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いつもお読みいただきありがとうございます!
21時にもう一話更新して完結です!
「うへぇ、息苦しい……」
慣れないドレスで私はすでに酸欠状態だった。
インディゴブルーのベルラインドレス。膝あたりから裾にかけて金糸で刺繍がされている。色の組み合わせは公爵夫人が譲らなかったんだよね~。ユージーン様の外見をイメージしてるのは分かるんだけど……。
腰には恐ろしいことにダイヤモンドが縫い付けられている。怖い。ぐるっと一周。これってダイヤのベルトのつもり?
しかもデコルテが露出するデザインでスースーする。お袖はあるのかないのか分からない何重にも重なったレース。破れる、下手したら絶対に破れる。
「首絞められたアヒルみたいな声出すなよ」
「アーロン様の首も絞めましょうか」
「アーロン、あんたやっぱりデリカシーないわね。そんなだからベッドの下にあんな本が」
「わー、ニコラ!」
卒業パーティーが行われる学園のホールには続々と生徒たちが集まっている。私はユージーン様にエスコートされてニコラさんとアーロン様と一緒にいた。パーティーが始まってもいないのに私はすでに疲れている。
「ウィロウ、ちょっと後ろ向いて」
「私、背後に立たれるのは嫌いなんです」
「暗殺者かスナイパーみたいなセリフだな」
ユージーン様はそう言いながら背後に回り込んだようだ。彼の着ている明るめのブラウンのジュストコールが視界の端に翻る。いいよね、ボンボンは何を着ても似合うから。
「ん」
首にあたる冷たい感触。
「今日に間に合ったから」
視線を落とすと小粒だがピンクダイヤのネックレスが首に下がっていた。準備段階でアクセサリーをつけなかったのはこういう理由だったのか。
「首が重くなりました……肩こりが……首が動かせません」
「そんなわけないだろ。ほぼ重さはないぞ」
「ピンクダイヤですよ……ぬ、盗まれたらどうするんですか。一体いくらすると」
「大丈夫だろ。有言実行であの二人のいるグループが頑張って採掘したんだからつけておいてやれ」
ユージーン様に後ろから抱きすくめられる。
「うぎゃあ!」
「色気のない声だな」
「朝早くから公爵夫人にたたき起こされて準備されたのに髪型が崩れます!」
「うちの使用人たちの技術を舐めるな」
「うへぇ」
ユージーン様の息が首筋に当たる。
「うわぁ、お前らいちゃついてんな」
「くふふ」
ニコラさんに意味深に笑われて、アーロン様は相変わらずムカつくニヤニヤ笑いをしている。
本気でアーロン様の首を絞めようかと考えながら、私はある一点に目を留めた。ん? あそこから妙に不穏な空気がする。いや、違う。何か臭うのだ。
「ここにいたのか」
ボンボン王子とジャスミン様がやってきた。主役は遅れて登場するというテンプレである。
ジャスミン様はワンショルダーの濃いグリーンのドレスだ。普段でもお綺麗なのにドレスアップするとさらに品格がある。これが貴族のオーラ……はっ、しまった。今は見とれている場合ではない。
私はすぐにジャスミン様の隣で鼻やらなんやらを伸ばしまくっているボンボン王子に呼びかけた。
「殿下」
「な、なんだ?」
「あちらに不穏な雰囲気があるので行ってまいります。もし目くらましが必要でしたら何かしてください。一発芸とか」
「一発芸……手品とか?」
「できるなら何でも。鳩でも蜂でもウサギでも出してください。多分、あれは婚約破棄騒動の前触れの臭いがします。よろしくお願いします」
「臭い? バートラム嬢、婚約破棄に臭いはあるのか?」
ボンボン王子が後ろでブツブツ言っているが、スルーして会場の隅に向かう。後ろから少し遅れてユージーン様もついてくる。
「あれはひょっとして……目安箱に入っていた投書に関係ある生徒か?」
「だと思います。『婚約者に近付く男がいるので殴っていいですか』みたいな内容でしたね」
「女子生徒の側に男子生徒が守るように立っていて、対面しているのは男子生徒一人か。あれは確か……」
ユージーン様が三人の名前を呟く。最近、貴族のお勉強をしているので何となく分かるが私の心の中はこれだ。
また男爵令嬢が浮気で問題起こすんかい! ピンク頭じゃないけど! ミルクティー頭だけど!
男女は言い争いをしていたが、一人で立っていた男子生徒がとうとう手を上げた。
「いけると思います」
「いや、さすがにそれはっ!」
ユージーン様のツッコミを聞き流しながら、私は男子生徒の手を叩き落とした。
うん、動体視力は落ちてないみたい。




