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味方なのか敵なのか分からないが、結構な人数に囲まれている。距離はあるが、この小屋には小さな窓しかないし、出入り口も一つ。逃げるのは不可能だろう。
「もういいや。このピンク頭、モヒカンにしてやる」
「お嬢ちゃん! なんでモヒカン!?」
「そうだぞ! それに、犯罪者みたいな顔になってるぞ!」
「ちょっと! 離しなさいっもがっ!」
「お嬢ちゃん、なんでピンク頭の口に藁を突っ込んでんだ!?」
「私はれっきとした、まごうことなき被害者です。黙らせるためです」
「いや、この光景はどう見てもお嬢ちゃんが加害者だぞ!?」
ぐいぐいピンク頭の頭を――うーんピンク頭の頭って言いづらいね……引っ張っていると、入り口がドヤドヤ騒がしくなった。
「ちっ。この女がモヒカンになってもいいって??」
「お嬢ちゃん、怖すぎ」
「なんでモヒカン……」
敵を脅すためにピンク頭の首を絞めながら入り口に目をやると、仕立て屋で一緒にいたマリーさんとばっちり目が合った。
「え?」
「え?」
よく見たら護衛さんは一度小屋の外に出ていたらしく、何人か引き連れて中に入ってくる。
「えっと。坊ちゃん。想像と状況が違いますが、入ってきてください。ウィー様無事です、無事! 怪我はえっと……やばそう?」
「ウィー! 大丈夫か!?」
焦った様子のユージーン様が護衛と一緒に入ってきて、私たちの姿を見て足を止める。
「私にはウィロウという祖母がつけてくれた素晴らしい名前があるのですが。何勝手に略して呼んでやがるんですか」
「ちょっと待て! 今言うことはそれじゃないはずだ! なんでピンク頭の首を絞めてる!?」
「モヒカンにしようと」
「モヒカン!? あのニワトリのトサカみたいな?」
「ニワトリは卵を産む素晴らしい鳥ですね」
「あ、うん。分かった。ピンク頭とニワトリを一緒にしない」
「よろしい」
「いや、これ何の会話?」
全く役に立っていなかった護衛さんが口を挟んでくる。うるさい。
そしてユージーン様は焦りすぎてホールドアップしている。
「仕事しない護衛は黙っててください」
「すんません」
「では、状況を整理します」
「あ、うん」
ピンク頭の首に腕を回したまま、私は喋る。
「ピンク頭は私を誘拐し、第一王子派になるようオールドリッチ公爵家を脅迫する予定だったようです。あとは、隣国ともつながりがあるようで」
ユージーン様に新たに驚いた様子はない。さっきからずっと驚いているからだ。
「他に情報は?」
ピンク頭を絞めながら聞くと咳き込みながら首を振る。藁を口に突っ込んだからかな。
「だ、そうです」
「お、お嬢ちゃん。そろそろピンク頭を放してやったら? 助けも来たみたいだし?」
「あぁ、それもそうでしたね。そもそも、味方ですよね?」
「なんで味方かどうか疑われてるんだ? パトリック、何かしたのか?」
ユージーン様が護衛に話を振ると、パトリックと呼ばれた護衛さんは激しく首を横に振っている。
「そこの護衛さんは大して何もしてないです。仕事しろ、ってか給料返納しやがれ」
「いやいやいや! 一緒にわざと誘拐されましたし、ピンク頭を気絶させましたから! なんで俺こんな嫌われてんの!?」
「誘拐された時点で第二王子にはすでに知らせを送っている。とりあえず、ピンク頭をこちらで拘束しよう」
「わかりました」
仕事しない護衛さんともう一人の護衛さんが近づいてきて、私からピンク頭を受け取る。
猿轡を再度噛ませる様子を見ていると、ユージーン様が近づいてきた。
「怪我はないか?」
「抱き着かれたら分かりませんけど」
「まぁそうだな」
近付いてきたと思ったら普通に抱きしめられた。なぜだ、解せぬ。
私、さっきまで緊急戦闘モードだったからすぐに乙女モードに切り替えとか無理。
「離してもらえます?」
「ほんとに心配した。いきなりいなくなるから」
答えになってないっつーの。
「相手がアホで良かった……ウィロウが傷つけられたかと思ったら……」
ん? ユージーン様震えてる?
私も自分の手をユージーン様の背中に回してみて……あ、これ私の震えだわ。乙女モードに切り替わったのかな。
「遅いんですよ、助けに来るのが」
「悪かった……他にも三軒ほど怪しい小屋があったから」
「所有者を明確にして管理させないといけませんね」
怪しげな小屋多すぎ問題。空き家問題でもある。
「本当に無事で良かった」
「苦しいです」
「うるさい」
そんなに力を込めて抱きしめられると苦しいんですが。
ほんとに。うるさいとかじゃなくて。それに後ろでマリーさんがニヤニヤしてるのも恥ずかしいし。
「うっうっ。お嬢ちゃん、良かったな」
「婚約者、上から目線の嫌な男なのかと思ったらそうでもねぇじゃねぇか。おい、お前、飴ちゃん出せよ。こーゆー時のための飴ちゃんだろ」
「手縛られてるから無理ィ」
あとでユージーン様に、この二人の家族のためにいい医者を紹介してもらうようお願いしよう。誘拐されたんだから10個くらいお願い聞いてもらわないと。レモネードとかマカロンとかステーキとか。
「頑張ったのでステーキ食べたいです」
よく考えたら頑張ったのはピンク頭の髪の毛抜くことくらいかな。うーん……いや、ちゃんと情報を引き出したよね!
「用意させる」
「あとはデザートにケーキ食べたいです」
「料理人がもう作ってる」
「素晴らしい。そして、パトリックという護衛さんはちょっと嫌です」
「ウィロウの護衛からは外すようにする」
「なんでしれっと名前呼んでるんですか」
「いいだろ、別に。略すなと言ったのはそっちだ」
まぁそうなんだけど。
ようやくユージーン様の腕から解放された。ふぅ、体力ないのに腕力はあるんだなぁ。
「藁がついてる」
ユージーン様が髪の毛や顔についている藁を取ってくれる。藁の上でピンク頭にのしかかったり、髪の毛抜いたりと格闘したからね。
パサパサと髪の毛をはたかれて目に入らないように瞑る。
ユージーン様の手の動きが止まったので藁が大体落ちたかな?と目を開けると、目の前にはユージーン様の顔のドアップがあった。
顔はいいんだよ、この人。顔は。
思わず、私はユージーン様の頬を叩いていた。やっぱりまだ戦闘モードだった。




