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全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします  作者: 水谷繭
5.冤罪事件再び

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16/29

5-2

 私は急いでお父様の執務室に向かった。


 サイラスも一緒に行くと言ってくれたけれど、どんな内容かわからないので外で待機していてもらうことにする。



 執務室に着くと、険しい顔をしたお父様に事の詳細を教えられた。


 なんでもカミリアは神殿に向かう途中、不審な男にナイフで切りつけられたらしい。幸いにも護衛がすぐに割って入ったので大事には至らなかったが、カミリアの腕には切り傷が残った。


 犯人は逃げたが追いかけた護衛の一人に見つかり、あっけなく捕まった。カミリアとも王家とも何の関りもない、若い平民の男だったという。


 カミリアのけがを知ったジャレッド王子は大変怒り、捕まった犯人単独の犯行なのか調べさせた。尋問の結果、男は「アメル公爵家のエヴェリーナ様に頼まれた」と白状したそうだ。



「な……! 私はそんなこと頼んでいません!」


 すぐさま否定するが、お父様の顔は険しいままだ。


 冗談じゃない。今回は本当に何もやっていないのだ。なのに、なぜ、前回と全く同じことが起こっているのだろう。


「それは本当か。本当にやっていないのだな」


「はい。神に誓ってやっておりません」


「それならばジャレッド殿下にそう証言してこい」


 お父様は厳しい顔でそう言った。ちょっとは冤罪をふっかけられた娘を心配して欲しい。


 お父様の言葉にうなずいてはみたものの、心は動揺しきっていた。


 なぜだろう。今回はジャレッド王子のこともカミリアのことも恨まずに、サイラスを幸せにすることだけ考えて生きてきたつもりなのに。


 私の運命は変わらないのだろうか、なんて言葉が頭をかすめる。



「……お嬢様!」


 部屋を出た先に心配そうな顔をしたサイラスが待っていた。彼は私の目を見つめて言う。


「大丈夫でしたか? どういった話だったのでしょうか」


「サイラス、実は……」


 私が事情を説明すると、サイラスは目を見開いた。そして悔しそうに言う。


「王子もあの聖女も、どこまでお嬢様を苦しめれば気が済むんだ……!」


「サイラス、私王宮に行ってくるわ。私はやっていないとわかってもらわないと」


 私がそう言ったら、サイラスは真っ直ぐにこちらを見て言った。


「私も同行させてください。お嬢様一人で行かせるわけにはいきません」



***



 王宮の空気は張り詰めていた。


 中に足を踏み入れると、使用人たちが一斉にこちらを見る。誰の顔も困惑しきっているように見えた。


 居心地が悪くなりながらも、侍女に案内されてジャレッド王子たちのいる部屋まで向かう。


「エヴェリーナ?」


 廊下を歩いていると、突然誰かに声をかけられた。

  

 振り向くとそこにはミリウスがいる。彼は不審そうな目つきでこちらをじろじろ眺め回していた。


 リーシュの祭典の時といい、今回といい、ミリウスはどうして嫌っているであろう私にわざわざ関わってくるのだろう。今回は祭典の日と違って大分切羽詰まった状態なので余計に困る。

 

 ミリウスは私の心情などお構いなしにこちらへ近づいてきた。


「一体こんなところで何をしている。お前は兄上に王宮への出入りを禁止されているのではなかったか?」


「そのお兄様と、お兄様の婚約者様から呼び出しがあったのです。ほら、ちゃんと王宮の侍女に案内してもらっているでしょう? 忍び込んだわけではありませんから、ご心配なく」


 笑顔を作ってそう言うと、ミリウスが顔をしかめた。


 許可はあると言っているのに一体なんなのだ。こっちは暗殺未遂の冤罪をふっかけられて、ミリウスに構っている暇などないのに。


 サイラスは立ち去る気配のないミリウスを警戒するように見つめ、ぴたりと私の横に張りついている。


 緊迫した空気を感じ取ったのか、ミリウスはどこか慌てた様子で言った。


「別に非難したわけではない。兄上に呼ばれたのなら自由に行けばいい」


「ええ、そうさせていただくつもりです」


「ただ、その……」


 ミリウスは口ごもり、なかなか続きを言おうとしない。ジャレッド王子に呼びだされた時間は迫っているというのに、どうしたものか。


「ミリウス様、お話しでしたら後でゆっくり聞かせてくださいませ。私どもはこれで」


「あ、エヴェリーナ……!」


 後ろでミリウスが呼んでいるのがわかったが、聞こえないふりで侍女に先へ行くよう促した。


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