44
いつもお読みいただきありがとうございます!
「なんでそのあだ名を……?」
「はぁ? お前まさかこの娘とグルなのかよ?」
「そんなわけないだろ! グルならそもそも誘拐しないだろ!」
覆面男二人は言い争いを始めるが、うるさいのでやめてほしい。
それに、ナイフを当てられている人質さんが私の声を聞いて一瞬だけ顔を顰めた。あれ、これって私疑われてる? この人質の人、私がグルで誘拐されたとか考えてる?
「声で分かります! 飴ちゃんをくれたケンさんですよね!?」
「やっぱりグルだろ! お前いっつも飴持ってるじゃねーか」
「なんで疑うんだよ!」
「えーと、落ち着いてください。私は借金取り時代のケンさんを知っているだけなんですけど。今は違うんですかね?」
私の言葉に覆面男二人は動きを止める。
「病気の娘さんはお元気ですか?」
「なんで娘のことまで……お嬢ちゃん……俺はあんたに見覚えはない」
「いや、俺はあるぞ。こいつ……もしかしてほらあの貧乏貴族のクソ生意気なガキだろ? いっつも男みたいな恰好してた」
「バートラム伯爵家ですね」
「バートンだかバートラムだか知らんがそんな名前だ!」
おお、こちらも借金取りの方でしたか。いや、なんか懐かしいね。
ケンさんの本名は知らないけど、借金の催促に来るたびにこそっと私と弟に飴ちゃんをくれていた。同い年くらいで病気の娘がいるって言ってたんだよね。
「くっそ! じゃあこいつ、俺たちの顔知ってるじゃねーか!」
「いや、何年前の話ですかそれ。人相覚えてませんよ。めっちゃ怖かったってことくらいしか覚えてませんよ」
「まさか……あの家のお嬢ちゃんなのか?」
「えーと、どの家か分かりませんけど、山の近くのツタと草の生い茂る、無駄に大きくて裏に畑を作っている伯爵家なら、はい。我が家です。」
お、人質さんが目を見開いて私を見ている。やっぱりこの人、この前のハイキングで一緒にいた護衛の一人だわ。
でもすみません、黙っていてもらっていいですか? 今、借金取りさんと感動の再会中なんですよ。こんなことって普通ないじゃないですか~。
「えーと、もしかしてうなだれていらっしゃるのはゼンさんと呼ばれていた方でしょうか?」
「ああ! 終わりだ! 名前まで把握されてる!」
声に聞き覚えがあったけど、やっぱりこっちも借金取りの人だったか。
「いや、あだ名しか知りませんって。ってか人相なんて何年も経ってるから分かりませんよ」
「そ、そうか!?」
「おい、変なこと喋るなよ。俺たちはこのお嬢ちゃんを引き渡せば金がもらえるんだから!」
ケンさんがはっとしたように言う。確かに、ゼンさんってナイフを人質に当てながらもさっきから情報をちょいちょい喋っちゃってるし。意外と小心者?
「どうせ引き渡されるなら誰に依頼されたか教えてもらえませんか? もうすでに誘拐されてるんですから」
私の言葉に二人は顔を見合わせる。
「あの小屋に行けばいるんだから言ってもいいんじゃないか?」
「依頼人のことを軽々しく話すのも」
誘拐は初めてなのか? この二人。落ち着きと連携がないなぁ。
「まぁまぁ。引き渡した後、あなたたちは依頼人に殺されるかもしれませんけど教えてくださってもいいじゃないですか。きっと病気の娘さんの薬代に困ったんでしょうし。ゼンさんもおばあ様はお元気ですか? おばあ様の足の手術は?」
「なんでそんなことまで覚えてやがる」
「二人が喋ってたんで」
よく考えたら借金取りだった頃からこの二人は怖くなかった。こんなに覚えているのは恐怖を感じていなかったからだ。二人ともお金のために仕方なく借金取りやってたし。ゼンさんも口調は乱暴だけど、他の人みたいに壁蹴ったり、面白半分の憂さ晴らしに私たちを追い回したりしてなかったし。
「家族のために今回誘拐したんですよね?」
「そうだ」
ケンさんが観念したように頷く。
「お嬢ちゃんを誘拐したのは引き渡したら金をくれるという話だったからだ」
「鏡の奥の通路の存在は雇い主に知らされたんだ」
「雇い主は……こういっちゃあなんだが頭の悪そうな喋り方の女だった」
いや、頭悪そうな女の依頼なら受けない方がいいでしょうよ。
「前金をもらってるからな」
私の疑わしそうな視線を受けて二人が罰悪そうに言う。
頭の悪そうな喋り方の女しか情報がないんだったら、全然絞り込めないんだけど。
「帽子をかぶってたが髪がはみ出してた。あんな珍しい髪色は忘れねぇよ。ピンク頭だった」
え、ピンク頭ってまさかここで聞くの?




