きみに好きだと伝えたら
「お前のことが好きだ、つばさ」
お互いの家へ通じる最後の分かれ道で、高坂はそう言って、真っ直ぐつばさを見た。
普段からあまり感情を表に出さない幼馴染の本意がわかりかねて、つばさはたっぷりと考え、悩みぬいた末に口を開いた。
「……ダウト?」
「残念」
「えっ、ちょ、まじ?」
「おう。じゃあな」
「じゃあなって、ちょ、高坂! こーさかー!」
今までだるそうに押していた自転車にさっそうとまたがり、じゃあな、でふっと表情を柔らかくした高坂は、振り返ることなく勢いよくペダルを踏んだ。
つばさは眉をつり上げる。これは言い逃げだ、とても卑怯だ。とっさに言葉を返せなかった自分も悪いけれど。
握りこんでいた拳を開いて、高坂の背を見送った。
オレンジ色のフィルターがかかったかのような世界で、つばさは頬に手を当てる。
ひどく火照っていた。肩に食い込むスクールバックをかけなおして、高坂が去った左の道を一瞥する。
以前はそちらに一緒に帰っていた。隣の家に住んでいたのだ。
年齢も誕生日も一緒で、中学まで家が隣同士で、学校も、去年まではクラスもずっと一緒だった。
他にも色々、幼馴染にしておくにはもったいないほどお揃いだらけの高坂は、近すぎてつばさのことなど見ていないと思っていた。
右の道へ足を向ける。両親が海外に赴任してからだだをこねて住んでいる、ささやかなアパートへと帰るためだ。口が裂けても言えないが、高坂と離れたくなかった。
柔らかな髪に、少しつり気味の目。無口でぼんやりしていて、つかみどころがない奴だ。
よくクールだとかアンニュイだとか言われているが、神妙な顔つきをしている時は大抵何も考えていない。少し体が弱くて、運動が苦手で、色が白い。背と手のひらだけは大きい。
つばさは、高坂のことがずっと好きだった。
いつからかはわからない。気付けばいつも寄り添うように側にいてくれる幼馴染のことが、誰よりも大切になっていた。
幼いころから見た目にそぐわない怪力で大人にも不気味がられていたつばさを、高坂は一度も見捨てなかった。指を折られることを恐れず手を繋いでくれたのは、たった一人だけだったのだ。
つばさは、両手で顔を覆った。
――だめだ、恥ずかしい。嬉しい自分が恥ずかしい。
遠くで電車の音がする。頭の上ではもう夜が待ち構えていた。
――明日、言おう。
好きだと、高坂に伝えよう。
つばさは、前を向いて、大きく一歩踏み出した。




