「デイズ、馬をどっか遠くへやっておけ」
と、自分は馬から降りた。
「帰りの足は必要だからな」
と、俺もさも余裕があるように言って、ゆっくりと降りる。
キング・モーズーのやつはその間も、待っていてくれた。というよりもあざ笑うかのように低く鳴いていていたのだが。
「た、戦うの!? ルークス、まずいよ!」
「なあに、こっちにはドラゴン討伐だってした男がいるんだ」
してないんだけどね。
でもまあ、嘘も方便っていうし。
「そういうことだ!」
と、イキってみた。
こういう巨大な敵には先手必勝に限る。
俺は腰だめに姿勢を落とし、魔力を構える。
いくぞ、必殺技だ。
「隠者一閃――」
高らかと宣言するように叫ぶ。
そのまま刀を抜き放った!




