46.推しが歩けるようになった日(後編)
殿下がひたすら山積みの書類に判を押すだけの待機画面を見ていると、どうやら準備が終わったらしく広い空間に佇む殿下が現れた。
「はーい、お待たせしました!じゃあ、次の企画やっていきますよー!」
〇【きちゃ】
〇ひろ兄
【¥5,000 3Ⅾおめでとう!】
〇【お!】
〇【きちゃ!】
〇【広い】
「次はですね!いろんな人を呼んでその人が私にやってほしいポーズを指定してもらうという企画です!サービスショットですよ!みなさん、スクショのご準備できてますかー?」
〇【草】
〇【ポーズ!】
〇【おお!】
〇【やべぇ...スクショする手が止まらねえ】
〇【もう100くらいとってるw】
〇【エリカとかかな?】
おそらくエリカ組のエルちゃんとカグラ様はくるとして、他にも誰か来るのだろうか。
「じゃあ、まずは一人目呼んでいきますよー!どうぞー!」
「はーい!みなさーん、おはエルー。ファンタジー世界からやってきた冒険者。見た目は幼女、中身はおじさんのエル・オーアルだよ~」
〇【エルは幼女だよ?】
〇【エルちゃんだ!】
〇【エル幼】
〇【エルは幼女だよ?】
〇【草】
〇【エルは幼女だよ?】
〇【エルは幼女だよ?】
「リリカちゃん、3Ⅾおめでとー!」
「うわぁ、ありがとー!えーとですね、まずは同期のエルちゃんに来てもらったんですけど...エルちゃんは私になにかしてほしいポーズってあります?」
〇【カグラ様は後かな?】
〇【一人づつなんだね】
〇【かわいい】
〇【Y字バランスだな】
〇【かわ】
「やってほしいポーズ考えてきたよ!えーとねぇ...じゃあとりあえず横向きに寝てもらえる?」
「こんな感じですか?」
「そうそう!でそうしたら、右手で頭を支えて...」
「ほうほう...それでこれは何のポーズなんですか?」
「これはねぇ...涅槃のポーズだよ!」
〇【なんでw】
〇【草】
〇【涅槃なぜw】
〇【草】
〇【草】
〇【意味が分からないw】
〇【草】
〇【悟り開くな】
「こういうのって後の人がやるんじゃないんですか...?一発目はかわいいのでは...」
「何言ってるのさ、リリカちゃん!このポーズ、ファンのみんなは大喜びだよ!!」
〇【助かる】
〇【草】
〇【わ、わーい!】
〇提督
【¥3,000 涅槃助かる】
〇【うれいい!】
〇【かわいい】
王国民はよく調教されてるのでノリが分かってる。
「腕がだんだんつらくなってきました...。そろそろいいですか?」
「みんなー!もうスクショし終わったかな―?」
〇【したよ】
〇【終わったよ!】
〇【いいよー】
〇【プルプルしてるw】
〇【大丈夫よ】
「はぁ...ということでエルちゃんでした!なぜか悟り開かされましたけど、来てくれてありがとうございました!」
「うん!また、遊ぼうねー!」
そういうとエルちゃんが通話から落ちていった。
「まさか初っ端からボケてくるとは思いませんでしたよ。真面目にやってくれると思ってエルちゃんにトップバッターなってもらったんですけどね」
〇【草】
〇【いたずらエルちゃん】
〇【涅槃w】
〇【エリカだと一番まともだと思ってた】
〇【基本ボケたがりだからなぁ笑】
「では次の方お呼びしましょう!もう準備できてるかなー?」
「今日も参拝ありがとう。フロムヒア所属、バーチャル巫女の神部カグラだ」
〇【カグラ様だー!】
〇【カグラ様ー!】
〇【やはり同期】
〇【エリカ組!】
〇【カグラ様ー】
〇【カグラ様ー!!】
「リリカ、おめでとう」
「うわー、ありがとう!カグラちゃんは私にどんなポーズしてほしいですか?」
「そうだな...じゃあ、さっきのデスク出してくれ。で、前かがみになって手をついて」
「こんな感じ?」
〇【かわいい】
〇【ボケか?】
〇【お辞儀とかいわんよな】
〇【かわ】
〇【見え...】
「それで...カメラギリギリまで近づけるか?そうそう。そんな感じだ」
〇【ガチ恋距離助かる】
〇【ガチ恋距離】
〇【近い!】
〇【助かる】
〇【ガチ恋距離だ!!】
〇【ちけええ!!】
「最後に人差し指を口に当てて、デスクの下に視線をくれ」
「これでいいですか?」
〇Jim
【¥12,000 かわいい!】
〇【かわいい】
〇【かわいい!!】
〇【ガチで草】
〇【天才か!?】
〇たかし
【¥500 かわ...】
〇【天才】
あざとさといたずらっ子感を兼ね備えたこのポーズ...。
もしや、カグラ様って天才なのでは?
「平民街にお忍びで出かけていたリリカと仲良くなって、こっそり部屋にお招きされて執事が部屋に入ってきたときにリリカに促されてデスクの下に隠れているときのシチュエーションだ」
「やけに具体的だね...」
〇【草】
〇【具体的で草】
〇【シチュエーションw】
〇【天才】
〇【ケータイ小説かな?】
たぶんカグラ様は過去にケータイ小説かなにか書いてたことあるな。
「じゃあ、今日は来てくれてありがとうございましたー!」
「あぁ。またコラボしような」
〇【お勤めご苦労様でしたー!】
〇【お勤めご苦労様でした】
〇【お勤めご苦労様でしたー】
〇【助かった】
〇【お勤めご苦労様でした!!】
〇【GJ!】
「はいはーい。それでは次が最後ですよー!スタンバイできてるようなのでお呼びしたいと思いますー」
「...」
〇【ん?】
〇【?】
〇【おや】
〇【まだ準備中?】
〇【ん】
なんだろう。
トラブルかな?
「...あ、あの...リリカ先輩。3Ⅾおめでとう、ございます」
「ありがとうございますー!えーと、まずは自己紹介してもらってもいいですか?」
「あぁ!?すみません...えっとフロムヒア所属新人ライバーの出雲ソラです」
「ラストはソラくんです!!はくしゅー!」
〇【!?】
〇【ソラくん?】
〇【予想外】
〇【ソラ君だ!】
〇【!?】
〇【ソラ!?】
てっきり一期生から代表して一人くるとは思っていたがまさかソラくんがくるとは思わなかった。なにせ極度のコミュ障らしいので、こういう場に一人で現れるのは珍しいのだ。
そのため何かと僕と共通点があって勝手にシンパシーを感じている。がんばれ、同志。
「ソラくんはどんなポーズしてほしいですか?」
「あ、じゃあ...ちょっと待ってくださいね...。今、メモ見てるので...」
〇【やはり台本...】
〇【草】
〇【www】
〇【メモしてて草】
〇【草】
「あの...椅子って出せますか?できれば玉座みたいな...」
「椅子ですか?多分、大丈夫だと思いますよ!スタッフさんいいですかー」
しばらくして豪華に飾られた赤色の玉座が出てきた。
多分、こういう小物も使うことを見越して準備していたのだろう。
「じゃあ...申し訳ないんですけど。あの...座ってもらっていいですか...?」
「はい、座りましたよ!」
〇【こういう小物もあるんか】
〇【用意いいなw】
〇【女王?】
〇【けっこう細かい】
〇【なんだろう】
「えっと...手を両脇において、足を組んでもらっていいです、か?」
「こんな感じですか?」
「あ、はい。こんな感じです」
〇【かっこいい】
〇【女王になったリリカ】
〇heriosu
【¥3,000 かっこいい】
〇【足組いいね】
〇【かっこよ】
「最後に顎を若干上にあげて...不敵な笑み、みたいなものをしてもらえれば」
「おっけーですよ!」
〇LP
【¥12,000 かっこいい!】
〇【センスある】
〇【またもや天才あらわる】
〇【ダークリリカかっこいい】
〇JOJONI
【¥1,000 成仏した代】
〇【かっこよすぎん?】
なんていうか王家に反乱を起こして血濡れの玉座に座ってる...みたいなシチュエーションが一瞬で思いついてしまった。もしかして僕も昔ケータイ小説書いてた?
「みなさんスクショし終わりましたかね?じゃあ、今日はソラくん来てくれてありがとうございますー!」
「あ、えっと、僕も尊敬する先輩の3Ⅾお披露目に出させてもらって...とてもうれしかったです。本当におめでとうございました」
「うん、じゃあまた今度コラボでもしようねー!」
〇【おつソラ―!】
〇【おつソラ!】
〇【ありがとー!】
〇【コラボもどんどんしてけー】
〇【おつそらー!】
「はい、ということで!そろそろ最後の時間も近づいてまいりました!」
〇【もう1時間か】
〇【はやいー】
〇【終わらないで―!】
〇【もう最後?】
〇asd1291
【¥500 終わらない夢代】
〇【1時間早い】
もうそんなに時間が経っていたのか...。
「では最後はお歌で締めたいと思います!」
〇【歌!!】
〇【おお!!!】
〇ムカイ
【¥5,000 お歌助かる】
〇【歌に始まり、歌で終わる】
〇げんがーZ
【¥2,000 最後まで突っ走るぞー!】
〇【なんの曲だろう】
生涯最推し宣言はただただファンが愛を叫ぶ曲だから、最後には絶対あわないので多分ないとして。
殿下はなんの歌を歌うんだろう。
場面が変わり、殿下がステージに現れるとイントロが流れ出してきた。僕が無知なだけかもしれないが、こんな曲は聞いたことがない
「この曲は今まで推してくれたみなさん・支えてくれた運営さんに感謝を込めて作ったオリジナル曲です!聞いてください、『あなたと一緒にこれからも』!」
〇【えええええええええ!!?】
〇【オリジナル曲!】
〇かみじぃ
【¥10,000 生きててよかった...】
〇【作った?!】
〇【公式オリジナルソングだ!!】
〇【おおおお!!】
「......♪
君にどうしても言いたいことがあるんだ
ちょっと長くなるけど聞いてくれるかな?
いつもは気恥ずかしくて言えないけれど
特別な日だから君に伝えるよ
......」
〇【うおー!!!】
〇ふじき
【¥1,000 本当におめでとう!】
〇【キタキタキタキタ━━━(゜∀゜≡(゜∀゜≡゜∀゜)≡゜∀゜)━━━━rrrっ!!】
〇ちくわ大明神
【¥8,000 こっちこそありがとう】
〇【( ゜∀゜)o彡゜ハイ!( ゜∀゜)o彡゜ハイ!( ゜∀゜)o彡゜ハイ!】
〇【かわいい...】
〇【生きてくれてありがとう】
「......
君と出会ったのはいつのことだったかな
たしか今日みたいな空をしてたっけ?
あの日、君に出会ったその瞬間
私の世界が色づいたんだ
......」
〇【泣きそう...】
〇【やばい...】
〇【( ゜∀゜)o彡゜ハイ!( ゜∀゜)o彡゜ハイ!( ゜∀゜)o彡゜ハイ!】
〇【( ゜∀゜)o彡゜ハイ!( ゜∀゜)o彡゜ハイ!( ゜∀゜)o彡゜ハイ!】
〇がっくん
【¥10,000 涙止まらねぇ】
〇【尊い】
「......
はじめて自分の部屋をぬけだして
一人で歩く道
いつも一人でいたからさ
「大丈夫?」なんて君の言葉も
なんだか特別に聞こえたんだよ
......」
〇【大丈夫】
〇【え、画面見えないんですが?】
〇【俺もや...】
〇ひしふた
【¥4,000 これからもよろしく】
〇【号泣】
〇【(´;ω;`)】
「......
ありがとう いつもは言えないけど
あの日君に出会って本当に良かった
初めての友達になってくれてありがとう!
ありがとう これからもよろしくね
君と歩いたこの道は私にとっての宝物
これからも一生一緒にいてね
......」
〇【ラブソングやん...】
〇100万回尊死した猫
【¥10,000 最高...すき】
〇のど飴
【¥20,000 最高】
〇パン契機
【¥10,000 号泣】
〇【ありがとう】
〇【かわいい...】
〇五月時雨
【¥5,000 本当におめでとう】
・
・
・
そして静かに画面が暗くなり、曲が終わった。
僕はもはや涙も枯れ果ててただただ放心していた。これは殿下から僕たちファンに対しての最大級のファンサである。歌の中でファンへの感謝を歌っていたけれど、僕からしたら完全に殿下から貰うもののほうが圧倒的に大きい。
しかし、なんだろう。なぜか、モヤモヤした気持ちが残っている。
企画も歌も最高だったのに何かやり残していることがあるような...。
はっ?!
そういえばこの配信中にまだ一度もスパチャを投げれていない!?
やばいやばいやばい!!
画面にはエンドロールが流れ出し、もはやこの放送も終了間際だ。いつもならスパチャを送るときは何度も見直して送っているが、いまさら文章を整える時間なんてない。だからって無言で送るのも忍びない。
僕はありったけの思いを込めてキーボードを打った。
●Vをすこれ・ブルーレスト王国民
【¥50,000 殿下と出会えたのは僕の人生においてとても幸運なことです。鬱屈とした毎日を送っていた僕に少しでも前を向けるようにしてくれたのは殿下がいつも明るく配信をしてくれたからでした。僕にとってできることはあなたからもらったものに比べればほんの些細なものですが、これからも陰ながら殿下の進む道を応援しています。本当に生まれてきてくれてありがとう。3Ⅾお披露目おめでとうございました】
〇【なげぇw】
〇【なんだこれw】
〇【草】
〇【Vすこニキw】
〇【最後の最後に爆弾投入してきたw】
〇【限界化いいぞー】
〇【草】
「ふふ...」
あれ...今殿下わらった?
そう思っているといつの間にか配信は終わっていた。
このコメントが殿下の目に届いたかはわからないけれど、僕のありったけの言葉はなんとか送ることが出来た。まぁ、本当は時間と文字数の制限がなければ長編小説くらいの感謝を書けたんだけど、それは迷惑だからやめておこう。
配信が終わったっていうのにコメント欄の熱はいまだ冷めない。
僕だって心臓がばくばくしていて今夜は寝付けないと思う。
あぁ、神様。
推しに出会わせてくれて本当にありがとう。




