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177 武器屋にて日本刀を発見


 俺たちが向かったのは、街の武器屋だった。


「武器?」


「ああ、そうだ。モーゼルの弾を買いにな」


「弾ねえ……そんなの適当なやつに買わせれば良いんじゃんねえのか?」


「ところが俺様の場合はそういかねえ。普通の弾丸じゃあ、俺様の打ち出す力に耐えられなくて粉々になっちまう」


「ふーん、魔弾ってやつか」


 ティンバイの特異体質――つまりはスキルだ。


 彼が打ち出す弾丸は魔力をおびる。それは通常の弾ではとうてい貫通できないようなものでも撃ち抜くことができるのだ。


 それにしても不思議なスキルだった。


 いわゆるところのユニークスキルというやつだろう。俺の知る限りティンバイだけが持っているスキルだ。


 もっとも、自分でもどうしてそうなるのかは分かっていないらしいのだが。


「特注品しか受け付けねえんだよ、こいつが」


 ティンバイはモーゼルをかかげた。


 父親から譲り受けたというモーゼル。いや、譲り受けたなんて優しい話ではないだろうが。


「まあ、なんにせよ武器屋か。あ、そういやティンバイ。俺、今日誕生日なんだよ」


「うん? ああ、そうかい。おめでとう。いくつだ?」


「18」


「なんだ、お前まだ18かよ。青いな」


「青くないわい」そもそも青いってなんだよ、青いって。「青春とか意味わけんねえよ」


 なんだよ、青い春って!


「なんだよ、兄弟。そんなことも知らねえのかよ」


「あん?」


「陰陽五行だよ、知らねえのか。春は青、夏は赤、秋は白、冬は黒。そう決まってんだよ」


「誰が決めたんだよ」


「さあな、ディアタナじゃねえのかよ。ちなみにそれを年齢にあてはめると15から29らしいぜ。そういう意味じゃあ俺様もまだ青春だな」


 なんにせよ、ルオの国――というか中国的な文化なのか? 青春って考えかた。


 いや、知らなかったわ。


 べつに知らなくてもよかったわ。


「青春か、まったくいつまで若くいられるものやら」


「知るかよ。お、ここだここだ」


 俺たちは街の中心から少し裏手にはいった、ちょっと怪しげな武器屋に到着した。


 なんだ、ここ? 家の壁が割れてるぞ……。


「ここで良いのか?」


「良いんだよ」


 ティンバイは乱暴に武器屋の扉を開ける。そんなことしたら扉が壊れないだろうか。


 入ってみれば中はいかにも武器屋という感じ。


 広さはコンビニくらいだろうか、あんまり大きな店ではない。


「いらっしゃい、攬把ランパ


 店主はティンバイのことを攬把と呼んだ。


 そのわりには愛想の悪い男だ。


 頭が光っていて(ハゲ)、そのぶん筋肉がついているといったかんじ。男性ホルモン強そうだ。


「おう、約束の弾を取りに来たぜ」


「こちらです」


 けっこう大きめの木箱が二つ出てきた。


 ティンバイがその箱をあけて中を確認する。


「いつもながら良い仕事だ」


「ありがとうございます」


 どれどれ、と俺も木箱の中を確認する。


 色とりどりの弾丸が入っている。


 ――色?


「なんでこの弾、色ついてんのさ」


「この方が派手だろ」


「いや、派手だけど……弾でしょ?」


 いや、待てよ。


 そういえばティンバイの撃つ弾はいつも色が違うよな。あれってもしかして魔弾の魔力じゃなくて単純に弾の色が出てたのか?


 花火みたいだな……。


 というか本当にただ目立ちたいだけかよ。


「じゃあこれ、4箱だな。わるいがいつもどおり一輪車を借りていくぜ」


「はい」


「よし兄弟、外の一輪車に運ぶぞ」


「えー」


 不満の声。


 もしかして俺を連れてきたのってこのためかよ。


「あとで飴でも買ってやるからよ」


「子供かよ……」


 と言いつつも、素直に運ぶ俺。


 いやはや、素直で良い子だぜ。


「にしてもよ、こんなの部下にでも取りにこさせればいいだろ」


「なに言ってんだ。馬賊が自分の武器を他人にもたせるわけねえだろ。弾だって同じだ」


「まあ、たしかに分からなくもないな」


 じゃあ俺も誘うなよ。なんだ、一人じゃ寂しいのか?


 とはいえ何も言わない。


 2箱ずつ俺たちは木箱を一輪車に運ぶ。


「そういや兄弟、なんか買ってやろうか。誕生日なんだろ」


「なんだよ、なんかキモいな」


 とはいえ、買ってもらえるのならばと俺たちはもう一度中へ。


 なんか適当な包丁でも買って帰ろうか。シャネルも喜ぶぞ、きっと。


 なんて思って武器を見ていると――すげえもんを見つけた。


「あ、あわわ! こ、これはっ!」


「なんだよよ兄弟、いきなり」


「こ、こっ……これっ!」


 やばい、自分でも語彙力が壊滅してるのが理解できる。


 それくらい興奮してるんだよ、俺!


 だってこれ、この壁にかかったのは――刀だ。


 剣じゃない、刀。


 KATANA!


 うひょ~。


 やっぱりさ、異世界って言ったらエルフ、ついでに刀。あと自動小銃――これはモーゼルだとちょっと貧乏くさいからできればトカレフとかのほうが良かったんだけど、まあ良しとしましょう。


 俺はこの3つを異世界三種の神器と命名します。


 そしてその三種の神器の一つが、今、まさに俺の目の前に!


「曲刀か? ずいぶんと刃が細いな」


「日本刀なんだしこんなもんだろ」


「日本刀? 聞いたことねえな。店長、これ売れてんのか!」


「物珍しさで売れるには売れてますが……ここだけの話クレームも多いですよ」


「クレーム?」


 こんなに奇麗な日本刀なのに。


 俺は手にとってみる。


 うーん、思っていたよりも重いもんだな日本刀って。


「すぐに刃が曲がるとか、かけるとか、折れるとか、もうさんざんですよ」


「そりゃあそうさ」と、俺は抗議する。「日本刀ってのは武器であると同時に芸術品なんだよ。丁寧に使わなくちゃすぐにダメになる」


「芸術品ねえ……兄弟、これほしいのかよ」


「いや、いらない」


 だってフランちゃんからもらった剣があるもの。


 別に二本も剣もってても意味ないし。


「なんだよ、いらねえのかよ。ま、聞く限り不良品だもんな」


「いや、だから不良品じゃないんだってば」


 まったく、ルオの人間は物を丁寧に扱うということができないのか。


「いいか、この日本刀は叩き切るもんじゃないんだよ。切断するものなの」


「そこまでいうなら兄弟、ちょっと実演してみせろよ」


「うん? まあ良いけど――ちょっと鞘もかりるよ」


 俺は鞘を腰に刺し、それから納刀のうとうする。


「鉄も切れるのか?」


「あー、わかんねえ。壊れたらごめん」


「店長、いいよな」


「いいですよ」


 うーん、これもしかして俺たちってかなりDQNな客? いきなり店にきて勝手にやってるって。まあいいや。


「よし、兄弟。これ投げるぞ」


 そういって、ティンバイは小さな片手用の盾をもつ。木の盾だ、枠だけが金属でできている。


 それを、ティンバイは合図もなしに投げた。


 俺は剣をすばやく抜く。


 抜きながら、盾を斬る。


 真っ二つだ。


 乾いた音がして、床に2つに別れてしまった盾が落ちた。


「ほう、すごいな」


「見てよ、刃こぼれ一つないでしょ?」


「本当だな。良い武器だ、切れ味が抜群だ」


「って言ってもまあ、うまくやらないとダメなんだけどね」


「実力あってのもんか。まあ、兄弟の言う通り鑑賞品にするなら良いかもな」


 それにしても……いったい誰がこのルオの国で日本刀なんて作っているんだろうか?


 もしかして輸入品?


 たしか海の向こうにはジャポネって国があるはずだけど。


「これ、どこの人が作ったんですか?」


 俺は聞いてみる。


「ルオの北のほうで、たった一人で鍛冶屋をやってるやつがいるんだよ。ドゥーモンって名前のやつらしいけど」


 どこか不思議な響きのある言葉だった。


 ドゥーモン。


 まるで悪魔デーモンのように思える。


「会いたいな――」


 俺はなぜかそう思った。


 この日本刀は素晴らしい。


 持った瞬間、まるでずっと手にしてきた相棒のようによく馴染んだ。


 この刀を作った人間はそうとうな腕をもっている。


 もし機会があれば、俺も一振り日本刀がほしいと思った


 だけどその時は――まだそういうタイミングではなかったのだ。


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