30・転生魔王、承認欲求の虜となる。
イ イ ネ! が 欲 し い!!
我は魔王でありながら、承認欲求の虜と化していた。
【風属性魔力増幅(大)】と【追加ダメージ:劇毒】というふたつの特性をつけた鋼の双剣は自信作だ!
あげたコルボーにも褒めてもらえた。……もっと褒められたいぃっ!
もし前世だったなら、スマホで双剣写メってSNSに載せたのに。
私が夢見る究極の魔鍛冶アイテムには程遠いものの、まずまずの出来だと思う。
絶対バズるよ! タイムライン埋め尽くすよ! 間違いないって!
あー、コルボーにあげる前に、だれかに見せれば良かった。
紅茶をあげたせいか最近のヴィペールは魔王称賛BOT化してるから、見せたら絶賛してくれただろうになー。
ヴィペールに褒めてもらうことを想像していたら、少し冷めた。うん、どんなに褒められても裏でなにか企んでる気がするんだよね。乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』の中で、一番喜々として魔王倒してた四天王だし。
下取りした鉄の双剣に、ロック鳥の【風属性魔力増幅(中)】ふたつを合成して、【風属性魔力増幅(大)】の特性にしたものを見つめる。
次はなに作ろうかなー。
アッシュさんの武器屋に良い魔法金属製の装備アイテムが入荷してないかなあ。今度は武器じゃなくて防具も良いかも。ジュルネ王国への行き帰りでまたロック鳥狩って【風属性魔力増幅(大)】ゲットして、【風属性魔力増幅(特大)】作って防具につけたら敏捷が上がって素早く行動できるようになるし。
なんならアクセサリーの腕輪かなにかに特性つけて、バルにあげようかな。
相性が良いから、風属性の魔力は炎属性の魔力を強めてくれるもんね。
装備アイテムの特徴によっては、風属性の魔力に対する耐性が生まれるかもしれない。そうなったときはヴィペールにあげたら良いかな。水属性は風属性苦手だから。
なんてことを考えていたら、自室の扉をノックする音がした。
脳筋魔人の国ニュイ魔王国でも、魔王城ではノックが徹底されている。
私やお母様が着替えしているところへ飛び込まれてはたまらないと、魔王城を訪れる魔人に対してお父様が拳とブレスで教え込んだのだ。
バルの母親の伯母様だけは治外法権。女性同士だしね。
「だぁれ?」
「……私、ヴィペールです。今日は天気もよろしいので、中庭でお茶をご一緒いたしませんか」
「うん、ありがとう」
前に彼が飲ませてくれた紅茶が色水だったのは、古いからだけじゃなかった。
この世界のエルフって雑で野性的だから、湿気てても気にせずに売ってたみたい。
まあどんなに雑で野性的でも、我が民脳筋魔人には敵わないがなっ! 売買の概念があるだけエルフは偉い。
私はジュルネ王国で買った焼き菓子を手にして、中庭へ向かった。
『アイテムボックス』がなくても、密封性の高い容器に入れておけばそれなりに保てるのだ。
サンドイッチやケーキは当日中に食べなきゃダメなんだよね。
切実に冷蔵庫が欲しい。魔鍛冶で作れないかなー。
冷凍庫なら作れそうなんだよね、【氷結】っていう追加ダメージの特性があるから。
いや、そもそも装備アイテム以外を魔鍛冶で作れるのかな?
中庭のティーテーブルには、すでに用意がしてあった。
ティーポットのお湯は、ヴィペールが魔力で精製した最高の水を沸かしたものなのだろう。
お皿をもらって、持ってきた焼き菓子……クッキーを出す。何種類か買ってひとりでこっそり食べてるんだけど、今持ってきたのは紅茶味だ。部下の好みを気遣う魔王です。
「ん?」
なにか美味しそうな匂いがして、私は修練場を見た。
前世の少年漫画で武闘大会が開かれていたような丸い舞台が修練場だ。
うん、修練場で模擬戦闘をしているところを見ながらお茶を飲むと美味しいだろう、とお父様が思ってドワーフに設計してもらったの。脳筋魔人だったから。
「あれ、バル」
修練場にいたのは従兄で炎の四天王のバルだった。
上手く自分の炎属性の魔力を操って、修練場の上に作った肉焼き機で肉を焼いていた。美味しく焼けそうな感じの肉焼き機だ。
どうしたんだろう、バルは生肉が好きだと思ってた。
「よおソワレ。魔王が嫌になったら、いつでも代わってやるぜ(可愛いお前に辛いことなんてさせたくないからな)」
「結構よ。それより……」
私は席を立ち、バルに近づいた。
紅茶味のクッキーを入れた容器と一緒に持ってきたトートバッグから調味料セットを取り出して、塩と胡椒をバルの肉へかけてあげた。
これを持ってきたのは紅茶に砂糖を入れたかったからだ。ヴィペールはなにも入れずに飲んでる。バルが焼いた肉の美味しさに目覚めたのなら、この味も気に入ってくれるかな?
「いきなり、なにしたんだ?」
「ふふふ、良いから食べてみてよ」
唐揚げにレモンをかけるがごとき蛮行かもしれないが、我、魔王ぞ?
多少はワンマン経営だって許されると思う。
というか、みんな調理した食材の美味しさに気づいて! 生で良いから、せめて血抜きして!
不審そうな様子を隠さずに、それでもバルは塩胡椒した焼肉を口に運んだ。
「……こ、これはっ! 美味いっ! 美味いぞーっ!」
夢中で肉を食べ終わり、バルがキラキラと輝く瞳に私を映す。
「マチネ叔母上が使ってた『料理魔法』じゃないか! 凄いぞ、ソワレ! いつの間に使えるようになったんだ?(ま、まさか俺との新婚生活に備えて?)」
「あー……」
そうだ。お母様もニュイ魔王国に料理文化を根付かせようと努力してらした。
だけどみんな魔法の一種だと思い込んで、自分にもできるものだとは思ってくれなかったんだ。
ニュイ魔王国食文化の発展はまだ遠い。
「魔王様、紅茶が冷めますよ」
「あっはい」
その後はクッキーを食べながら紅茶を飲んで、自室へ戻った。
いや、あのバルがお肉を焼いて食べてたんだし、塩胡椒の美味しさもわかってくれたんだから、小さいようで大きな一歩だよね。今度ジュルネ王国へ行ったら、もっと調理されたものを買ってきて、みんなに食べさせてみよう。
それはそれとして……イ イ ネ! が 欲 し い!!
お茶を飲んでスイーツを食べたくらいでは、私の承認欲求は治まっていなかった。




