181 最高に美人で優しくてキュートで最高な女神のアドバイス
村にもどったころには空はすっかり暗くなっていた。
俺たちは馬車の停まっている家を探す。それはすぐに見つかった。
ノックすると、御者の男が出てきた。
「お帰りなさいヨ」
「家の人は? 挨拶しなくちゃ」
「いないアル」
いない? と、俺達は顔を見合わせる。
「ここ空き家。そこ貸してもラったヨ」
「空き家ねえ……」
「前の持ち主、疫病で死んだとか言ってたヨ」
「……おい、それ大丈夫なのか」
疫病ってうつるんじゃねえのか?
勘弁してくれよ。
「まったくひどい村ね。旅人に疫病で死んだ人間の住んでいた場所をあたえるなんて」
「でもみんな、なんか知らないけど優しくなくて……ごめんね、わたしの力ぶそくネ」
「どうする、シャネル。いまから山道また歩くのも面倒だけど」
「そうね」
「熱で消毒とかできねえのか?」
「熱で消毒? よく分からないわ」
うん? 火炎殺菌とか知らないのか。さすが中世だぜ。いや、この異世界が中世なのかかなり疑問に思えてきたけど。
まあ、そもそもシャネルの魔法で殺菌しようと思ったら、この家が消し炭になるだろうけど。
さて、どうしたものか。
寝床は必要、しかし疫病がうつるのは勘弁。
こんなときはどうする?
そうだね、アイラルンだね。
俺は心の中で最高に美人で優しくてキュートで最高(2回目)な女神様を呼ぶ。
(アイラル~ン)
するとあら不思議、時間が停まって俺の背後には超絶美人な女神様が!
「うふふ、朋輩もわたくしの扱いが分かってきたようで」
「お褒めに預かり光栄ですよ、女神様」
「それで本日はどのような案件で?」
もちろん、俺たちの会話を聞いている人間はいない。
なぜなら時間が停まって、誰もかれもが死んだように停止しているからだ。
「いやね、なんかこの村の人たちがかしてくれた家なんだけど。前まで疫病の人が住んでたとかで」
「ほうほう。話はだいたい分かりましたわ。つまりそういった仕打ちをしたこの村の人に復讐したいと、そういうことですわね」
「いや、違うからね」
人の話しは最後まで聞こうね。
「え、違うんですの?」
「違うよ!」
「しかし因には業を――おこないには必ず結果がついてまわるものです。そういうように他人をないがしろにしたのですから復讐されても仕方がないのでは?」
「べつに俺としてはこの家に住んでも大丈夫なのかってことを聞きたかっただけなんだけど」
「あら、そんなことですか」
「そういうのって……分かる?」
「わたくし、そういうのは専門とは違うのですけど。でも分かりますわよ」
「分かるのか!」
「まあ。行動にともなう結果というのはわたくしの司る部分の一部ですからね。もし朋輩がここに泊まったとしても疫病はうつりませんわよ」
「おー」
ありがとう、と俺はアイラルンに握手を求める。
アイラルンは差し出された手をとらず、微笑みで返事をした。
「ちょっと恥ずかしいですね。というか朋輩、これはわたくしの予感なのですが疫病うんぬんは嘘ではありませんの?」
「え?」
「だって朋輩、この家の前で嫌な予感とか、しましたか?」
「……してないな」
言われてみればそうだ。
もしもこの家がそんなにやべえなら『女神の寵愛~シックス・センス~』が発動して嫌な予感がしても良いものだが。
俺の勘はよく当たる
逆に、その勘がなにも告げないということは……大丈夫ということか?
難しいなあ、感じないからこそ分かることもあるということか。
「でもなんでそんな嘘ついたんだろうか」
「ただの嫌がらせですわ、きっと」
「嫌がらせねえ……なんか陰険だなこの村の人」
それとも、シャネルが外国人なのがそんなに気に入らないのだろうか。
「朋輩、田舎とはそういうものですわ」
「それはそれで各方面から文句が言われそうだけど……」
というか俺だってべつにシティボーイというわけじゃないぞ。どちらかといえば田舎出身だ。
「なんにせよ朋輩、安心してくださいまし。病気になんてなりませんわ。それにこの村の人もバカではありませんわ。本当に疫病が出ていたならいまごろこんな家は焼き払われておりますよ」
「そうか、べつに消毒みたいな文化はなくても火に殺菌の効果があるってのは知られてたのか」
「もちろんですわ、人間そんなに愚かではありません。昔から火には浄化の作用があると信じられておりましたし、それを信仰する人々もいたくらいで――」
話しが長くなりそうだったので分かった分かったと俺は手を上げた。
「とりあえずそういうことね」
「そういうことですわ」
では、とアイラルンは頭を下げて消えた。
いやはや、本当に便利なお助けキャラだよな、アイラルンは。
さて、動き出した時の中で俺はひとつ咳をして声の調子を整える。
「ここ、泊まろうか」
「あら、良いの?」
「大丈夫、どうせ疫病なんて嘘さ。もし本当に疫病が発生してたら家ごと焼き払うだろ?」
アイラルンに聞いたことをそのままパクる。
たしかに、とシャネルは頷いた。
「冴えてるわね、シンク」
「まあな」
というわけで泊まることに。
しかしまあ、ボロい家だ。それでも部屋はいくつかあって、奥の部屋に俺たち、手前に御者の男が寝ることになった。
「どれくらいこの村にいるカ?」と、御者は眠る前に聞いてくる。
「とりあえず……そうだな。ドモンくんを説得して、刀をうってもらってだから……一週間くらいかな」
あれ、でもそもそも刀ってどれくらいの期間でできるんだ?
なんか結構時間とかかかりそうだけど。
それとも異世界の素敵な魔法とかでけっこう早くできたりするのだろうか。
「なんにせよ長丁場アルネ」
いや、案外早く終わるのではないだろうか。と俺はなんとなく勘で思う。
本当になんの根拠もないのだが。
ふわり、とシャネルがあくびをした。手の甲で口を隠して、なんだか色っぽい。
「寝るか」と、俺。
御者の男はゴロンと横になる。
俺とシャネルは奥の部屋へと入っていくのだった。
……余談であるが。
異性と一緒に寝ることを同衾と言う。
ここでいう寝るというのはスリープのほうであると同時に、エッチな意味もある。
エッチな意味……。
同衾……。
なんだろうか、童貞としてはこの言葉だけでなんだか卑猥に感じられる。
ま、俺はシャネルと同衾なんてできないんだけどね。
できるのはせいぜい添い寝。
まったくいつになったらエッチなことができるんでしょうね。それは神様にだってわからないのかもしれない。




