301 酒場で共同戦線
「というわけで、酒場でーす。2人ともなにを飲むんだい?」
なぜか仕切るココさん。
「よし、シンクくん。作戦を説明する」
「はい?」
いきなりフレンドリーなフェルメーラ。
「まず僕たち2人でビビアンを酔わせる。いいかい、共同戦線だ」
「なるほど」
分からん。
なに言ってるんだ、この人。
ココさんはじつに興味深そうにテーブルに肘をおいて聞いている。
「そしたらビビアンを2人で連れ出す。大丈夫、この近くには連れ込み宿があるから」
ちなみに、俺たちが来たのはこの前の酒場とは別だ。
あっちは革命家が集まるとかでかなりヒートアップした会話がかわされていた、俺たちがいまいるのは中級の酒場といった感じ。
それなりの酒や料理をだす。
そしてそれなりの女がいる、体を売る。
じつはこのドレンスでは裏ワザ的な、酒場の格を見抜く方法がある。それは体を売っている女――春をひさぐという言い方があるらしいよ、シャネルに教えてもらった――がどれほどのものかを見れば良いのだ。
高級娼婦なんかがいれば、すなわち高級店。
安っぽい女がいれば安い店。
そしてここは、そこそこだ。
普通ならテーブルに女が来たりするものだが、いまはココさんがいるのでそんなこともない。
「そういう感じで。とりあえず強い酒を頼むぞ。大丈夫、2対1だ。絶対に酔わせられるさ!」
「……勝手にやってくださいよ」
だってこいつ、男だぜ?
そもそもさ、ココさんを酔わせてお持ち帰りってできる気がしねえぞ。シャネルを例にして考えた場合だけど。
「ふふふ、これは楽しいことになってきた。店員さん、とりあえずワインをじゃんじゃん持ってきてくれたまえ!」
「さあ、行くぞシンクくん!」
「あんたもなかなかすげえよ……」
普通、こういう作戦ってトイレとかでこっそりするもんじゃねえのか?
ほら、合コンの作戦会議って基本トイレじゃない? いや、俺はそもそもそんなの行ったこと無いけどさ、だって引きこもりだし。そもそも高校生だったし。
ココさんが言った通り、ワインがじゃんじゃんくる。
ふと思ったのだが、俺たち3人の身なりは全員それなりに良い。それこそ高級娼婦のいる酒場に行っても良いくらいに。
だから、店側も稼ぎ時だと思ったのだろう。
「さて、では乾杯だ」
「乾杯!」
「……乾杯」
言葉を発した順番は、ココさん、フェルメーラ、俺だ。当然わかるよね?
「それでキミたち、私を酔わせてどうするつもりだい?」
「そりゃあ僕だけ天使よ、キミとねんごろになりたいのさ!」
あれ、さっきと呼び方違いません?
というかもしかして、ココさんをお持ち帰りするためだけにいつもと違う酒場に来たのだろうか。
「そうかいそうかい、ちなみに提案なのだが――」
ココさんの目が怪しく光る。
「なにかな?」
と、フェルメーラは格好つけるように髪をかきあげた。
「ここの支払いは最初に潰れた人間ということにしようじゃないか」
「い、良いとも。シンクくんも良いよね?」
「えー」
俺、無理やり気味につれてこられたんだよ?
むしろおごりで良いくらいでは?
しかし嫌だとか言ってもノリが悪いと思われそうなので、頷いておく。
「よしよし、じゃあ飲もうねー」
上機嫌のココさん。
この人、でも酔うんかな?
逆にフェルメーラはもう酔ってるぞ。これ、あきらかに不利だよね。一瞬で潰れちゃうんではないだろうか?
「それにしても魔王の復活とは驚いたね、シンクくんは冒険者だろう? そこらへん、どうなんだ?」
「どうって、なにが?」
酒を入れて、酔いに任せてタメ口。それで怒るような人でもないみいだ。
「やっぱり魔王を倒したいとか思うのかい?」
「いや、まったく、ぜんぜん」
いちおう、シャネルには釘を差されている。
自分たちが魔王を討伐するクエストに出向くことは隠したほうが良い、と。
いちおう、アパートの管理人であるタイタイ婆さんにまで言っていないのだ。
「魔王かぁ……」
ココさんは夢見るように天井を見て、ワインを一口。
「そういやココも冒険者でしょう?」
「ココ?」
フェルメーラが不思議そうな顔をする。
そういえばこの人は知らないのか。
「あ、いや。ビビアンも冒険者でしょ」
「いちおうそういうことになっているね、最近はまったく活動していないけど」
「ランクは?」
「さあ、そういうのは気にしていないから。Bくらいだったと思うけど」
そうか、ならば魔王討伐のクエストはギルドカードに届いてないだろうね。
「ちなみにシンクくんは?」
「あ、いや。まあそれくらいっす」
なんかあれだよね、ここでSランクですなんて言ってもいやみったらしいよね。
なので俺は隠した。
「もっとも、あんなもの高いと緊急クエストみたいなのを頼まれるからね。大変なもんさ」
ちらりと、ココさんは俺を見る。
――この人、もしかして?
分かっているんじゃないのか、魔王討伐のクエストがあることを。
なんの根拠もない、ただの勘だ。けれど俺の勘はよく当たるんだ。
まるで試すようにココさんは俺を見ていた。
「我々はこの期に乗じて革命を起こすようなやつらは好かないがね」
フェルメーラさんが、得意の革命の話をする。
俺はそもそもいまのドレンスで革命とか、そういうのよく分からない。だってこの国は現状、それなりに上手く言っていると思う。
「まーた始まったよ、革命の話だ」
「いいだろう、それが僕たちのなすべきことなんだから。なあ、シンクくん」
「ノーコメント」
知らない、って言ってるだろ。
「では少々、革命の話をばさせていただきます」
フェルメーラは下手な道化のように立ち上がり、俺たちに頭を下げた。
ココさんがお情けの拍手をする。
俺も真似してみた。
革命ねえ――まあ聞くだけだぞ?




