たとえ世界が憎くても
「はぁ…………」
椅子に腰を下ろすと溜息をつくことが多くなった。今日も公務で一日が終わってしまった。夏季の長期休暇に入ってからほぼ毎日公務に追われている。
王女の公務なんてたかが知れているというのに、力を持ち始めた貴族を恐れて公務を利用して圧力をかける。本当にばかげている。
こんなことなら、いっそのこと貴族に王の座を与えたほうが少しはマシになるだろうとさえ思っている。
上辺だけを取り繕い、互いの力関係を伺い合う。
国を代表するいい大人どもが、子供じみた喧嘩ごっこをいつまで続けるのか。そして、その影響を直接受ける私は、いつになったら自由という感覚を味わうことができるのか。
王女として生を受けたことが悔やまれる……。
しかし、王女という立場の全てが嫌だったという訳ではない。この立場のお陰で、学園に入ってから他国の王女と友人の関係を築くことができた。
いや、もしかしたら王女でなくても友好関係になれたのでは……?
あの王女は誰であろうと気兼ねなく接していて、王女としても、一人の女性としても魅力がある。
それに比べ私はどうだ。
大人どもからは『笑わない人形』『見てくれだけの感情の欠けた王女』などと揶揄され、それが要因で学園に入って以降も人と距離を置いて、他生徒を困らせている。
やはりあの王女は侮れない。私には持っていないものを沢山持っている。そして、出会い方はどうあれ、婚姻相手が芯のある少女と楽観とした日々を過ごしている。
同じ王女でもここまで人生の道筋が異なってくると、呆れを通り越して笑いが出てしまいそうだ。
窓の近くに二羽の小鳥が止まった。
私の方を見ながら甲高い鳴き声で鳴く。大方、公務で疲れ果てた哀れな私を嘲笑しているのだろう。
笑え、笑うがいい。それでも私は、お前たちのように生まれ持っての自由ではなく、自分の手で自由を手にする。
そのためにも今は知識を、力を蓄える。これも私のために、いや、僅かに有することを許された大切なものを守るために……
コンコンッ…………
ノックの音が部屋に響くと、続いて聞き慣れた明るい少女の声が部屋の空気を震わせた。
入室の許可を求めているその少女は、普段私が寛いでいる時間にノックの一つせず、大きな声と共に勝手に入ってくる。
よって扉をノックすると同時に、返事があるまで入るなと咎めたのだ。
咎めてはいるが、そこに少女に対する嫌悪はない。
むしろその声を聞いた瞬間、冷え切った心に優しく温かい火を当てられた気分になる。
なにせその少女は私と共に生まれ、性格こそ異なるが誰よりも傍で長い時間を過ごしてきた、私が唯一命に代えても守りたいと思える少女。
いや、妹だ。
「姉ちゃん公務終わったー?うわー、紙がいっぱい!」
「えぇ、さっき終わらせたところよ」
「そっか。それなら調理部屋に行こ!ヘンリーさんが作ってくれたクッキーが届いてるんだってマイルが言ってたんだー♪」
「そう、それならちょうどアレが合うかもしれないわね」
「アレ?……あっ!ユリアちゃんにもらったハーブティー!どんなかな?楽しみー♪」
そう、私たちは双子の姉妹でありながら、性格も、見る世界も違う。
けれどこの子を、リルを守るためなら、この身を削ることなど望むところ。
それほどまでにリルが唯一無二であり、愛おしい存在だ――――――




