行動目標 救援要請
分割分の後篇です、と言いたいところですが、上中下の三部編成になってしまいました。
よって、前話のサブタイトルを少しだけ変更しています。
更新頻度が遅くて申し訳ないです。
十月四日午後一時三十分
武器弾薬のチェックを済ませ、必要のない荷物を屋上へ残し、扉の前で準備が整ったことを最終確認。
扉に耳を近づけるが、足音が少し聞こえただけで、俺達を襲ってきた奴らは散開したらしいことが分かったが、先ほどのように奇襲を仕掛けてくることも視野に入れた作戦を立てた。
極力音を立てずに扉を開き、俺を含めた三人は滑り込むように室内へと戻った。
階段の角から廊下の様子をうかがうと、右に三体、左に五体の計七体のキラーがいたが、まだこちらには気づいていないようだ。
事前の作戦通り、俺は右へ、ナナと仙田さんは左へと向かう。
俺は後ろを向いていたキラー一体の背後に忍び寄ると、躊躇うことなく銃剣で後頭部を刺した。
「隠密行動を基本にして、少しでも時間を稼ぐ。目標のすべてを受け止められるだけの持続火力はここには無いことを忘れないように」
これが仙田さんから示された作戦だった。
銃剣を抜き、次の目標へと向かおうとしたのだが、一体目の頭蓋骨を貫通した銃剣はそう簡単には抜けてくれなかった。
慣れない上に見よう見まねの銃剣術では刺さった角度も、位置も悪かったようで、どう力を加えても抜ける気配がない。
(くそっ! 抜けろ!!)
常に背後には気をつけろ。
射撃場でインストラクターに言われた言葉だった。あの時は冗談だと思っていたし、実際冗談だったのだろうが、こうして命のやり取りをしていると、冗談は訓示になる。
抜けない銃剣と89式に固執したせいで、すぐ背後にせまる影に気付くのが遅れた。
気配に振り返ると、そこには自分に迫った死神の顔があった。
ようやく銃をあきらめる決心をし、すぐに飛びのいた。
キラーは前かがみになりながらも尚俺を追ってくる。だから、足払いをすると簡単にバランスを崩し、後ろ向きに倒すことができた。だが、後頭部を強打したといっても、行動不能に陥るレベルではない。
すぐさまレッグホルスターからP226を引き抜くが、隠密作戦の途中、サウンドサプレッサーも付けていない銃を撃つわけにはいかない。すぐにそう思い直し、トリガーから指を離す。そして思いっきりグリップで脳天を殴った。
だが、人の体はそうヤワにはできていないようで、特に痛覚なんかがまともにあるのか怪しいキラーにとってはなんてことのない攻撃だった。
このときばかりは人間の体の頑丈さを恨みつつ、何度も銃を振り下ろす。
そうこうしているうちに最後の一体がこちらへ迫ってくる。焦って銃を振り下ろす手により一層力を込める。
十回以上殴り、ようやくキラーが動きを止めたころには三体目が目と鼻の先まで迫っていた。
仕方が無く引き金に指を乗せ、力を加える。
だが、撃鉄が雷管をたたくよりも早く、俺の右頬を高速で通り過ぎるものがあった。
ソレは三体目のキラーの左目に刺さり、キラーは完全に行動を停止した。
キラーの左目に刺さっていたのは89式多用途銃剣だった。
後ろを振り返ると、ナナが投擲姿勢からゆっくりと上体を起こしていた。
どうやら向こうはさっさと目標の五体を無力化したようだ。
ジェスチャーで感謝の意を表しながら銃剣を抜き、廊下を滑らせナナに返す。
次に自分の銃剣と89式を落ち着いて左右にゆすりつつ引き抜いた。
「廊下を確保できたら君は階段の防衛。最低でも三分は食い止めて。その間に私とあなたが無線を繋ぐ」
仙田さんとナナが部屋に入るのを横目に見つつ、下へと繋がる階段へ向かう。
階段には先ほどの音を聞きつけたのか、キラーが数体上ってきていた。
一番先頭の奴が最後の一段に足を掛けるのと同時に、先ほどの教訓から銃剣で狙うのは頭ではなく首に銃剣を突き刺す。
そのまま押し出し、後続を巻き込ませながら落とす。
階段の脇に置かれていたダンボールを階段の中央に引っ張り出し、二脚を立てる。
(あと三分。どうにかなりそうだな)
腕時計を見ながら、耳をすませておく。
足音もなく、うめき声もなく、とても静かだった。
(…………いや、静かすぎるんじゃないか?)
先ほどまでは確かに足音は聞こえていたし、今階段を転がしたキラーの音を聞きつけた奴がいてもおかしくは無い。
現に、なにかがそこに存在する気配はまだ感じていた。
嫌な予感がし、バックパックからテープでマガジンを二つ連結しておいたものを取り出し、ダンボールの上に並べておく。
時計を見ると、三分まであと一分強あった。
次が大きなターニングポイントとなります。




