表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします  作者: 水谷繭
番外編3.料理

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/29

6-②

「な、なんで……!?」


 私は鍋を前に呆然と立ちすくむ。


 リンゴは溶けそうなほどドロドロになり、シロップもべちゃべちゃとして、茶色く焦げている。


 とてもリンゴのコンポートとは言えない代物になっていた。


「どうして……! メイドたちは初心者向けって言っていたのに……!」


 私は涙目になって鍋を覗き込んだ。


 これではサイラスに渡すわけにはいかない。



「……きょ、今日は失敗したけど、練習すればできるようになるはずよ! 絶対うまく作ってみせるわ!」


 焦げた砂糖のにおいのする厨房で、私は破れかぶれに意気込んだ。



***


「お嬢様。その手の包帯、どうなさったんですか?」


「え、これ?」


 毎晩コンポート作りに励んでいたある日。


 花瓶の花を入れ替えに来てくれたサイラスに、手に巻かれていた包帯を気づかれてしまった。


 袖の長い服を着て隠していたのだけれど、限界があったみたいだ。


「なんでもないの、これは」


「おけがをされたんですか? 今まで気づきませんでした」


 サイラスは私の手をとって、心配そうに尋ねてくる。


 これは一昨日、熱いシロップを手にかけてしまったときの火傷だ。


 本当に何でもないの、と私は手を振って誤魔化す。


 しかし、サイラスは心配顔のままだった。



「お嬢様、最近目の下にクマができておりますね。寝不足ではないですか? まさか、何かご病気にかかられたのでは……」


 サイラスは顔を青ざめさせて尋ねてくる。


 クマなんてできていたかしら。私は慌てて目元に手を当てる。


 最近は毎晩遅くまで料理の練習をしていたので、睡眠が不足していたのかもしれない。



「大丈夫よ! 病気とかではないから心配しないで。ちょっと最近は遅くまで起きていただけ」


「そうなのですか? 無理はなさらないでくださいね」


「ええ、大丈夫だったら」


 私は不安げにこちらを見るサイラスに笑顔で言い切る。


 サイラスはしばらくはらはらした顔で私を見ていたけれど、私が笑顔で押し通すと、ようやく表情を緩めてくれた。



***


 それからさらに数日後。


 夜中の厨房で、私はお鍋を前に感動の涙をこらえていた。


「やっと完成したわ……!」


 目の前には、ようやく出来上がったまともなりんごのコンポートがある。


 これだけ作るのに随分苦戦してしまった。


 でも、ようやく見た目も味も良い感じのものができた気がする。



「この色とかなんだかすごくきれいじゃない? 私、もしかして料理の才能があるのかも!」


 私は晴れやかな気持ちで、瓶にコンポートを詰めた。


 瓶の中のリンゴは綺麗な黄色をしていて、シロップはキラキラ光って美しい。


 見惚れてしまうような仕上がりだ。味もすごくおいしくできたと思う。


 早速サイラスに届けようと、私は瓶を持ち上げる。


 その前に瓶を綺麗な箱に詰めるべく、私は自分のお部屋に向かった。



「どのリボンにしようかしら」


 お部屋でうきうきしながら瓶を箱に詰め、それに巻くリボンを選んでいると、突然扉がノックされた。


 こんな夜遅くに誰だろうと首を傾げる。


 返事をすると、サイラスの声が返ってきた。


「お嬢様、もう寝てらっしゃいますか?」


「サイラス? いいえ、一体どうしたの?」


 私は驚いて扉の方まで駆けていく。すると、サイラスが遠慮がちに顔を出した。


 サイラスの手には小さめの木箱のようなものが抱えられている。


 こんな時間にやってきたサイラスを不思議に思いながらも、なんてタイミングがいいのだろうとわくわくしてしまった。


 こちらから行くまでもなく向こうからやってきてくれるなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ