ルルステーシアとホイットリーの婚約。
瀬崎の書く話なので良い終わりではありません。
苦手な方は読まれないほうが良いと思います。
ルルステーシアは婚約者のホイットリーのことが好きで、大好きでしかたなかった。
できることならホイットリーを誰にも見せず、ホイットリーの目にはルルステーシア以外の誰も映さず居られればいいのにと思うほど好きで、大好きだった。
婚約したのはルルステーシアとホイットリーが十歳の時で、双方の父たちが強く望んだ政略的な婚約だった。
けれどルルステーシアはホイットリーと目と目が合った瞬間にひと目で恋に落ちてしまった。
美しいブルーの瞳に小さな鼻。笑みを浮かべる唇は艶々と輝いているかのようだった。
肩口で揃えられた金色の髪はまっすぐに伸びていて陽の光が当たってキラキラと輝いている。
ルルステーシアは母と同じ色の紫色の髪もとても美しいと思っていたけれど、ホイットリーの髪は特別綺麗に見えた。
女の子に見間違えそうなほど可愛い顔をしているのに、態度がちょっと生意気そうなところにもルルステーシアはホイットリーに惹きつけられてしかたがなかった。
ホイットリーはルルステーシアを見て可愛い子だと感じた。ただそれだけだった。
けれど目と目が合い、ニッコリと微笑まれて心臓がドキドキした。
父親たちに「二人で遊んでおいで」と言われて二人で手を繋いで庭で遊んだ。
女の子と遊ぶのは初めてで男の子たちと遊ぶのとはどこか勝手が違って、面倒だと思う前に優しく大切にしなければならないのだと母親に言われていたことを思い出してルルステーシアのペースで遊ぶことにした。
ルルステーシアも慣れてくるとかくれんぼをしたり、追いかけっこをしてホイットリーにとっても楽しい遊びに付き合ってくれるようになった。
仕草の一つ一つが男の子と女の子では違うことを知った。
ルルステーシアが帰る頃には今度いつ会えるかが心配になった。
父親が「すぐに会える」と言ったので毎日「ルルに今日会える?」と父に聞いた。
父は苦笑して二週に一度遊びに行き、二週に一度ルルステーシアが遊びに来てくれた。
十一歳の誕生日に茶色い毛並みの小さな犬を買ってもらった。
父は「今はまだ小さいが、すぐにホイットリーより大きくなるからな。ちゃんということを聞くように躾けなさい」と言ったので犬の訓練士の人の言うことを良く聞いて“ブラウ”と名付けた犬をとても可愛がった。
ブラウに夢中になりすぎてルルステーシアとの約束を何度かキャンセルした。
ルルステーシアは次に会った時、目に涙をためていてその顔も可愛いなと思った。
自惚れでなくルルステーシアはホイットリーに恋していると自信がホイットリーにはあった。
ホイットリーがルルステーシアに恋しているという自信がルルステーシアにはあった。
ルルステーシアはホイットリーに会う度にもっと好きになり、ホイットリーと婚約したルルステーシアほど幸せな女の子は居ないと思っていた。
ルルステーシアはホイットリーも二人だけの世界で満足していると思っていた。
それがブラウがホイットリーの横に並び立つようになってからは、ルルステーシアが話しかけてもホイットリーはブラウのことばかりを話し、ルルステーシアと会っているにも関わらずブラウをルルステーシアとホイットリーの間に居ることを望んだ。
ブラウがホイットリーのそばにいるようになってから、ホイットリーはルルステーシアに会いに来てくれなくなった。
ルルステーシアが会いに行くと嬉しそうに走り寄ってきてくれたけれど、ホイットリーの後ろにはブラウが必ず付いて来た。
ルルステーシアはホイットリーの一番だったはずなのに、ブラウの次になってしまったことが嫌で嫌でたまらなかった。
十五歳になり学園に入学する頃にはホイットリーに半年に一度、会えるか会えないかというほどルルステーシアは構ってもらえなくなっていた。
たくさんの手紙を書いてたくさんのプレゼントを送ったけれど、ホイットリーからの返事はなかった。
毎日、寂しいよ。会いたいよ。と思い続けていたけれど、ホイットリーは会いに来てくれなくなったし、会いに行っても会ってくれなくなった。
だから、学園に行けば毎日会えるようになるとルルステーシアは思って、胸を弾ませてホイットリーを迎えに行くと既にホイットリーは学園に向かった後だった。
「迎えに行くから待っててね」ってホイットリーに手紙を出したのにと少しだけ涙を流した。
目を赤くしたルルステーシアが張り出されたクラス分けの紙を見ていると、ホイットリーと同じクラスだと気がついて弾むような気持ちでクラスへと向かった。
「トリーと同じクラスだわ!! 神様! ありがとう!!」
駆け上がる階段の中程まで来ると賑やかな声が聞こえ、その声のひとりがホイットリーの声だと気がついてルルステーシアは笑みがこぼれた。
「声が低くなってる!! 教室に入ればトリーに会える!!」
さっきまで置いていかれて泣いていたことを忘れて教室へと急いだ。
教室の中は幾人かのグループに分かれて楽しそうに談笑している。
ルルステーシアはホイットリーをすぐに見つけて「トリー!!」と名を呼んで駆け寄った。
会えなかった時間がルルステーシアの思う心を大きくさせていて想像を上回るほどホイットリーは格好良くなっていて、初めて会ったあの日以上にルルステーシアの心臓はドキドキしていた。
ホイットリーはチラリとルルステーシアを見て興味を失ったかのように会話に戻っていく。
「トリー!! トリー!! ってば!!」
ホイットリー以外の生徒がホイットリーに「なんか反応してやれよ」と言ってくれていたがホイットリーはルルステーシアには見向きもしなかった。
ルルステーシアがホイットリーに触れようとするとあからさまに腕を引いてルルステーシアの手から逃れた。
しつこくルルステーシアがホイットリーに触れようとしてやっとホイットリーがルルステーシアを見た。
「お前、学園では絶対話しかけんな!!」
「え? どうして? どうしてそんな酷いこと言うの?!」
ルルステーシアは目に涙を浮かべてホイットリーに縋ろうとした。
「俺のこと好きなんだろう?」
「うん!!」
「だったら俺の言うこと聞け! 俺に話しかけるな!!」
「じゃぁ、学園の外で会ってくれる?」
「気が向いたらな。でも話しかけてきたら絶対会わない」
「⋯⋯⋯⋯わかった」
ルルステーシアが涙目になりながらもホイットリー以外に初めて目を向けると教室に居た全員が話を止めてルルステーシアとホイットリーの会話に耳を傾けていた。
ホイットリーにはこのクラスに知り合いが居たみたいだけど、ルルステーシアの知り合いは誰も居なかった。
お茶会で一緒になったことがある人は居たけれど、気の合わない人ばかりだった。
そのことに気がつくと堪えていた涙がポロリとこぼれた。
それに気がついてくれた女の子がハンカチを差し出してくれた。
ルルステーシアは小さく首を傾げた。
「涙、流れているわよ。ハンカチ貸してあげるから拭きなさい」
「あ、ありがとう」
女の子が差し出してくれたハンカチを借りてルルステーシアは涙を拭いた。
「洗って返すね」
「うん。私はアンガンジーっていうの。あなたは?」
「ルル。ルルステーシアっていうの。ルルって呼んで」
「じゃぁ、私のことはアンって呼んで」
そのことがきっかけになり、ルルステーシアとアンガンジーは仲良くなった。
ルルステーシアにとって学園生活は楽しかった。
ルルステーシアとホイットリーが婚約していることをアンガンジーに話しているときに他の子たちも聞かせるように話し、クラスで知らない子はいないという状況にルルステーシアは持っていった。
ホイットリーは嫌そうな顔をしていたような気がするけれど、今はもう誰よりも格好よくなったホイットリーはルルステーシアのものなのだと皆に知っていてほしかった。
けれど婚約していることを知った他のクラスの女子たちはルルステーシアを見ては「ホイットリー様に相手にされていないくせに」と嫌なこという女の子たちもいた。
それを聞いたクラスの女子たちの瞳の中にも嘲りや蔑みが含まれていたけれど、直接何かを言ってくる人はいなかった。
ホイットリーに話しかけることはできないけれど毎日姿を見ることができて声が聞こえる。それだけでルルステーシアは夢見心地でいられた。
ホイットリーは学園以外では一度も会ってくれなかったけれど、アンガンジーとも仲良くできて楽しい一年間だった。
二学年になってホイットリーとアンガンジーとクラスが別れてしまった。
その上物理的にも距離が開くことになってしまった。
選択授業が違ったために建物自体も別になってしまったのだ。
ルルステーシアはホイットリーに手紙で何度もどの選択授業を選ぶのか聞いたけれど、やっぱり返事はくれなくてホイットリーと選択授業が異なってしまったのだ。
二学年になってからというものホイットリーにほとんど会えなくて、お屋敷に毎日会いたいと手紙を送ったけれどホイットリーから返事は来なくて、やはり会ってもくれなかった。
ルルステーシアは寂しいと思いながらも毎日をなんとかやり過ごしていた。
「卒業したら結婚できるんだもの。今は我慢しなくっちゃっ!」
そんなふうに自分に言い聞かせていた。
新しい友達もできたし、その友達たちにもホイットリーに会えないのが寂しいと零していた。
新しく友達なった人たちは「ルルはいい子だと思うけど、ホイットリー様に関係するときは本当に面倒になるからホイットリー様の話はしないで」と言われてしまった。
そのせいなのか会話が選ばれていて、ルルステーシアの耳にはホイットリーの噂話すら聞こえてこなかった。
学園の都合上、建物が違うと休憩時間まで違う。登下校の時間まで少しズレていて、ひと目だけでもホイットリーに会いたいと探しても会うことも見かけることすらもなかった。
休憩時間の度にホイットリーを探したけれど会うことは叶わなかった。
そんなある日、ホイットリーとアンガンジーが一つのテーブルで隣同士に座って昼食を取っていた。
左利きのホイットリーと右利きのアンガンジーの手が時折触れ合うのが見える。
手が触れると互いに見合って頬を染めている姿はまるで恋人同士のようだった。
ルルステーシアは一気にパニックに陥ってしまった。
アンガンジーは私の友達で、ホイットリーは私の婚約者。
ルルステーシアと婚約していることも知っているのにどうして? と肩を震わせた。
ルルステーシアはホイットリーとアンガンジーの目の前に立った。
アンガンジーはルルステーシアを見て「久しぶりね」と言いながら右手の人差し指の背でホイットリーの左手の手の甲を擦った。
見せつけているかのようだ。
ホイットリーは嫌がらず、ルルステーシアを見ることもなくアンガンジーに笑いかけた。
「アン⋯⋯⋯⋯どうして? トリーは私の婚約者だって言ったじゃない!!」
「ん? なんのこと? クラスメイトと昼食を食べているだけよ」
「うそ! クラスメイトとそんなふうに見つめ合って微笑んだりしないわ!!」
「ルルの気のせいよ。ホリーとは」
「ホリーって何?!」
「え? ああ。ホリーはトリーって呼ばれるのが嫌らしくって仲のいい人はみんなホリーって呼んでいるのよ」
「トリー⋯⋯⋯⋯どういうこと?」
「学園で話しかけるなって言ったよな?」
ホイットリーの眼差しは婚約者に向けるようなものではなかった。
ルルステーシアはホイットリーのあまりにもきつい眼差しに怖気づいて一方後ろに下がってしまった。
「もういい加減嫌われているって気がつけよ!!」
「嘘⋯⋯。それは嘘よ!! だって私たち仲が良かったじゃない!!」
「いつの話ししてるんだよ! いい加減婚約解消に同意しろよ!!」
ルルステーシアは幼い子がするようにイヤイヤと耳をふさいで首を振る。
「トリーが好きなの!!」
「俺はお前の顔も見たくない!」
「どうして?!」
「解らないのか?!」
「わからないよ⋯⋯⋯⋯」
「お前がブラウを殺したからだよ!!」
ブラウというのはトリーが飼っていた犬の名前だった。
「ブラウ⋯⋯⋯⋯。だって仕方ないじゃない!! ブラウはトリーに愛されていたんだもの!!」
ホイットリーに構ってほしいのにブラウとばかり遊ぶから、ブラウがいなくなったらルルステーシアの事を見てくれると考えて、隠し持っていたペーパーナイフをブラウに何度も何度も息絶えるまで振り下ろしたのだった。
ルルステーシアとホイットリーが十二歳になる少し前の事だった。
ホイットリーは気が狂ったかのようにルルステーシアに掴みかかって涙をボロボロ流しながら何度も殴りつけた。
その時ルルステーシアは「ほらね。邪魔者が居なくなったらトリーは私を見てくれる」と殴られながらも笑ってみせた。
ホイットリーはその日のことを今でも夢に見て飛び起きるほど恐れを抱く出来事だった。
可愛いと思っていた婚約者が化け物だったと知ってしまったホイットリーはルルステーシアと会いたくないと両親に泣きつくほどのことだった。
「ブラウは邪魔だったもの⋯⋯⋯⋯。アンも邪魔⋯⋯⋯⋯? やっぱり持っていて良かった」
「えっ?! やだ! 冗談にならないわよ!! ルル!!」
「だってアンが私とトリーの邪魔をするんだもの⋯⋯⋯⋯」
ルルステーシアの目は目の前のアンガンジーを見ていなくてどこかイッてしまった人のように目の焦点が合っていなかった。
「ブラウが居なくなったらトリーは私を見てくれたわ。だから今度もアンが居なくなったら私を見てくれるわ⋯⋯⋯⋯。きっと⋯⋯⋯⋯!!」
どこから取り出したのかルルステーシアの手には、折りたたみのナイフが握られていた。
「ね。いつでも持っていて良かったでしょう?」
あちらこちらから悲鳴が上がる。
ルルステーシアはナイフとアンガンジーを見比べてどこか正常でない笑顔を浮かべている。
アンガンジーも悲鳴を上げて椅子から転げ落ちていた。
ホイットリーはナイフを持つルルステーシアの手首を掴んだ。
そしてもう片方の手の平をルルステーシアの頬に打ち下ろした。
ルルステーシアはホイットリーが触れた頬に手をやり、イッた目が正気を取り戻した。
うっとりした目で「トリー⋯⋯⋯⋯」と言いながらホイットリーを見た。
「おまえ。俺にどうしろっていうんだよっ!! 怖えよ!! お前が怖くて仕方ないよ!! 頼む。もう俺に関わらないでくれ!! 自由にしてくれよ⋯⋯⋯⋯」
「トリーは私が居ない方が良いの?」
「ああ」
「私が邪魔?!」
「ああ」
「私が嫌い?!」
「ああ!! 大嫌いだっ!!」
ホイットリーだけを見ていたルルステーシアの目が床に落ちる。
「そっか⋯⋯ごめんねぇ⋯⋯⋯⋯。トリーが好きで⋯⋯⋯⋯」
ホイットリーがルルステーシアの手を離す。
ルルステーシアはホイットリーの手が離れたことが悲しくて、ホイットリーが握っていた手首を胸元に引き寄せ、ナイフを持っていない手で手首を握った。
偶然なのか、ルルステーシアがそうしたのか解らない。
ナイフの切っ先はルルステーシアの首にあった。
「トリー⋯⋯⋯⋯ブラウを殺さなかったら今も仲良くしていられたかな?」
ホイットリーは何も応えない。
「トリー⋯⋯⋯⋯、私に死んで欲しい?」
それはルルステーシアのとても、とても小さな声だった。
聞こえたのはホイットリーだけだったろう。
そしてホイットリーもルルステーシアだけにしか聞こえないほど小さな声で応えた。
「ああ。俺の目の前から消えてくれ」
ルルステーシアは小さな笑みを浮かべて胸元で握っていたナイフの切っ先を首元へと力いっぱい突き上げた。
ナイフの切っ先は当たりどころが悪くて首の横を突いた。
ルルステーシアの「ぐふっぅ⋯⋯」という声が聞こえ「どりぃー⋯⋯だいずぎ⋯⋯⋯⋯」とホイットリーにだけ聞こえる声で呟いてその場に崩れ落ちた。
その反動でルルステーシアの喉に刺さっていたナイフが抜け落ちる。
血が吹き出した。
脈打つ度に血の勢いが強まり当たりを血で汚していく。
シーンと静まっていた食堂で誰かが悲鳴を上げた。
それがきっかけでそこら中から悲鳴が聞こえ、皆が逃げ戸惑う。
ホイットリーはただルルステーシアを見下ろしていた。
アンガンジーは倒れたままの姿勢で目を閉じることも声を上げて叫ぶこともできないのかただ震えている。
騒ぎを聞きつけた教師がやってきたのはルルステーシアの呼吸が止まってどれくらいしてからだったろうか。
ホイットリーは『これでやっと自由になれた』と安堵の息をついていた。
アンガンジーは未だ瞬きもできず声を上げることもできず同じ姿勢のままだった。
ルルステーシアの姿を見た教師はルルステーシアに声もかけずに食堂を飛び出していった。
それからまた暫く時間が経ってから四〜五人の教師を引き連れて戻ってきた。
その中には保健医の姿もあったが既に死んでいるルルステーシアに保健医は必要ない。
けれどアンガンジーに保健医は必要だろう。
保健医はアンガンジーではなくルルステーシアのそばに膝をついて生きているか確認してから首を横に振った。
死んだとは思っていたが、ルルステーシアの死を再確認できてホイットリーは再び安堵の息をついた。
「先生。アンガンジー嬢の様子がおかしいです」
ホイットリーは保健医にそう告げると保健医はアンガンジーに初めて気がついたようで、アンガンジーのそばに行き、目の前で手を振ってみたり、指を鳴らしてみたりしたけれど、アンガンジーはなんの反応も示さなかった。
保健医がそろりとアンガンジーに触れるとアンガンジーは耳をつんざくような悲鳴を上げた。
保健医がルルステーシアを背に隠してアンガンジーの背を擦る。
「大丈夫。大丈夫」と声を掛け続け、アンガンジーは事切れたかのように体から力を失った。
「気を失っただけです」
保健医がそう言い、教師たちから安堵の息が漏れるがルルステーシアを見て今度はため息が漏れた。
アンガンジーは体育教師に抱き上げられ食堂から連れ出された。
アンガンジーは正気を取り戻せるだろうか? とふとホイットリーは思った。
ルルステーシアは生きていても死んでも迷惑をかけるやつだと苦々しく思った。
ルルステーシアが死んだことなどどうでもいい。
胸に温かいものを与えてくれたアンガンジーがアンガンジーらしく居られなくなるのは嫌だなぁと思ったけれど、ルルステーシアが居なくなったことが一番大事なことだとひとり納得した。
教師に何度も同じことを聞かれて何度も同じことを答えた。
翌日は騎士団にも何度も同じことを聞かれた。
本当にルルステーシアは生きていても死んでもホイットリーに嫌な思いをさせる。
ルルステーシアは自殺だ。
ホイットリーが自殺するように願っていたとしても、誘導していたとしても、直接手を下したわけじゃない。
それをたくさんの生徒たちが見ていた。
一番近くで見ていたアンガンジーは正気を失っているそうだ。
眠っているか叫んでいるかのどちらかで今はもう声が枯れ果てて、口を開けて息が漏れているか眠っているかのどちらかなのだそうだ。
学園は一週間閉鎖された。
誰かがルルステーシアの血溜まりを掃除したのだと思うと愉快な気持ちになった。
学園が閉鎖されているその間に食堂に居た生徒たちのケアをしていたそうだ。
食堂に居なくても、後から同級生が食堂で自殺したと聞いて不安定になった生徒もいるらしい。
やはりルルステーシアは生きていても死んでいても迷惑をかける。
ルルステーシアが死んで一ヶ月が経ったけれど食堂は閉鎖されたままだ。
本当か嘘かは解らないけれど『今通っている生徒がいる間は閉鎖されたままになる』なんて噂が流れている。
ルルステーシアの葬儀は家族だけの小さな葬式だったらしい。
行く気もなかったし、気にもならなかったのでかなり後で誰かが話しているのを聞いて知った。
ルルステーシアの父親から迷惑料としてかなりの金額が支払われた。
アンガンジーにも支払われたらしいので、ルルステーシアの父親は窮していることだろう。
ルルステーシアの父親には「ルルが死を選ばなければならないよう君が追い詰めたのか?」と聞かれた。
『その通りだよ』と内心では応えつつ、ホイットリーは力なく首を横に振った。
「もっと早くに婚約解消していればこんな事にならなかったんですよ」
ホイットリーはそう、責任転嫁していた。
ルルステーシアの父親は力なく肩を落とした。
長い長い沈黙の後、何も言わずルルステーシアの父親は背を向けて帰っていった。
これでルルステーシアとホイットリーの婚約の話は終わり。
ホイットリーは事件のすぐ後から酒に溺れるようになり、数年後、酒に酔ったまま風呂に入って沈んだままの姿で発見された時にはもう冷たくなっていた。




