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137 龍の話


 パカ、パカ、パカ。


 ヒヒ~ン。


 馬は荒野を進んでいく。


 パカ、パカ、パカ。


 なんだかこの駄馬(ダメな馬)、スーアちゃんを乗せてからというものやる気があるようだ。


「ヒヒ~ン」


 無駄に鳴きやがる。


「うるせぞ」


 俺は言うが、またヒヒ~ンだ。まるでおちょくるよう。


「相性が良いじゃねえか」


 ティンバイの乗る白馬はいかにもお利口さんだ。


 なにかにつけて派手好きのティンバイの乗る馬だから、遠くから見てもよく目立つほどに美しい。そういうのって戦場ではまとになりそうなものだけど、ティンバイは気にしていないようだ。


「どーだか。スーアちゃん、つらくない?」


「は、はい。でもなんだか目線の位置が高くて怖いです」


「はは、慣れだよ。俺も初めて乗ったときは驚いたもんさ」


 馬に乗る前に手綱を握らない人を乗せるのだという。自転車の2人乗りとは逆だ。


 なんでも良いけど、自転車の2人乗りって良いよね。なんだか青春って感じだ。俺も一度で良いからやってみたかったぜ。


 ま、馬は馬で良いもんだ。キザでさ。


「あ、あの……これってお馬さんは大丈夫なんですか?」


「うーん、大丈夫でしょ。スーアちゃん軽いし」


 それにスーアちゃんが持ってきた荷物はティンバイが持っているから、重さは分散されている。俺たちはもともと軽装なので、荷物なんてほとんどそれだけだ。


「とはいえ、行きよりも時間はかかるだろうがな。奉天につくまで4日ってところか」


「長旅だぜ」


「まったくだ」


 見渡す限りの荒野である。


 俺は周囲を警戒する。なにせ行きのときは何度か襲われたからな。今回はスーアちゃんもいるから、彼女を守りながらの戦いになる。できれば敵が出てこなければ良いのだが。


「それにしてもフォン先生シェンシャオ。あんたの考えはなかなか現実的だと思うぜ」


「え?」


「あの家に貼ってあった地図、ありゃあこのルオの国を乗っ取るための計画表だろう?」


「あ、あの……はい」


 おや、なんだかスーアちゃんが俺の手の中で恥ずかしそうにしているぞ。可愛い、抱きしめちゃいたい。


 ダメダメ、イエスロリータ・ノータッチって言うでしょ?


 というか俺はロリコンじゃないのだ。


「南の革命勢力と一時的に共闘、中央に向けて同時に進軍し、主権を武力によって奪い取る。たしかに単体では俺様たちだけの武力で中央の軍隊には負けぬまでも勝てねえかもしれねえ」


「はい。もし勝利しても青息吐息というのではその後の統治もままなりません。ですから、一時的に南の共産勢力と手を結び、統一の後には彼らのいう選挙で決着をつければよろしいでしょう」


「政治か。自慢じゃないが俺様たち馬賊はそういうのが苦手だ」


「そのために私がいます。あ……すいません。出過ぎたことを言いました」


「いや、良い。続けてくれ」


 ティンバイが興味深そうに視線を送ったのを、睨まれたとでも思ったのだろう。


「いくら革命勢力に文化人、政治家としての実績のある人間が数人いたとしても、民の人気に置いて軍配があがるのは攬把ランパの方です」


「すまねえ、その攬把っていうのはむず痒いな。ティンバイさんで良い」


 さすがにこんな小さな少女に親分呼びは恥ずかしいのだろう。


 なんとなく分かるぞ、その気持ち。


「あ、はい。あ、あの、ティンバイさんは名実ともに東満省の英雄です。長城を越え、中原をとればこの国の英雄となるでしょう。人気の面では誰にも負けません」


「とはいえ、やつら革命勢力もそれを分かっているだろう? そうやすやすと手を組むか?」


「組みます。きっと彼らはティンバイさんのことを馬賊上がりとバカにしているはずです」


「御しやすいってことか」


「はい」


 うーん、なんだか話が難しくなってきたぞ。


 俺は何も言えないでいる。


 ほら、俺ってバカだから。こういうときは口にチャックしているのが良いと思うのよね。


「なめてやがるぜ、なあ兄弟」


「え? あ、うん」


 いきなり話をふられたので適当に頷いておく。


「それにしても鳳先生よ、あんたこんなことを考えていたのか。ならばすぐ俺様のところに自分からこりゃあ良かったのによ」


「あの……その……あわわ」


 たぶん恥ずかしかったんだろうなぁ。


 そういうの、苦手そうだし。


 俺も分かるよ。知らない人ととかできれば話たくないもの。


「いい案だぜ」


「あ、あの。私はただこうすれば国が良くなると思っただけで、別にティンバイさんたちを利用しようとしていたつもりではありません……」


「なあに、持ちつ持たれつさ。兄弟、いまの考え、どう思う」


「ノーコメント」


 そういう政治とか情勢は分からないからね。


「将はまつりごとに口出しをせず、ですか。さすがシンクさんです」


 おや、なんか知らんが勝手に褒められたっぽいぞ。


「なんにせよ俺様たちはあんたの言う通りに動くことにしよう。信じてるぜ」


「あ、いえ。あ、あの……この手はもう使えないんです。機をいっしました」


 えーっと、タイミングを失うって意味だよね。


 なんでだろう。なにか問題でもあるのだろうか。


「なぜだ?」


「南は……革命勢力は滅びました。つい一週間ほど前です」


「なんだと?」


 ティンバイの白馬が歩みを止めた。それでけ衝撃だったのだろう。


「一週間前っていうと、俺たちが奉天を出たくらいか?」


 実際にはもう少し最近だったけど。


「そうだな。しかし何があった? たしかに文弱の集まりとはいえ、革命勢力とて正規軍のいち部分を握っていたはずだ」


 へえ、そうなんだ。


 全然しらね。というか革命勢力って何に対する?


 あ、王朝か。つまりあれだ、敵の敵は味方理論で行こうとしたのが、ダメになったわけだな。ようやく少し分かってきたぞ。


「その……これは本当かどうか分かりません。噂話のいきを出ない程度の情報なのですが……龍が現れたそうです」


「龍、だと?」


「ドラゴ~ン?」


 それなら俺も見たことあるよ。


 いや、たしかにありゃあすごいよ。街で暴れたりしたら一瞬で街1つくらいは壊滅すると思う。


「なんでもその龍は革命勢力の拠点を潰してしまったそうです。残った人たちは王朝に降伏して、革命は終了したとか……」


「なるほど、そもそも俺様たちが手を組む相手はもういなくなったわけか」


「……そうなります」


「なんかあれだな、俺たちの知らないところでとんでもないことがあったみたいだな」


「龍……龍か」


「む、昔から王朝の危機には龍が現れると言われておりましたけれど……」


「ふん、そんなもんおとぎ話さ。現に魔片戦争のときはどうだった。龍なんて現れずこの国はこてんぱんにやられた」


「はい。ですから龍というのはないかの比喩かと思いまして……」


 そういえばこの国はモンスターとか見ないな。この前、ちらっとシャネルが言ってたけどモンスターの生息地は西の方に多いらしい。つまりはドレンスなんかの方。で、東に行けば行くほどモンスターは生息していないとか。


 なんでそうなってるか知らないけど、シャネルいわく大昔の亜人の生息地に関係があるらしい。俺は行ったことはないが、ローマとミラノちゃんが行ったアメリア大陸の方はモンスターがうじゃうじゃいるとか。


「で、その龍って本物なの?」


「……どうもそうみたいで」


 うーむ、龍か。


 勝てるかな?


 俺は無理だと思うなぁ。ていうかやり合いたくない。


「龍がなんだ、こっちにだって龍はいるだろ」


「あれ、それってもしかして俺のことか?」


「頼むぜ、小黒竜シャオヘイロン


「いやだ! 俺はそんなのと戦いたくない!」


「で、でも……本当に正規軍が龍を飼っているというのでしたら、戦いは避けられません。そんな天災みたいなものを相手にしなければいけないんです」


「天災かぁ」


 自身雷火事おやじってね。


 ちなみにおやじはオヤジじゃなくて台風のことらしいよ。引きこもってた頃にテレビで見たんだ。


 ふいに、空が暗くなった。


「なんだぁ?」


「雨かな」


「そんな、今日は朝からずっと快晴のはずです」


 へえ、スーアちゃん、天気も分かるのか。これはあれだね、フウさんの八門占いはもう用済みだね。


「じゃあこりゃあいったいなんだよ」


 空が暗くなっている。


 なんだと言われてもわかるわけなかった。


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