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いつもお読みいただきありがとうございます!
両サイドをツンツンつつく。
「どうにかしてください。私が恨まれます」
「いや、どうにかって無理だろう」
「そもそもあの令嬢の発言が問題なんだ」
「何を言っているんですか。二人とも生徒会であの投書があったから災害補助金について考えただけで、補助金や備蓄についてこれまで考えたことありました?」
目つきが剣呑にならないよう努力しながら聞くと、二人とも狼狽えている気配がする。
「ないですよね? ボンボンで平和に過ごせていたら私だって考えませんでしたよ。あのご令嬢のどこが悪いんですか? それとも王妃になりたいなら、すぐこの場で完璧な答えを用意できなきゃいけないんですか? 政治に積極的に口出しできるわけでもないのに求めすぎでしょう」
「それは……」
いやいやそこで黙らないでってば!
ユージーン様を見ても眉間に皴を寄せただけだ。人に面白さを要求するならもうちょっとこう……面白い奇抜な意見をご自分も出すとかですねぇ!
アーロン様は真面目そうな顔しつつも、目は笑ってるし。ニコラさんがまた足を踏んでいる。
「母上、もういいではありませんか。急に言われても難しいでしょう」
お、ボンボン王子がなんとか動いた。そうそう、ご令嬢をうまくフォローしとかないとね。
モテる秘訣その1ですよ。
「あら、私はこちらのご令嬢が他人を嘲笑したことに失望しているのよ。別に補助金に対する意見について言っているわけではないわ」
おう……まじか。じゃあ、もう次からそのご令嬢を呼ばなきゃいいじゃんね?
ん? そもそもお茶会って女のマウント合戦だよね? 趣旨は合ってるよね?
「他の皆が委縮してしまうではないですか。もういいでしょう」
王子、それフォローになってませんから。むしろ油注いでますから! 令嬢のせいで場の空気が悪くなってるって言ってるよね!?
「そう……あなたはいいの?」
王子に内心突っ込みを入れていたので、反応が遅れた。ユージーン様に腿をつつかれる。
「?? 私ですか?」
「えぇ、あなたよ」
美しい以外になんと形容すればいいのか分からない王妃にじっと見られている。私、女性を好きとかあまり考えたことなかったけどうっかり変な気分になってくる。
話を戻そう……マカロンに夢中で気付かなかったんだけど、あのご令嬢は私にマウントを取って笑っていたのか。なるほど。てっきり、王子の口から極貧ってワードを出たことに笑ったのかと思ってた。
基本、立場の弱い人間を踏みつけて自分を誇示する方が簡単だものね。ネメック侯爵令嬢にマウント取ろうと思ったら大変。
「はい。笑われて傷つく矜持など持っておりません」
なんとかこの場をスルーしよう。別に私は笑われても平気だ。笑われても笑われなくとも、お腹が膨れることなどないのだから大した問題ではない。
王妃は私の回答をお気に召したらしい。笑って数度頷き、あからさまに違う話題をご令嬢たちにし始めた。
あー、良かった。なんとかなったね。
「一番マウント取ってたぞ?」
「え?」
「あの令嬢に笑われても私の矜持は全く傷つきませんって意味だろ? つまり、お前なんか敵じゃないって遠回しに言ってたんだろう?」
一部にとっては不穏なお茶会の後、お茶とお菓子・軽食で膨らんだお腹を抱えてみんなで帰りながらユージーン様に指摘された。
私たちは集団の一番後ろを歩いている。
「いえ、矜持なんて私は持っていないので大丈夫ですって意味ですよ? 矜持で腹は満たされません」
ユージーン様は歩きながらじっと考える。
「多分、それは王妃に伝わってない。俺が言ったように伝わっているはずだ」
「げ」
「あと、そのせいで王妃に気に入られてしまった」
「そんな恐ろしい特典いりません。税金安くなるんですか?」
「いや、ならないだろ……はぁ……いや、俺もフォローできずに悪かった」
「そーですねぇ」
そうだよ、ユージーン様。お茶会ド素人の私をフォローしなかったよね!?
婚約者としてどうなの? 思わず、ジト目で見てしまう。
「いや、ほんとに悪い」
「だましてお茶会に連れてきましたもんねぇ」
素直に謝ってくれるのはいいが、やってしまったものは取り返せない。今日くらいは文句を言ってもいいだろう。
「事前に殿下に伝えられていたんだ。今日、あの場所でお茶会が開かれることは。そして、王妃は令嬢たちの反応を見るため、殿下に途中から偶然を装って参加するように指示したわけだ」
「へぇー、ほぉー」
「悪い。あまり緊張していないようだったから、俺が口を出してフォローするのは君を信用してないように周囲から見えるかと……」
「緊張するに決まってるじゃないですか。ご令嬢方には睨まれて、王妃様はびっくりするほど綺麗で。私の心臓は鋼じゃないんですよ! ガラスのハートですよ!」
ロマンチスト思考でなくとも、男性にさりげなく助けてもらえると嬉しいんですよ!
「お前ら、痴話げんかはその辺にしとけ~」
アーロン様がニヤニヤしているが、ニコラさんに派手に背中を叩かれている。半日も一緒にいないがニコラさんはすぐ手足が出るタイプだ。
「バートラム嬢でも緊張することがあるんだな」
お茶会ではユージーン様と同じくらい大して良いところがないボンボン王子まで、失礼なことを口にする。この人も人を珍獣かなんかだと思ってない?
「ネメック嬢が緊張すると言っていたから、皆で財務部に行くのを今日に調整したんだ」
「あー、だからわざわざ予定してた日を変更したんっすね」
「どうやらバートラム嬢とも名前で呼び合うほど仲良くなったようだからな」
「そうなのか?」
意味ありげに私に流し目を送る王子と「いつの間に仲良くなったんだ?」という表情のユージーン様。
「ネメック嬢に対する母上の印象は悪くないようだ」
「まさか私たちを連れて行ったのってネメック侯爵令嬢を緊張させないためですか?」
「俺だけで行くと母と示し合わせていたとバレそうじゃないか」
このボンボン王子、ネメック侯爵令嬢のために私たちを連れて行ったってわけだ。
今日の犯人はこの恋愛脳王子だ。目安箱の投書に恋愛沙汰が多いのはきっとこの王子が恋愛脳だからだ。類は友を呼ぶんだから。
むかつく。私のヒビが入ったガラスのハートを返してくれ。




