15.既知との再会
ストックを貯めるために少しの間休みます。よろしくお願いします。
どこまでも続く真っ白い空間。
またここに来てしまったか...。
「やぁ」
振り返るとやはり僕の前世の姿をしているやつが立っていた。詐欺師のような胡散臭いニヤッとした笑みを顔に貼り付け、腕組みしている。
「おいおい、ジキルと呼んでくれよ」
やはり面倒くさい奴だ。
なんでこいつはいつも僕の後ろから現れるんだ。
「僕はもう二度とこんな夢みたくはなかったんだが?」
「ボクは会いたかったよ。それじゃあ」
ジキルはそういうと僕の前に手を伸ばした。
「なんの真似だ?」
「うーん、まぁ君も少しづつ成長してるようだしご褒美ってことで」
ジキルが指を鳴らすと白い空間が僕を中心にカラフルに色づき始めた。瞬く間に周囲は王宮の謁見室のような空間に変わる。
「名誉国民さーん!」
ん?この声は...。
前の方からブロンドヘアーの女性がこちらへ走ってきた。見間違えるはずもない。その美しい顔、清楚な服装、チャームポイントの蝶の髪飾り。
まさしく、リリカ・ルルシーア殿下だ。
「名誉国民さん、いつも私のために頑張ってくれてありがとう!」
「いえ、もったいなきお言葉です...」
気がついたら殿下の前に膝をついていた。というか、不遜すぎて顔もあげられない。
「これからも応援してくださいね!」
「誠心誠意この精魂尽き果てようとも」
そういうと殿下の姿が次第に透けていき、最後には背景と同化してしまった。
・・・。
「で、今のは?」
「だから、ご褒美だってば」
何に対するご褒美なんだよ。確かに、最近僕にしては珍しく数学の小テストで100点はとったけど家族にすら軽く流されたんだぞ。
「うーん、人間性的な?」
「それは僕の性格が元々破綻してるっていいたいのか?」
「まぁ...そうとも言えるのかもね」
こいつと話すと一瞬でストレスの限界値を振り切るから嫌なんだ。わざとやっているとしか思えない。
「ま、そんなことはさておき。匿名とはいえ、初めてまともに人と話せたんじゃないかな?」
「コラボの話か?」
「そうそう」
確かに幼馴染と家族を除いて、自分の本心で人と話ができたのは思えば小学生以来かもしれない。中学のころからはもう今のスタイルに近づいてたし。
「いやー、ボクも感動したよ!あの律月くんが人と話せるようになるなんて」
「人を人見知りする親戚の子みたいに扱うな。気持ち悪い」
「全く、つれないなぁ。もしかして、ツンデレってやつなの?」
・・・。
こいつ会うたびにウザさがグレードアップしてる。しかも内心小馬鹿にしながら言ってるってことがわかる。なんで、僕がお前のことを好きである前提で話してるんだよ。勘違いするな。
「いやぁ、君も順調に変わってきてるね。安心したよ」
「変わってる?」
どういうことだ。場合によっては法廷で会うことになるぞ。
「君の前世と比べてね」
「お前、僕の前世知ってるのか?」
「さぁね」
ジキルはおどけたように肩をすくめた。まぁ、知っていたとしてもこいつは話してくれないか。
ニヤニヤとするジキルを見つめながら、そもそも僕はどうしてこの場所に呼ばれたのかを考えてみる。というか、この夢はジキル側から僕に直接関与しているものなのだろうか?
「そうだね。ボクが呼んでるよ」
とことん迷惑なやつだ。
最初(本当は以前に数回あっているようだが)にあったときからこいつはどうして僕をこの空間に呼び出したかについては何も言わなかった。僕の裏人格に近しいモノと自称していたが、それ自体胡散臭い。
「なんのためにだ?」
「まぁ...言うなれば、監視?みたいな」
「それこそなんのためだよ」
「それは言えないよ」
なるほど、まったくわからん。監視って...僕はちょっと前世があるくらいで至って普通の一般人だぞ。
...まぁ、一般人は前世ないか。
「ま、いいじゃないか。それもいずれわかるようになるよ」
「わかるようになるって、お前が教えてはくれないのか」
「君が気づくはずだよ」
つまり、自分からは教えてくれないということか。ジキルからは僕のことをすべて理解しているようだし、フェアじゃないな。
本当に僕が知らない間に裸で夜間徘徊とかしないよな...?親にはこれ以上迷惑かけたくないし。
「ボクのことを変質者みたいに言うのやめてくれないかな」
「実際、詐欺師みたいだけどな」
「詐欺師?言い得て妙だね」
何が面白かったのか、ジキルは僕のことばにツボっているようだった。やっぱり、変質者だな。
ひとしきり笑ったのか、ジキルはまた普段の胡散臭いニヤニヤ顔に戻って僕のいるほうに向き直した。
「そうだ。今日は君に言いたいことがあったんだ」
「なんだよ」
クレームは受け付けないぞ。
「君に課題を出そうと思ってね」
はぁ...課題?
「そう。君には目が覚めたらやってほしいことがある」
「なんでお前の言うことを聞かないといけないんだ」
僕はお前のことが嫌いだ。
「そうか...残念だよ。やってくれたら、少しだけ前世のことを教えてあげようと思ってたんだけどね...」
「・・・」
「まぁ、選択は人それぞれだ。君が決めたなら仕方ない」
「・・・・・・」
「もう二度と言わないようにするよ」
「・・・・・・・・・」
「それじゃ、そろそろ君も...」
「だあーーー!!もううるさいな!聞けばいいんだろ、聞けば!ほら、さっさと言えよ。課題でもなんでも」
「そうか。聞いてくれてよかったよ」
本当に陰湿なやつだ。前世のことを餌にされたらこいつの言うことでもやらざるを得ない。
「君には目が覚めてから1週間以内に友達を作ってもらいます」
「え、無理だけど...」
「いや、即答しなくても」
だって今まで友達を作ってこなかったのもそれなりの事情があってのことだ。それを覆して急に友達を作れるかといえば、答えは完全にノーだ。
僕のことを知っているならば、こいつも僕が中学生のときのことを知っているはずだ。
「それは知ってるけど別に自分が本当は男であることを打ち明ける必要はないよ。ただ今は君にあの幼馴染2人以外に友人が必要だと思うんだ」
だとしても、あちらから友達として見られてもこっちからは完全にそういう目でみることができない。それほどに中学生時代に負った傷は深い。
「まぁ、つまり君の言うことを要約すると友達を作る勇気がない、というより話しかけられないのかな?まぁ、実際君コミュ障だしね」
「そんなことはない。友達くらい本当は作ろうと思えば作れる」
作らないだけだ。
「本当にそうかなぁ?君の言ってることは全部言い訳に聞こえたけどね」
・・・。
「やればいいんだろやれば!そうしたら本当に前世について教えてくれるんだよな」
「少しだけね。でも、約束するよ」
こいつの手の上で転がされた感はあるが、今回ばかりは仕方ない。前世について何かわかるかもしれないチャンスだ。
それに友達くらい自分を隠してでも作ろうと思えば作れるはずだ。これでも小学生のころはクラス、というか学校のムードメーカー的な存在だったのだから。
「おっと、そろそろ起きる時間だね」
例のように僕の体がふんわりと浮きはじめた。どうして、帰りは異世界転生風なんだよ。
「それじゃ、健闘を祈るよ」
ジキルが小さく手を振っているのを足元に見ながら僕は意識が急に覚醒していくのを感じた。
「これでまずは一歩...」
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