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【連載版】私は脅迫されております!  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売


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いつもお読みいただきありがとうございます!

これは嫁いびりでしょうか。いや、まだ嫁じゃないのは分かってるんだけど。


「実はね、家庭菜園というものをやってみたいのよ」


初対面のオールドリッチ公爵夫人と会って10分もしないうちに私は庭にいた。

公爵とは一回短時間だけお会いしていたのだが、夫人は領地にいたのでなかなかお会いできていなかったのだ。ユージーン様はお母様似ですね。そっくり。公爵様はシュッとしたイケオジでしたが、さすが公爵。目がアレだった。普通の人の目じゃなかったね。借金取りとは違う意味の鋭さで、経営者の目って感じ。

話はそれたが、公爵夫人が領地から戻ってきたと公爵邸に招かれたらなぜか庭に立っている。

また騙された?


「公爵家ならば腕のいい庭師がたくさんいらっしゃるのでは?」


私のイメージでは、雑草だらけの花壇をささっとバラ園にできちゃいそうなのが公爵家だ。金と人材の宝庫。


「うちの庭師は影と兼任なのよ」

「それは厳しいですね」


適当に相槌を打ってしまったが、それはそれでキツイ労働条件なのではないのだろうか。


「だから、今庭師が出払っているの」

「それは困りましたね」


公爵夫人がおっとりとお上品すぎてうっかり会話が成立してしまう。恐るべし公爵夫人。

と言いますか……庭師が出払っている事態ってまずいのでは? 戦争でもあるの? 何か攻めてきます?


「領地と行き来しなければいけないんだけれど……今、家庭菜園なるものをやりたいの。トマト育てたいのよ。あなた詳しいでしょう?」


お上品だが意外とアグレッシブ。欲しいものはすぐ手に入れるタイプですね。お店でこれとこれとこれとこれを頂戴って値札見ないで言うタイプ。ちなみに、私は家庭菜園に詳しくはない。そしてチョイスがトマト。


「どなたがお世話するのですか?」

「母上、まさか私では……」

「まぁ、あなたにさせたら枯れてしまいそうだわ。出払っていないときは庭師か私、いないときは執事や料理人に頼みます」

「食糧難でもくるんですか?」

「その可能性はゼロではないわ」

「トマトだけでは乗り切れませんよ」


あ、ユージーン様も一緒にいますよ。この前の王子に騙されたお茶会での失態を挽回しようとしてくれているのか、私を信用していないのか、また騙す気なのか、単にマザコンなのか。


「とりあえずこの土は粘土質で野菜を育てるのに向きません。土をふかふかにする方法もありますが、手間がかかるので畑用の土を他から運んでくるという方法もございます」

「まぁ、すごいわ!」

「どのみち、雑草を抜かないといけませんけどね」


他の部分は綺麗だったのにどうして奥まった庭のこの部分だけ、シダっぽい植物が生えまくっているのか。怖いわ~、政敵の死体とか埋まってないよね? 養分たっぷり?


汚れてもいい服と膝当て、手袋を貸してもらい草抜きスタート。公爵夫人がやろうとしたから慌ててストップをかけた。


「多分、ミミズやダンゴムシやよく分からない虫がでますよ」

「ミミズって何かしら?」

「母上、日陰でお茶でも飲みながらトマト以外何を植えるか考えていてください」


ユージーン様まで草抜きを始めるのはなぜだろうか。


「そういえば、あなた達の馴れ初めは?」


草抜きしながら振られるのがその話題なんですか。きついですね。

そして、このシダっぽい雑草しぶといのよ。根ごといかないと一か月後にはすぐ復活してしまう。


「脅迫されたことでしょうか」

「違う」

「いえ、ピンク頭のご令嬢に脅迫されてからが出会いですよ」

「う……それもそうか。主語が違った」

「ユージーンもあなたを脅したのかしら?」

「婚約に関してはそうとも言えます」

「あら、脅迫から始まる恋なのね」

「だから、違う。脅してない」

「まぁまぁ、ユージーンったら照れちゃって」


いや、ユージーン様いつも通りのお顔ですが……。


「面白い女枠だそうなのでよろしくお願いします」

「ご令嬢が草抜きしている時点でおもしろいわ。ユージーンも一緒になってやっているし。ふふ、いいわね、こういうの。共同作業ってやつね」


公爵夫人って天然なんだろうか。話が通じているのかいないのか。


「私は旦那様に結婚を何度も迫られて、『僕と結婚しないと君は不幸になる』なんて言われちゃって」


急にご自分の馴れ初めをぶっこんできたね、この人。


「『君と結婚できないなら死ぬ』って橋の上や屋敷の窓の側で言われちゃあねぇ、あら、私と旦那様も脅迫から始まっているわね。嫌だわ、ユージーン。あなたは私にそっくりだけど中身は旦那様によく似てるのねぇ」


ころころと上品に笑う公爵夫人。オールドリッチ公爵家はだいぶおかしかった。

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