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終末

第24部「これからのこと」を一部改稿しています。

ストーリーの流れには大きな影響はないかと思いますが、一度お読み直しいただければ幸いです。

十月十九日 午前六時十五分


 轟音。

 門が倒され、濁流の如くキラーが流れ込んでくる。

 ナナは目を覚ましただろうか。様子を見に行く余裕はない。

 軽装甲機動車の銃座に飛び乗り、ミニミに初弾を装填する。

 先頭集団に狙いを定め、引き金を引く。

 後続が広がりながら校舎へ向かってくる。

 薙ぎ払うように撃つが、一向に数が減る気配がない。

 どれだけの数のキラーが集まっていたのか、進入してくるやつらを撃っても後ろから次々に入ってくる。

 銃身が過熱し、赤くなるまで撃ち続けると、なんとかグラウンドに侵入したキラーを押し返すことができた。

 校門は狭く、キラーが密集するので一気に数を減らせた。

 校門周辺に集まっていたキラーがあらかた片付いたころ、ミニミの弾が切れた。

 M870に持ち替え、昇降口の補強に使った残りで校門を塞ぐ。

 強度は期待できないが、突破されれば音でわかるはずだ。

 軽装甲機動車を移動させ、害獣除けのフェンス等と組み合わせて校門を塞ぎたいところだが、ナナが心配だった。

 軽装甲機動車の中に残してあった物資を回収し、急いで用務員室へ戻る。

 ナナは、和室の隅で膝を抱えていた。

「ナナ」

 声をかけると、ナナが顔を上げた。明るかった表情は見る影もない。

「行くぞ」

 ナナは何も言わない。

 腕を掴み上げようとして思い直し、ナナを抱き上げる。

 拳銃と弾も拾い上げ、用務員室を出る。

 隣の校舎へ移り、いくつかのバリケードを超えて三階、一番奥の教室へナナを運ぶ。

 当初緊急避難場所を想定して物資を配置し、校内で最も頑丈なバリケードに守られた部屋だった。

「ここで待っててくれ。すぐに戻るから」

 もし、校門が塞げなかったとしても、軽装甲機動車から持ってきた分を合わせて二人で四日ほどはもつ。

「行かないで……」

 聞き逃してしまいそうなほど小さい声で、ナナはそう言った。

「ごめんな。どうしても行かなきゃいけないんだ」

 校門の方から物音が聞こえる。この部屋からでは見えないが、またキラーが集まっているのだろう。

 ナナを慰めている時間はない。

「いいか、絶対に教室から出るなよ」

 そう言い残し、教室を後にする。


「待って……行かないで…………」


***


 昇降口に着く頃には、再び校門からキラーが侵入してきていた。

 俺の姿を確認すると、三体ほどが走り出す。

(早い!?)

 陸上選手並みの速さで、どんどん距離を詰められる。

 落ち着いて狙いを定め、撃つ。

 散弾なので、多少偏差が甘くても命中する。

 二体目も始末し、三体目へ。

 もう距離は五メートルもない。

 フォアエンドを操作し、次弾をチェンバーに送り込む。が、キラーはもはや目と鼻の先。間に合わない。

 ストックで殴り飛ばす。地面に倒れたキラーに対し、ダブルオーバック弾を撃ち込む。

 足元に血飛沫がかかる。

 校門に目を向けると、第一波ほど数は多くない。

 チューブマガジンに残ったダブルオーバックをまばらに侵入したキラーに撃ちきり、バードショットに切り替えてまだまとまっているキラーを数体ずつ吹き飛ばす。

 校門のキラーを全て片付け、倒された門やコンクリートブロックなどでとりあえず門を塞ぐ。おびただしい数の死体は後回しだ。

 さっさと車を移動させたいところだが、死体を片付けないと難しい。

 できるだけ補強してからナナのいる校舎へ戻る。

 飛び出してきた窓から中に入り、隣の校舎へ向かう。

 が。

「なっ!?」

 二階渡り廊下に敵影。

 数は三体。

 この距離で散弾を撃つと、コンクリートの壁での跳弾が怖いので拳銃に持ち替えてから撃つ。

「一体どこから……」

 拳銃をリロードしながら周囲を観察すると、階段を上がってくるキラーが見えた。あの階段の下は正面玄関。

 急いで様子を見に行くと、やはりバリケードの一部が破られていた。

 そこから外へ出てみると、フェンスに穴があけられていた。表で戦っていたために気が付かなかった。

 幸い穴は小さかったので、その場ですぐに塞ぐことができた。

 背後から忍び寄られていたら危なかったが、幸運にもここから侵入した三体は先ほど倒した。

 …………本当に?

 本当に、入ってきたのは三体だけか?

 あわてて三階へ走る。

 やはり、三体だけではない。

 二階の階段に作ったバリケードに一体引っかかっている。

 落ち着いて距離を詰めてから拳銃で排除する。 二階のクリアリングはせずに三階へ。

 階段に作った簡易バリケードにはこじ開けた跡があった。

 階段を登り切ると、ナナがいる教室が見える。

「っ!」

 教室の前、最後のバリケードに群がるキラー。数は二十体近い。

 まだ教室まではたどり着いていないようだが、危機なのには変わりはない。

 散弾を使えば一気に蹴散らせるだろうが、教室内にいるナナに流れ弾が中る可能性もある。時間はないが、拳銃で一体ずつ倒すしかない。

 なのに、焦りでなかなか弾が中らない。

 やつらのナナへの執着心は強く、こちらへは向かってこない。

 リロードを繰り返し、前進しながら撃ち続ける。せめて、こちらに注意が向いてくれれば外まで引き連れてから散弾が使えるのに。

「くそっ!」

 悪態をついたところで、減るのは弾薬と集中力だけだ。

 残ったのは三体。

 内一体がついにバリケードを突破し、補強されていない、ただ施錠しただけの扉にとりついた。

357マグナム弾は撃ち尽くした。

「うおぁぁぁぁぁぁ!!」

 まだバリケードに引っかかっている二体をM870のストックで殴り倒し、扉を押し倒す勢いの最後の一体の側頭部を薙ぐ。

 ゼロ距離で発砲。バードショットはキラーの首から上を消し飛ばし、血飛沫を上げる。

 廊下が赤く染まる。

 血液が入らないようにつむっていた目を開け、教室の扉を開けようとした時。

 戦闘による精神的な疲弊。

 足元の気配に対し、反応が一瞬遅れる。

 血で滑らないように飛び退くが、左足に僅かな痛み。

 廊下に穴が空くこともいとわず、発砲。

 初めに倒した二体の内一体がまだ絶命していなかった。

 見れば、スラックスが一部裂けていた。


***


 ナナは、教室の隅で膝を抱えていた。

「ナナ」

 声をかけて、傍に寄る。

 ナナが顔を上げる。うるんだ瞳と俺の目が合う。

「お兄……さん?」

 一瞬の沈黙。

「ぅわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 泣き出し、自分が汚れるのもいとわずに抱き着いてくるナナ。

 落ち着くまで、少しの間そうしていた。

 ナナが顔を離し、俺を見る。

「ごめんなさい。私……わたし…………」

 ナナは、返り血まみれの俺の姿を見て、再び泣き出す。

自分のせいで俺が危険な目に遭うんだ。

 そう考えているのかもしれない。

「俺は……君のために戦うのなら、いやじゃない」

 静かな教室で、平和なひと時を。




 これからもずっと守ってやる。

 左足の痛みが、その言葉を躊躇わせた。





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