16.友達大作戦
さぁ、どうしようか。
僕は未だ半開きの瞼をこすりながらさっきまで見ていた夢のことを考える。先程はジキルに見得を切ってしまったが、まぁこの数年間友達がいなかったのは僕から話しかける勇気がなかったからだ。
中学時代のトラウマが足枷となり、人と話そうとするたびに心にフィルターをかけて別の人物を演じる。
高校での僕。
瀬良リツとしての僕。
本当の僕を出せるのは幼馴染と家族の前だけだ。
それはそれとして、友人候補とするならば誰が挙がるのだろうか。生憎、高校に入ってからの一年間は人と話した回数が指だけで数えられる。候補といえども少しくらいは話したことがある人でなければ、いきなりいつも無言のやつから話しかけられても怖いものだ。
それなら、候補は一人しかいない。
陽キャギャル娘ちゃんこと篠宮悠さんだ。
この前はあちらからコンタクトしてきたし、それならチャンスあるんじゃないか?
あ、でも…もしかしたら仲間内の遊びで僕に話しかけるゲームとかだったら...。
いや、そんな前提条件並べるだけ無駄か。
しかし、一応僕にとっては一世一代の大勝負だ。勝負には万全を期す必要がある。それならば、広い分野からアドバイスを得られるかもしれないものがある。
【緊急】知恵を貸してください!【瀬良リツ】
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【瀬良リツ】チャンネル登録者数7.5万人
「どうも、こんばんは。瀬良リツです」
〇【待ってた】
〇【待ってた!】
〇【待ってた】
〇【舞ってた】
〇【緊急とは?】
「そうなんですよ。今日はどうしてもみんなからアドバイスを聞きたくて」
〇【どんとこい】
〇【まかしとけ】
〇【聞くだけ聞くわ】
〇【何?】
「実は友達を作らなくちゃならなくなって...どうすれば作れるのか」
〇【すまん。他をあたってくれ】
〇【俺たちにはできそうもない】
〇【諦めな】
〇【↑お前ら...w】
「やっぱり、無理なんですね...」
配信をすればいろんな人から意見を聞けると思ったけどそう簡単にはいかないかなぁ...。
〇【友達になりたいなら共通の話題がないとな】
〇【この前のアルファ先生とも絵師繋がりだったし】
〇【たしかに】
〇【共有できるもの大切よね】
篠宮さんと共有できるものか。あの陽キャちゃんがこの僕と共通点なんてあるのか?
いや、待てよ。
そういえば、この前学校で話しかけてきたときに配信を見てるっていっていたような。それなら、その話題でなんとか話を膨らませられるかもしれない。
「そういえば、その人が配信見てるって言ってたんですけど。どう?」
〇【友達になれそうな人は目星つけてるのか】
〇【配信なら良さそう】
〇【その子オタクなの?】
〇【どういう配信かにもよる】
たしかに。配信といえども単にVtuberだけのものではない。実写チャンネルの配信者も存在している。どちらかといえば篠宮さんはそちらのほうを見ているような気がする。
「うーん...難しい」
〇【話題も大事だけどさ】
〇【まぁ、気持ちの問題よなぁ】
〇【勢いが大切】
〇【無理そうなら一度引いてみな】
「そうですね。ちょっとやってみます。無理だったらまた報告しますよ。...その時は慰めてください」
〇【まかせろり】
〇【当たって砕けろ】
〇【玉砕してこい】
〇【誰一人成功すると思ってなくて草】
***************
【篠宮悠視点】
「...篠宮さん。今、ちょっといいかな?」
友人たちと朝雑談中に後ろから声をかけられ振り向くと、リュックの紐をギュッと握っている律月ちゃんが立っていた。何か緊張しているようだ。にしても、かわいい。
「うん。いいよ!」
「じゃあ、ちょっと来てもらっていい?」
律月ちゃんに連れられて私はこの前の目撃現場にやってきた。ここで彼女の裏の一面を見た。でも、そっちのほうが彼女にはあっていると思うんだけど。
「あの...」
目的地につくやいなや彼女はうつむきがちに声を出した。
「この前総司に呼び出されたとき。私のこと見てたよね」
えっと...見てた?
...あ。
もしかして私が律月ちゃんと日下部くんの会っているところを偵察していた件のことか!バレてたの!?
そうだとしたら嫌われてしまうかも知れない。なんとか言い訳を...そりゃー、自分の隠しているところを部外者に見られるのは気分のいいものではないはずだ。
「えーっと...」
くっ...動揺で口が回らない。
「ありがとう」
「へ?」
なんで気持ち悪がられこそすれ感謝されるの?
「もし篠宮さんが誰かに言ってたら中学校のときと同じになってたかも知れない。だから黙っていてくれてありがとう」
中学校のときと同じ?
この口ぶりからすると中学校の頃にもしかして「オタクであること」によってなにか嫌な目あったのだろうか。
そうであれば、小学生のころムードメーカー的な性格だった彼女が高校では影を落としたような暗さになったのも頷ける。
それにせよ、もしそのようなことがあったならひどい話だ。今の世の中はオタク的な活動も昔より変な目で見られることはなくなったし、実際普通に休み時間に男子がアニメの話をしているのも聞く。
だとすれば、律月ちゃんをそのような目に合わせた連中はなんて時代錯誤も甚だしいのだろうか。私がしめてやりたいくらいだ。
「いや、私も驚いたけどそんな軽率に話したりしないよ」
彼女がクラスでずっと無言で過ごしているのも何かわけがあるようだし。
「ありがとう。えっと、それで...」
うつむきがちだった姿勢がそこでさらに下を向く。そして、彼女はそのまま黙りこくってしまった。
はッ!?
この流れ...もしかすると、彼女の方から「お友達になってください」と言ってくる流れ!
律月ちゃんファン歴10余年の私には彼女の言いたいことがわかる!わかるぞ!
「どうしたの?」
笑顔で彼女に近づく。
さぁ、言ってくれ!即答で返すから!
「えっと...あの!」
ガバっと顔を上げる彼女の視線と私の視線がぶつかる。彼女はそれに驚いたのか、フッと視線を流した。
「あ、やっぱりなんでも!」
くるりと後ろに振り返り、クラウチングスタートの構えをしかけた彼女を手を掴む。
ええい、もどかしい!
「私と友達になって!」
気づいたときには律月ちゃんの手を握り、私の方から言ってしまっていた。ここで言わなければ確実に彼女は走ってでもその場を去っていた。間一髪だった。
「あ...と、いいの?」
「いやもう全然!」
彼女よりも私のほうが身長が若干低いのだが伏し目がちにこちらを見る彼女はなんとも庇護欲をそそられる。やばい、私の中の律月ちゃん好きメーターが限界突破しそう。
「それじゃ...よろしく」
「うん、よろしくね!」
あの目撃のあと本当に罪悪感に悩まされたし、今日見ていたことを認知していると知ったときは冷や汗が出たが、結果的に律月ちゃんと友達になれたしオールオッケーだ!
「私の前では素の自分で話してもいいよ!」
「いや、それは...ちょっと」
くッ...まだ壁は大きいか。まぁ、これからだんだん壁をなくしていけばいい。
「じゃあ、私は律月ちゃんのことリッキーって呼ぶから、私のこと悠って呼んでね」
「リッキー!?」
ちょっと欲張りすぎたかな?
「うーん...」
「でも、いつまでも篠宮さんは呼びは嫌だよ」
「それじゃ...悠」
!?
思っていたより呼び捨てされるの、こう...胸にくるものがある。
呼び捨て、万歳!




