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「へ、陛下、そんな。謝っていただくことでは」

 国王陛下は、「王妃が急な病で倒れた」と皆に仰せになられて、夜会は中止と仰いました。私とディオ様の婚姻の日取りが決まったことを発表出来たので、夜会の目的が果たせたこともあるのでしょうが、正妃のことで忙しくなることを考え、中止になさったのでしょう。


 私には付いてくるよう仰せになられて、王族の方々が通る廊下から陛下の私室まで共に参りました。


 その間に少し喧騒が耳に届いたのは、貴族が下城するに辺り騒がしくなったから、でしょう。

 陛下の私室には、陛下、アマディオ第一王子殿下、エンディオ第二王子殿下、私と聖女さまです。お茶を侍女が淹れて下がるのを見届けてから、陛下が私を呼びました。


「ジェーン」


「はい」


「長年王妃に虐げられたことを分かっていたのに、助けてやれず済まなかった」


 正妃が去って行くのを見送り、陛下に呼ばれて返事をすれば、頭こそ下げられることは無かったものの、陛下から謝られてしまいました。


「へ、陛下、そんな。謝っていただくことでは」


「いや。済まなかった。ジェーンの人生も、ジェーンの両親の人生も歪めてしまった。不甲斐ない王よ」


 陛下が真摯に謝るので、口を噤み謝罪を聞きます。人生を歪められた。その言葉はズシリと胸に響きます。ただ、不甲斐ないとは思いません。色々いろいろありましたが、それでも陛下の後悔に言うことがあるとするなら。


「陛下。不甲斐ないなんて有りません。こうして助けてもらいましたし、両親にとっては人生を歪められたのは確かかもしれませんが、その両親が居なければ、私は生まれて来なかったですから」


 陛下は、私の顔をじっと見て「そうか」と仰いました。


「ジェーンは、諦めてきたことが多いからそのような物の見方が出来てしまうのだろうな。だが、エンディオとの婚姻は、諦めることが無い家族の絆が紡げると良いと思う。そなたの父には、婚約者ではない者との結婚を頼んだこと。それはそれとして、ジェーンのことをきちんと見るよう諌めてきたつもりだったが。そしてそなたの母にも、まだ元気な余の母上から伝えてもらったのだが。改善されなかったことは、エンディオからの報告で聞いている」


 不意に両親のことを話し始められた陛下。最終的にこの話はどう決着を付けるか分からなくて、聞いていましたら、陛下が私に問われました。


「どうしたい。あの二人に公爵家に戻ってもらい、ジェーンと家族のやり直しをしてもらいたいか、それとも今さらだと切り捨てるか」


 そのような話とは思わず、目を瞬かせてしまいましたが、少し考えます。


「お父様は、十日に一度は屋敷に帰り、公爵としての仕事が滞りないか確認をするそうです。その際ですら顔を合わせないので、本当なのか分かりかねますが。お母様は、私が五歳までは一緒にいてくれる時間を作っていてくださいましたが、義務を果たしたとばかりに、出て行って護衛と共に暮らすようになってから、気紛れに公爵家に来るらしいので分かりかねます。陛下にお伺い致します。公爵家は、存在しないと国として問題でしょうか」


 きっと父と愛人という立場になってしまった、本来の婚約者様との間に生まれている私の異母兄弟の誰かが公爵家の跡取りなのでしょうが、一切会っていないのに使用人を扱えるのか、という疑問があります。

 また、教育をされているのかも知りませんし、屋敷内を回せるのか、領地と領民を守れるのか、全く分かりません。

 私が知らないだけで、私があの家から居なくなれば上手くいくのかもしれませんが、現在のところ公爵当主不在の家です。

 それでも問題が無ければ、存続するものなのでしょうか。

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