屋根の上から見る景色
あー
雨上がりだ
雲間から太陽の光が神様みたいに差して
なぜだろうピンク色に見える
照らされた黒猫
黒は何色にも染まりはしないけど
ちょっと嬉しそう
あたし
赤い瓦屋根の上に座って
この世を見る
見渡せる
このへんは高い建物がないからだね
空も広いね
なんか当たり前のことに気づいちゃった
地上より空のほうがよっぽど広かったんだ
だんだん青くなる
電線からぽたぽた
雨の余韻が落ちて
水たまりにぽつぽつ音を立てる
それを聴いて不思議になる
ぽたぽたはどこだ!
どこにも音がないのに
確かにぽたぽたいってる!
灰色と銀色の中間ぐらいの音で
あっ
黒猫が歩き出したけど
あたしはまだまだここにいる
夏の陽射しが戻ってきた
赤い瓦屋根は焼けるように熱くなるのかな
空気もじめじめにされて
世界が熱帯魚の水槽の中みたいになるのかな
どーでもいいや
のびをする
あくびもした
ハチが一匹あたしの中を通り抜けていった
ふと視線を動かすと
あれ? あんな古い建物あったっけ?
戦時中の病院みたいに色あせて
でもカクシャクとした老マッドサイエンティストみたいにしっかり立ってる
何か悪くて楽しいことを企んでるみたいに闇を内に秘めてる
でも外見はあかるく笑ってる
あたしもなんだか
くすっ
笑っちゃった
後ろを振り向くと
屋根のてっぺんを越えて緑の山
黒っぽかったのが
だんだん濃い緑をあかるくする
神様みたい
ちーがーうよ
あれは地球のただのシワ
シワに緑が生えただけ
神様みたいに見える
錯覚だよ
思い込みだよ
あたしが産まれてきたのは海なんだから
神様に会いにいきたいな
あの山を越えて
キラキラ輝く海が見たいな
キラン
空の彼方でなんかきらめいた
UFOかな
飛行機じゃなかったらいいな
宇宙まで行きたい
宇宙に戻りたい
首からかけたおサイフに手をかけた
中にいくら入ってるんだろう
緑の唐草模様のがま口ポーチ
いくらあったら宇宙に行けるかな
天使の羽根なんか小さすぎて
あの世に行くことすらできやしないよ
白い羽根
パタパタさせた
それだけだった
赤い屋根の上が
湯気を立ち昇らせはじめたよ
全然熱くないから
綺麗だねっていえる
なんて芸術的な景色
生きてた時はそんなこと思えなかったのにね
鬱陶しい地獄みたいな景色だなって
そんな風に思ったのにね
天使になれてよかった
見る景色が全然違う
もう存在してないはずのあたしの眼球の中で
世界は総天然色の世界の色
画面が割れるみたいにパリンと割れて
星屑みたいにキラキラと
流れ落ちていくその前に
もっと景色を楽しもうよ
見える景色を楽しもうよ




