69話 思春期の娘
あの後、大きなバッグを持った萌香ちゃんが車から降りてから「ごめんねー、お母さん買い物忘れちゃってたから、行ってくるわ。だから萌香ちゃんを我が家に連れて帰ってね。ちゃーんと兄妹でおもてなししてねー」と母が言った後に「へい彼女、家まで送るぜ!」と、小桜さんを車に押し込め、どっかに行っちゃいました。
『兄妹でおもてなし』、つまり茶番続行の合図だ。
はてさてどうしたものか。
「うふふ、2人はどうしてこんな夜道に?」
「あー、そのー、……松葉杖で散歩?」
「1人で松葉杖は不安なので、美羽も同行しました?」
本当は目の前の小桜家に美羽ちゃんを帰す為だが、言えない訳で、てゆーか母さんもお買い物と言いつつ、行き先は目の前にある小桜家だよね? だったらココから離れないと。
「とりあえず帰ろう。あと萌香ちゃん、お泊りパーティって、本当なの?」
「うふふ、説明しますね」
それから事の経緯を聞きながら、松葉杖のゆっくり移動で小桜家(偽)に戻りました。
「たっだいまー、ちゃーんとおもてなししてる?」
「ああ、今は2人でお風呂に入ってる」
「そっかそっか、結構結構」
そう言って母が持ってきたのは、美羽ちゃんの衣類・教材一式で、どうやら小桜ご両親を説得、生活に必要なもの一式せしめてきた様だ。
「母さん、一緒に夕食はまだしも、お泊りパーティはやり過ぎでは?」
「そうだねー、私も最初は萌香ちゃんを帰す気だったし、美羽ちゃんも今日はこれくらいでいっかなーって思ったけど、萌香ちゃんの事情聞いた?」
「ああ。父親は単身赴任、母も仕事が多忙で、最近は会社泊まりで帰ってこないらしいね」
何でも先週末に母親の勤め先で新作アプリがリリースしたが、バグ祭りで同日にメンテナンス。翌日に30分だけ再開してまたメンテ、次の日は1分だけ再開してまたメンテと、今現在も不眠不休でバグ潰しを頑張っているらしい。
「ここ最近、萌香ちゃん家は誰もおらずで、ずーっと1人だったらしいの。このご時世で子供1人だなんて心配じゃない。誘拐とか」
「そうだね。実際誘拐しちゃったね。我が家が」
「失礼ね。ちゃーんと了承取りましたー。萌香ちゃんの家に着いた後、萌香ちゃんの携帯借りて『娘さんを家に連れて帰りましたので』って伝えて、その時にちょっと話して、お仕事忙しそうだからつい『もし娘さん1人で心配なら、仕事が落ち着くまで家で面倒見ましょうか?』って言ったら、是非お願いしますって返されちゃったの」
ええー、いいのかそれ?
「母親と萌香ちゃんが話す場面もあったし、今の地獄(仕事)が落ち着くまでお願いします。勿論お礼もしますって、すっごいお疲れボイスでお願いされちゃったら、断れないじゃない」
よく分からないが、仕事と家庭の両立は難しいらしい。
「それで小桜家まで巻き込んだと?」
「まーねー、ちょーっとだけ我が家で預かって、色々教えてあげたいってお願いしたの。美羽ちゃんが友達を呼ばない理由を伝えてね。だからもう暫く、我が家は小桜家でーす。もうすぐ帰ってくるお父さんにもメールで説明済みだから。ゆぅちゃんも、しっかりお兄ちゃんやってねー」
「はぁ、分かったよ。今更反対しても無駄だしね。……あと、小桜さんにも説明した?」
「美夜ちゃん? モチのロンよー」
「美夜ちゃんって、ちゃん付けする年じゃないだろ?」
「そうね。だけどお母さんは、あえて子供扱いした方がいいと思ってね」
「何だそれ?」
「それに、思わぬ副産物もアリそうだから、しっかりやらなきゃねー」
「おい、何を企んでる?」
「ふっふーん。つまりゆぅちゃんは暫く、鈍感主人公でいいって事よー」
うわぁ、絶対馬鹿にしてるよこれ。だけど情報がなさ過ぎる訳で、とりあえず明日、小桜さんと話してみよう。妹の外泊は心配だろうからね。
「うふふ、いいお湯でした」
「あぁ、それは何よ…」
そこには白いキャミソールとパンツだけの萌香ちゃんがいて、思わず声を失ってしまった。
「あらあら萌香ちゃん、パジャマは?」
「うふふ、これで寝るのが私の流儀」
「駄目よー、寝る時は温かくしなきゃ。パジャマがないなら、ゆぅちゃんのシャツを着て頂戴」
そう母に諭され、萌香ちゃんがタンスの前に移動すると、遅れて美羽ちゃんがやってくる。
「うー、萌香ちゃんは早風呂です。はしたないです」
「まぁ、委縮するよりはいいと思うよ?」
「……………お兄ちゃん?」(ジト目)
「落ち着け妹よ。変にドギマギでして取り乱す方が残念だろ?」
「……………そうですね」
それに昨今の小学生は発育がイイと聞くが、残念ながら2人は標準かそれ以下なので、興奮する要素は皆無だ。だがそれを露骨に伝えるのは無神経なので、努めて冷静に、優しいお兄さんと思われる様な振る舞いをすれば…、
「うふふ、似合います?」
「いや、それって俺のワイシャツだよね?」
「うふふ、やってみたかったので」
「かあさーん?」
「明日洗濯するし、別にいいでしょ?」
「いや、確かにそうかもしれないけど」
下着幼女が俺のブカブカワイシャツを着用している。色気はないけど、よく分からん背徳感があるな。それに洗濯するとはいえ、今後それ着て学校行くんですけど?
「ズルいです萌香ちゃん! 私も着たいです!!」
「うふふ、早い者勝ち」
「じゃあ美羽ちゃんは、親父のワイシャツを」
「そっちは何か臭そうなのでイイです」
ガタン
振り向いたら、仕事から帰ってきた我が家の大黒柱が、orzポーズで項垂れていました。
おやじーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?
その後、美羽ちゃんが全力で謝り、肩を揉んだりして、機嫌を取り戻してくれました。




