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いつもお読みいただきありがとうございます!
今日も昨日と同じで公爵邸に草抜きに招かれているのだが、何かがおかしい。
「まぁ、髪の毛がかなり傷んでいらっしゃるわ!」
「手もよ! インクの染みがぁぁ! 取れないレベル!」
きっかけは公爵夫人の一言だっただろうか。
「ねぇ、ウィーちゃん。草抜きに髪が邪魔にならないかしら?」
ウィーちゃんってあの場のノリじゃなかったのか。継続してたのか。
「そうでしょうか。結んでいたら大丈夫ですよ」
いつも通り、適当に馬の尻尾みたいにすれば。
「前に切ったのはいつ?」
「テスト前です。前髪を自分で切るだけですね」
だってお金なかったし。後ろまで自分で切るのは怖いし。学園にざんばら髪で行くのはちょっとね。
「まぁ! 器用なのね! でもうちに腕のいい侍女がいるのよ! ちょっと呼んできて~」
言葉巧みに鏡の前に座らされて、ベテラン侍女三名に髪や手をいじくられている。
「前髪をご自分で? しっかり揃っていてお上手です!」
「は、はぁ」
褒めると見せかけて、容赦なくブラッシングしてくるの何でですかね?
「くっ! けっこう引っ掛かるわ」
「ブラッシングが終わったらオイルを塗るわよ!」
私は草抜きに来たはずなのに、なぜ容赦なく絡まった髪をクシに引っ掛けられて抜かれているのでしょうか。
えぇ、ブラッシングなど適当なので。寝ぐせさえついていなければオッケー。別に誇ることもないダークブロンドの髪の毛が公爵家の床に落ちていく。すみません、後で拾うんで……。というか結構抜けてる……禿げないよね?
「ちょっ! 肩がバッキバキに固いわ!」
「手もかなり凝っていらっしゃるわ!」
「これは久々に腕が鳴りますね!」
え、手って凝るもんなの? 親指の下の方、押されたらめちゃくちゃ痛い!
というかなんで流れるように肩もみに移行してんの? あと、一人すごいやる気出してる侍女さんいますけど……。
「ひとまず今日はここまでです」
「えぇ、ウィー様の体力が持ちません」
「草抜きとは違う体力が必要ですからね」
いや、ウィー様ってなんで?
「坊ちゃまと奥様をお呼びしましょう!」
「うふふふ! 今度は腰から下ですね!」
「それが終わったらメイクですね! 仕立て屋もお呼びになることでしょう!」
恐ろしい会話がなされている。が、髪をいじくられて肩やら手やら腕やらを触られた私はかなり疲弊していた。
借金取りから逃げるのにもこんなに疲れなかったのに。あれは変な物質が脳内から出てるのかもね。
ユージーン様そういえばどこいった? 草抜きしてるの? あの軟弱さで倒れてないかな。早く私も草抜きに行かねば。ボンボン王子やアーロン様への恨みを草で少しでも晴らさねば。
「まぁまぁウィーちゃん! 髪の毛がサラサラになったわね! 素敵よ」
「では草抜きを」
「あー草抜きはいいのよ。あの子にやらすから!」
「いえ、ユージーン様では根まで駆逐できません。奴らはすぐ生えてきますから。奴らはどこにでもいます。そして野菜のための養分を吸い取って我が物顔で成長するのです。許すべきではありません。やらせてください」
「ちょっと、ユージーン! ウィーちゃんに何とか言いなさい!」
あ、ユージーン様いたんですね。私、諸々いじくられて疲れて気が立っているので草を猛烈に抜きたいのですが。まごうことなき草に対する八つ当たり。
そう、誰だって、なんなら国王だって絶対に八つ当たりはするのだ。八つ当たりの手段が買い物だったり、ボードゲームだったり、お酒だったりで草抜きして発散する人が少ないだけで。
私の殺気だった目を見ていろいろ察したのかユージーン様が近づいてくる。
「レモネード飲むか?」
「飲ませていただきます!」
「マカロンも持ってきてくれ」
やはりユージーン様はよくわかっている。食べ物で釣るとは。喉カラカラだもん。
でも、レモネードとマカロンって合うの? いや、合わなくても頂きますが。
「髪の艶が増してる。手入れも楽になるんじゃないか?」
ユージーン様が手を伸ばして私の髪に触れようとしてくる。思わず、体をずらして全力で避けてしまった。
お、ユージーン様が手を伸ばした状態で固まっている。
「あら、だめよ。女の子の髪を勝手に触ったら~。結構積極的なのね、ユージーン」
公爵夫人のとりなしでユージーン様は手を引っ込めた。私のほっとした様子を見て公爵夫人は目を細めている。
すみません、触られるのってあんまり好きじゃないです。借金取りに捕まりそうな感覚がするので……。




