42
いつもお読みいただきありがとうございます!
仕立て屋ではいろんなところを採寸された。
「こんな感じはいかがでしょう?」
ついてきてくれた侍女のマリーさんがいろんな布を持ってきて好みを聞いてくれる。が、しかし違いがよく分からない。光沢があるなぁとかその位しか分からない。
「こちらはネメック領で有名なシルクですね」
うげ、シルク!
慌てて首を横に振る。シルクが高いことくらい私でも分かる。
「ネメック侯爵領のシルクは有名だからな。それで一つ仕立てよう。デザインの流行りはあるだろうか。今の流行りだと……」
ひぃぃ、値段も見ずに!? 値段見ずにお買い物って正真正銘のボンボン!
しかもその生地めちゃくちゃ高そうなのに!? 怖い、怖すぎる。
「あと数着は仕立てておこう。仕立て終えたらオールドリッチ公爵家に届けてくれ。それからすぐに着れるよう既製品を数着見たい。合わせて靴と帽子も」
「え、まだ買うんですか?」
「母上から公爵家にふさわしい服装をするようにと言われている」
「ふさわしいってどんな服装ですか?」
「母上みたいな服装じゃないか?」
「えぇー、あんな地味に擬態して生地は一級品って詐欺のような服装ですか……しれっと宝石縫い込んであるような……」
「母上のドレスのデザインは年上向けだから、若い貴族令嬢に流行っているデザインにするぞ」
「年上向けって女性に対して言っちゃあいけませんよ。貴婦人向けと言ってください」
「気にするのはそこじゃないだろ」
ユージーン様とぎゃーぎゃー言いながらも、生地やドレスデザインがどんどん決まっていく。
「じゃあこの中から好きなのを選んで、まずは試着だな」
「はぁ、疲れた……」
慣れない高級品に囲まれるほど神経を使うことはない。よく分からないものばっかりだし。
「疲れて目がうろうろするのでユージーン様、決めてください」
「いや、好みがあるだろう」
「大事なところが隠れれば服は何でもいいです」
「おい」
「決めるのって疲れるんですよ……あと派手な色は苦手です」
「じゃあ、露出が少なめで。このおさえたオレンジなんかどうだ? 瞳が琥珀色だからオレンジは合うだろう。ブラウン系はこの前買ったからな」
私はユージーン様に丸投げしてイスに座り込む。疲れた、お腹も空いた。
マリーさんはユージーン様と一緒になって服を選んでいて楽しそうだ。
「じゃあ、まずはこれだな。試着してくれ」
「はぁい……」
ふらふらしながら試着室に入って服を手渡される。着替えを手伝うと店員がやってくるのを断ってカーテンを閉めた。
さすがに一人になって一息つきたい。いつも全部一人でやっているから、ここで手伝われるなんて恥ずかしすぎる。丁度よくこのワンピースは一人で着れるデザインだ。
疲れたなぁ。ドレス仕立てるのってこんなに疲れるのか。商品がたくさんありすぎて見るだけで疲れる。選ぶのはもっと神経を使う。
ぼんやりしていたので気付かなかった。
よっこいしょと試着する服を壁にかけてワンピースのボタンに手をかけようとした時に、後ろから羽交い絞めにされた。
声を出そうにも口をふさがれているので出せない。というか、侵入者? どっから入ってきた? もしかして最初からいた? いや、さすがに試着室に誰かいたら気付くけど、試着室って言ってもここ広いのよね……。
フガフガしていたら、奥の鏡が開く。え、好奇心をくすぐる隠し通路なんてそこになくてもいいんですけど!? むしろ今じゃない! 公爵邸でゆっくり探索して見つけたかった~。
私は鏡の奥の通路に引っ張り込まれた。
「いくらなんでも着替えが遅くないか?」
「そうですね。声をかけてきます」
待っていたユージーンとマリーは顔を見合わせる。
「ウィー様。お着替えは終わりましたか?」
マリーが声をかけても反応がない。
「ウィー様? ウィー様? 疲れて寝てらっしゃいますか?」
「空腹で倒れてるのかもしれない。開けてくれ」
「ウィー様、開けますよ」
マリーは空腹でってなんだよと思いながらカーテンをゆっくり開ける。
そこには試着するはずの服だけがかかっており、誰もいなかった。




