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215 人殺しの会議


「さて、ここにお集まりのになっているのはみな腕利きの殺し屋、あるいは裏稼業の人間です」


 シノアリスちゃんが仕切るように話を始める。


「私たちは違うわよ」


「そうだな、俺たちはただの冒険者だ」


 シノアリスちゃんが揚げ足を取らないでくださいよ、とジト目でこちらを見つめる。はいはい、分かったよ。黙りますよ。


「全員、お金さえ払えばどんな汚れ仕事でも引き受ける。それがたとえ――神殺しのような大罪であろうと。違いますか?」


 愚問だな、と5人全員が頷いた。


 俺とシャネルはどっちかといえば蚊帳の外だが。


 なんだよ、こいつら。けっきょく金目当てで集められただけの無法者どもか。


「依頼の内容は事前に説明してあるとおり、一人一殺です。コンクラーベの候補者は現在、4人。そしてここにいるのが5人。ブンとフンさんは2人で1人の殺し屋ということで、1人分としております。誰が誰を殺すかはこちらとしてはどうでも良いことです。とにかく候補者全員を抹殺することが、我々異教徒の目的です」


「質問なのだが――」


 老人が手を挙げる。


「はい、オルドさん」


 オルドと呼ばれた老人は疲れたような視線をシノアリスちゃんに向けた。


「そもそもどうして私たちに依頼した? テロなど異教徒の者たちでおこせばいいだけではないのか?」


「うふふ、それも正論ですね。人様の力を頼るというのはわたくしどもとしても本意ではありません」


「ではなぜ? しょうじき言って私は不安なのだ。依頼を完遂した後、きみたち異教徒に消されるのではないかと」


「そんなことはしませんよ。しかしそこまで言うならご説明します。単純なことです、私たちだけの力ではどうしても教皇候補の司教共を殺せなかった。それだけです」


「なるほど、納得した」


「はは、爺さん心配症だな。俺は別にことが終わったあとに金さえ渡してくれりゃあ、刺客を放たれてもいいぜ。全部返り討ちにしてやるからよ」


 ナイフ使いの男が威勢のいいことを言う。


 やめたほうが良いのに、噛ませっぽいから。


「ねえ、そっちのお兄さんたちはなにするのぉ?」


 痴女みたいな格好をした女性が言ってくる。


「なにするのって……べつに私たちは付き添いできただけよ、シノアリスの」


 え、そうだったの。


 いや、俺はただ火西を殺すためにここに来たんだけど。


「うふふ、私たちは3人で教皇の命を狙います」


 シノアリスちゃんが言った瞬間、5人が息を呑むのが分かった。


「おいおい、マジかよ……」


 と、ナイフ使いの男が言う。


 なにをそんななに驚いているのか。べつに教皇を殺すのも教皇候補を殺すのも一緒だろ?


「あなたたちぃ、天罰をうけるわよ」


 痴女さんはねっとりとした言い方で、俺たちを心配してくれる。心配してくれているんだよな?


「うふふ、私たちは異教徒です。ディアタナの裁きなど怖くはありません。ねえ、お兄さん、お姉さん」


 なんか仲間に入れられてるし……まあいいか。


「とりあえず私たちは教皇を、雑兵どもは候補者を殺すと。ふうん、分かりやすいじゃない」


 シャネルさん、シャネルさん、その言い方ひどいですよ。


 じっさい、5人から怒りのオーラを感じた。


 嫌な予感。最初に動いたのはナイフ使いの男だった。


「調子にのるなよ――」


 と、言いながらナイフを投擲してくる。


 その軌道を俺は冷静に予測する。が、そんな予測よりも早く俺の手は勝手に動いていた。


 シャネルを守るように刀を抜き、中空でナイフを切り落とした。


 その後に気づいたのだが、このまま俺が切り落とさなければナイフはシャネルの顔面スレスレを通っていただろう。たぶん、頬のあたりが少しだけ斬れていたはずだ。


「えっ?」


 ナイフ使いの男はまさかナイフを切り落とされると思わなかったのだろう、素っ頓狂な声をあげた。


 俺は怒りに冷静さを失いそうになるところを、なんとか水のような精神でもって抑えた。


 代わりにモーゼルを引き抜き、3発弾を発射させる。


 その弾は全て、ナイフ使いの男の頬スレスレを通った。


「ほう」と、オルド老人が感嘆する声をあげる。


「次にふざけたことをすれば、当てる」


「けっ! ま、まぐれ当たりのくせに」


「そう思うならもう一度試してみるか?」


 俺の言葉に、ナイフ使いの男は明らかに気圧されていた。


 当たり前だ、役者が違うんだよ、役者が。


「シンク、べつに私は気にしてないわよ」


「ふんっ」


 そりゃあそうだ、シャネルだってナイフの軌道からは身をかわしていた。それくらい俺だって分かっている。だとしても、許せることではなかった。


「まあまあ、仲間割れは辞めてください。お兄さんも剣をおさめて」


「仲間? このさいだからはっきり言っておくが、俺はここにいるやつらなんて全員仲間だとは思ってない。この人殺しどもめ」


「うふふ、お兄さんったら」


 シノアリスちゃんは困ったように笑って、そして俺のことを後ろから抱きしめた。


 腰回りにシノアリスちゃんの暖かさを感じる。


「なんだよ」


「いいえ、ただこうしたかっただけです。それではみなさん、ターゲットの情報は追ってご連絡します。安心してください、みなさんの適性を考えてこちらで選びますので。あ、もし手助けなどがいるのでしたら信者の中から人足を出しますので、そのときはそう言ってくださいね」


 ということで、会議は終わった。


 まあすったもんだの騒動はあったが、会議はすぐ終わったんじゃないか?


 俺は部屋を出ていく人殺しどもを見つめる。


「ちょっとシノアリス、いつまでシンクにくっついてるのよ」


「うふふ」


「もうくっつく必要もないでしょ」


「……もう少しだけ」


 シノアリスちゃんはただ俺を抱きしめているだけかと思えば、それは違った。俺が少しでも動けば持ち前のリボンで動きを制御するつもりだったのだろう。


 だからこそ、5人が出ていったいま抱きついている必要はないはずだ。


「離れなさい!」


 シャネルが魔法を撃とうとする。


「お、おい待て!」


 こんな場所で火属性魔法を使えばみんななかよく丸焼きだ。


 シャネルは不満そうな顔をして、


「シンクは私のものなのよ!」


 と、言う。


 べつにお前のものではない。


「うふふ、私にも誰かナイフを投げてくれないですかね」


「べつにシンクは助けないわよ。ねえ?」


「いや、助けると思うけど」


 というかさっきのは半分、自動で動いたようなもんだったけどな。


 あ、やばい。素直に言い過ぎた。シャネルが不機嫌になっている。でも嫉妬しているシャネルも可愛いな。


 にしてもなあ。大丈夫かよ、あの5人の殺し屋。


 どう見ても噛ませ犬なんだよなぁ……。


 ま、相手からしたら俺もそう見えてたりしてな。


 人間、自分のことは客観的に見られないものである。


 はてさて、どうなることやら……。


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