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194 パーティー会場へ


 さて、夕方になり俺たちはチャリティーパーティーの会場へと向かう。


 実は依頼を受けるとき少しだけしぶられた。


 なんでも俺たちの冒険者ランクというのが「D」ランクのためこの依頼には適さないということらしい。


 しかし人手不足もあり、頼みこんだらなんとか依頼を受けさせてもらえた。


「ギルドランクか……あんまり気にしたこともなかったけど。もしかして上げた方が良いのか?」


「さあ、知らない」


 だろうな。


 でも俺たち、これまでいろいろと冒険してきたけど、しょうじき冒険者ギルドを介してのことなんてほとんどしてこなかったしな。


 これからは冒険者うんぬんでやっていくのも良いかもしれないな。


 なーんて考えていると、水上パーティーの会場である船が見えてきた。想像していたよりも大きな船。この大きさならたぶん、外国まで行くことだってできそうだ。


 このロマリアの街には運河がある。それはかなり幅の広い川だ。


 その広い川いっぱいに、船は停泊していた。


 チャリティーというこもありドレスコードさえ守れば誰でも入ることができるようだ。俺はシャネルに選んでもらったジャケットを着ている。なれないから動きにくいし、腰にさした日本刀がいかにもアンバランスだ。


「身分を証明できるようなものはありますか?」


 桟橋の前の受け付けで聞かれる。


「冒険者ギルドから紹介されました」


 シャネルはギルドカードを取り出す。基本的に俺たちの身分証はこれだ。


「連絡は受けております、エノモトシンク様。シャネル・カブリオレ様ですね」


 受け付けの男はいかにも言いづらそうに俺の名前を発音した。


「どうも」と、俺は頭をさげる。


「本日はチャリティーということで不特定多数の人がこちらの船上にやってきます。お2人にはその警備ということで怪しい人間をとらえていただきたい」


 詳しい話はこちらで――船の中に通される。


 桟橋を歩き、甲板から中へ。


 古い時代の木造船だ。


「パーティーはいつからかしら?」


 シャネルはそんなことを俺に聞いてくる。


 甲板の方ではいままさに準備をしているところだった。


「知らんけど暗くなってからじゃないのか」


「この部屋でお待ちください。警備のものを呼んできますので」


 どうやら俺たち以外にも警備担当の人たちがいるようだ。


 質素な部屋に通される。


 なんだここ? もともとは船乗りたちの休憩室かなにかか? テーブルと椅子、それに簡素な木組みのベッドがあるだけだ。


「にしてもよ、シャネル」


「なあに?」


 俺は椅子に、シャネルはベッドに腰をおろす。


「その格好、どうなの?」


 シャネルが着ているのはこの前の水兵服。もとい、セーラー服。ちなみにロリィタな改造が加えられております。


「なにか問題でも?」


「いや、だってドレスコードって……」


 どこいったのさ?


 そのために俺はジェケット着てきたんだろ。


「まあまあ、文句は言われなかったんだから」


「そうだけどさ……」


 あれか? 水上パーティーだから良いのか? 変なの。


「どうかしら、この服? 可愛い?」


「はいはい、可愛いよ」


 ちなみにこう言わないと怒ります。


 逆に言えば機嫌が良いのでね、ある意味楽といえば楽。


 部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」と、俺は言う。


 入ってきたのは僧侶の格好をした男。


 そのわりには筋肉もりもりのマッチョマンだ。


「こんにちは。あなた方が本日、司教様の護衛をお手伝いしていただける冒険者の方々ですね」


 俺はその顔を見て、ふと昔のことを思い出していた。


 特徴的なハゲ頭、人の良さそうな顔、そしてなにより僧侶にしては付きすぎた筋肉。


 この人は俺が昔、勇者であった月元をぶっ殺したときの依頼――ドラゴン討伐で一緒にパーティーを組んだ僧侶とそっくりだ。


 名前も覚えていない男だが、それでも俺が初めて一緒にパーティーを組んだ男だ。顔はよく覚えている。あのときはそう、スピアーもいたんだ。


「どうしましたか? 私の顔になにか?」


 僧侶の男は不思議そうに俺を見る。


「あ、いえ。ずいぶんと知り合いに似ていたもので」


「知り合い? ああ、もしかして兄を知っているのでしょうか? 私の兄は冒険者でしたが」


「やっぱりですか! いや、ずいぶんとそっくりですね。もしかして双子ですか?」


「そうです。あの、兄のことは聞きましたか? その、一年ほど前にドラゴン討伐の依頼で命を落としたのです」


「……はい」


 そりゃあ知っている、その現場に俺もいたのだ。


「兄のことは残念でしたが、しかし兄の魂はいつでもわれわれとともに居てくれますから」


 いかにも宗教家らしい言葉だった。


 そんなことを言われれば俺は頷くしかない。


「それで、そんな話は置いといて私たちは今日、どうすればいいの?」


 そんな話で流せるような会話でもないと思うのだが……。


 でもこのまま話を続けても辛気臭くなるだけだろうから、まあグッジョブだ。


「はい、私たちはいかにもな警備をしますので、お2方には参加者に混じってそれとなく怪しい人間を探ってほしいのです。チャリティーですので本当にいろいろな方が来られます。とにかく司教様の安全を第一にしてほしいのです」


 つまりはてきとうにパーティーを楽しんで怪しい人がいたら捕まえる。


 なんだ、簡単な依頼じゃないか。


 ちなみに報酬はあんまり多くなかった。俺とシャネルが一晩楽しんで飲み食いしたら無くなる程度。妥当かな。


「いちおう聞くけど、相手を殺しちゃったりしただダメなんですよね」


 なに聞いてんだ、こいつ?


「当たり前です」


 当たり前だよな。


「そう」


 じゃあ私にできることないわ、とばかりにシャネルは肩をすくめた。


 言われてみればそうだな、よく考えたら船上でシャネル役立たずだぞ。だって高火力の火属性魔法ぶっ放すしかできないんだから。


「それではお願いします。パーティーはあと半時間ほどで始まりますので」


 分かりました、と俺たちは頷いた。


 僧侶が出ていく。あ、名前聞くの忘れた。ま、どうでもいいか。


「なんでもいいけどよ、僧侶って言う割にはマッチョだったよな」


「武僧ってやつね。あの人たち、高山で修行してるのよ。タッタラ山って知ってる?」


「知らない」


 けど大変そうだな。


 現代知識でいうところの高山トレーニングか? そりゃあ強くなれそうだ。


「にしても武僧かあ。それにさっき司教様って言ってたわよね?」


「言ってたね」


「もしかしなくてもこのパーティー、思ったよりも位の高い人間が主催だわ。となると、テロの危険もぐっと増すことに……」


「あんまり怖がらせるなよ。俺もうアルコールちゃんとお友達になって暴飲暴食をつくすつもりでいるんだからね」


 なんせ無料の飲み放題食べ放題パーティーだ。


「ま、少しは気をつけてね。あんまり飲みすぎちゃダメよ」


 それは明日、二日酔いになった俺に言ってくれ。


 はい、そうです。ダメ人間です。



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