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いつもお読みいただきありがとうございます!
今回のテストもアーロン様の山勘と過去問に助けられました。
え? 婚約者と勉強するのが青春じゃないかって? 生徒会の皆さんと勉強しましたよ?
でも私の鬼気迫る様子を見て男性陣は引いていて。付き合ってくれたのはジャスミン様でした!
いや、テスト前って追い詰められるじゃないですか。順位落としたら奨学金なくなるとか。
婚約したとしても骨の髄まで染みついた癖はどうしようもないですよね。
私の場合は生活と人生懸かってましたので。
ジャスミン様、ネメック侯爵令嬢ですね。頭撫でたり、紅茶淹れてくれたりしてとてもありがたかったです。教え方もうまいし、差し入れにお菓子くれるし。
ボンボン王子に恨めしそうな目で見られていた気がしなくもないですが、生活と人生がかかってるから仕方がないです。それにまだ婚約もしてないのにそんな目で見るとかねぇ、さすが恋愛脳ボンボン王子。
内々にジャスミン様が婚約者に内定しているのは知ってるけど、まだ対外的に婚約者じゃないもんね。それなのにその態度、やっらし~。すでに「俺の婚約者だぞ」みたいな風吹かせちゃって。
さて、終わったテストのことは置いといて今日はいいお天気。ハイキング日和です。
テストが終わったら適度な運動って大事ですよね。
「あ、イチゴがなってますね。帰りに摘みますが、味見で食べてみていいですか?」
「はい、どうぞどうぞ」
私の問いに答えるのはユージーン様ではなく、オールドリッチ公爵家の護衛だ。見たことない人だな……まさか庭師兼……はっいかんいかん。深入りはやめておこう。領地だからメンツ変わるよね、うん。他家のことに首を突っ込みすぎるといいことないよね。
テストが終わったら、問答無用でオールドリッチ公爵家の領地に連行されることが決定していた。
これは何かの嫌がらせでしょうか。休みに特に予定なんてないからいいっちゃあいいんですけども。
イチゴを食べていると、ユージーン様と護衛達が追いついてくる。
途中でユージーン様がへばっていたので、置いてきたのだ。
「君は登るのが早いな……」
「ユージーン様、息が切れてますよ。はい落ち着いて~、深呼吸」
「はぁ、大体なんで山でイチゴ摘み……」
そこまで急な山道ではないが、ユージーン様は息を切らしている。体力ないね。
公爵夫人に「野イチゴを摘んできて。ついでにあの山でピクニックしてくればいいわよ!」とランチボックスと共に送り出されたのだが。私は良くてもユージーン様、令嬢並みに体力ないな。勉強の体力と山登りの体力って違うもんね。
「じゃあ頂上目指していきましょう」
「この辺で食べて帰ったらいいんじゃないか?」
「何を言ってるんですか。山に登って途中で帰るなんて。一度登ったら天気が許す限り頂上を目指すのが山への礼儀です!」
後ろで護衛さんたちがめちゃくちゃ笑いを堪えているがスルーする。
「あ、なんなら私だけ登ってくるのでユージーン様は帰りますか?」
「いや……山への礼儀なら頂上まで行こう」
その言葉に護衛の一人が吹き出したが全員がスルーした。
「ウィーちゃんと仲良くなるにはハイキングよ! 吊り橋効果を狙いなさい!」と母から厳命されているユージーン。だが、公爵夫人は重要なことを失念していた。
ウィロウ・バートラムの令嬢らしからぬ体力である。
屋敷に来た借金取りから逃げるため山に逃げ込んだこと多数。彼女の健脚は学園に入ろうともあまり衰えていなかった。
そう、草抜きでも分かっていたことである。ウィロウ・バートラムの方が貴族のボンボンお坊ちゃんであるユージーンよりもはるかに体力があるのだ。さすが三徹余裕の女である。
「や、やっと着いた」
「ユージーン様、よく頑張りましたねぇ」
まるで老人を労わるかのようなウィロウ・バートラムの言葉に、護衛達はまた吹き出すのを堪えた。
「やっぱり緑が多いところは空気がいいですね! 王都は人が多すぎてたまに嫌になります」
「確かに空気はいいな」
頂上で景色を見ながら食べるランチはまた格別である。しかも領地の料理人が作ってくれたランチにはしっかりお肉も入っていた。グッジョブ。
「休み明けには殿下の婚約が発表されるらしい」
「え、やっとですか。ずっとジャスミン様のこと気持ち悪い目で見てるからほんとに気持ち悪かったです」
「気持ち悪いって二回も言うなよ」
「アンネット様のことはもういいんですかね?」
「あれは殿下にとって恋愛じゃなかったのかもな」
「なるほど。兄の婚約者が良く見えていたとはやっぱり気持ち悪いですね」
「ピンク頭に行かないだけマシだろう」
「底辺と比べて良かったね、なんて何の慰めにもなりません」
殿下の不毛な恋愛話はもうやめよう。ごろんと寝っ転がる。
「あー、空が広いですね~」
「いつもと変わらないんじゃないか?」
「まだ若いのにそんな夢も希望もないこと言わないでくださいよ。ほら、ユージーン様も寝っ転がってください。忙しいと空って見ませんからね」
手を無理矢理引っ張って草の上に寝転ばせる。
「雲の流れを見るのは久しぶりだ」
「どんな生活送ってるんですか」
私も人のことを言えるわけじゃないけど。
「こんなにゆっくりした気分になったのも久しぶりだ」
「自然を感じるのもいいですよね」
しばらく二人でぼーっと空を見る。
「ちょっと冷えてきましたね」
「そうか?」
汗が冷えたのかな。ユージーン様は起き上がると、ブランケットを護衛からもらって私にかけてくれた。なんと準備のいい。
「こうすれば寒くないだろう」
ユージーン様は再度寝っ転がると、手を握ってきた。え、誰のって? いや、護衛の手を握ったら護衛さんも困るでしょう。私の手ですよ。
こんなトチ狂ったことするなんて、ハイキングで頭が酸欠にでもなったんですかね。青春っぽいではないですか。今日はなんだか思考がおばあちゃんだ。
ユージーン様の手はじんわり温かい。
「明日にはきっと筋肉痛ですよ」
「うっ、それもそうだな」
「帰ったらストレッチしましょう。疲れが違いますよ」
「……分かった……」
そういえばこの前は触られそうになって全力で逃げたけど。手をつなぐくらいなら大丈夫なのかしら。
背後から抱き着かれたら背負い投げする自信があるしなぁ。顔も髪も触られるの苦手だからなぁ。子供の頃、借金取りに「金返せ」って髪の毛引っ張られたことがあるから。あれは父を脅すためだったんだけど。
領地の屋敷に戻ってからユージーン様の体がけっこう硬いと判明した。
ぶ、ブクマがかなり増えてる!?
ありがとうございます。更新頑張っていきますね~。




