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「ユージーンは婚約したのよね、おめでとう」
和やかなお茶会、になるわけもなく。
席に着いたものの数名の令嬢たちから睨まれている。その原因はもちろん両隣のユージーン様とボンボン王子だ。
ユージーン様は分かるけど、ボンボン王子は令嬢たちのいるあっちに座りなさいよ! みなさん、明らかに気合入れて着飾ってきてるじゃないの! ちょっとは褒めてあげて!
「ありがとうございます」
ユージーン様、王妃と物怖じせずにこやかに話してる! 紹介されて私も言葉少なく挨拶をする。緊張しすぎて声が出ません。
「彼女は領地での経験から災害補助金についていろいろ聞かせてくれました」
王子、余計なこと言わんでよろしい! うっ、ほらまた令嬢たちに睨まれた!
「それは大変だったわね。バートラム伯爵の領地は……そうね、あの辺りは災害があったものね」
王妃が再度こちらに目を向ける。うぅ、目がつぶれる。この人、子供産んでるのよね? 何なのだ、この若々しさは。肌ツヤは私など足元にも及ばない。もしかして魔女?
「彼女のおかげで学園でいろいろな生徒に聞き取り調査も行えて実態が分かりました。これまでいかに自分が何も分かっていなかったことか」
ボンボン王子の口に今すぐティースタンドの中のサンドイッチでも突っ込みたい。あなたが私のことを喋るたびに睨まれてるんですよ! 心臓に悪いから向こうで綺麗かつ可愛いご令嬢たちと喋ってきてください。
「借金までして復興をして……彼女が赤裸々に語ってくれた極貧生活には驚きました。学園の座学と生徒会だけで満足していた自分が心底恥ずかしい」
「極貧までは……大げさです」
もうほんとやめて。そんなに赤裸々に語ってないし。お肉くらいだよね? あとはウサギへの恨み?
とにかく、今は芽の出たジャガイモをこのボンボン王子に食べさせたい。ボンボンだから芽の出たジャガイモなんて見たことないだろうな~。はぁ、このお茶会早く終わらないかな。お菓子をパクパク食べていい雰囲気でもない。
王妃が神妙そうな顔をする後ろで令嬢たちがクスクス笑った。
うん、まぁ笑うよね。私もボンボン左うちわなら笑うと思う。ネメック侯爵令嬢は別の意味で笑ってるんだろうけど。あ、またいつもの癖でネメック侯爵令嬢って呼んでしまっている。
「あら、何かおかしいところがあったかしら?」
笑い声に反応したのは、この場で最も高貴な女性である王妃。先ほどから甲高くもなく、低すぎず、耳に心地いい声だ。
「何がおかしかったのか、ぜひ聞かせてほしいわ」
声は心地いいが、内容は怖い。私と数名の令嬢以外にとっては和やかだったお茶会の雲行きが怪しくなってきた。
ボンボン王子とユージーン様は黙り、アーロン様もニヤニヤ笑いを封印して真面目な顔を作り……いや、失敗して変な顔になっている。ニコラさんが肘でアーロン様をつつく。
なんだか……講習会のトラウマ初回と雰囲気が似ている。
「あの、恨まれるの私なので何とかしてください」
「え? 大丈夫じゃないか?」
ボンボン王子とコソコソ話す。
「女の世界を舐めすぎです。めんどくさいタイプは立場の弱い人を恨むんですよ。つまりこの場合、後々恨まれるのはなぜ笑ったのか聞いた王妃殿下ではなく原因となった私です」
「うげ」
王子、お茶会でそんな変な声出さないでください。ちらっとユージーン様を見るが首を横に振っていた。諦めが早い!
「彼女の様子がとても可愛らしかったので、思わず笑ってしまいました」
お茶会のために侍女さんたちが頑張ったのだろう。学園で見るよりも大人びたネメック侯爵令嬢が不穏な空気を打ち破った。
男って頼りにならない……なんて思ってしまったことは内緒だ。




