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「もう帰っていいですよね?」
「まぁそんなに慌てるな。せっかく一芝居打ったんだから庭の美しい花でも見て行こう」
「え、花って……別に食べられないじゃないですか。何のお腹の足しにもならないものを見ても……」
「ぐふっ」
ユージーン様が吹き出す。良かった、狙ったわけじゃないけどこれで「面白い女枠」としてのポイントを稼げたかしら。いっそ分かりやすくポイント制にしてくれればいいんだけど。はぁ、格上の婚約者を持つと女は辛いね。これは男の場合もか。
「ちょうどティータイムだから菓子も用意させる」
「ワカリマシタ」
お菓子があるなら仕方ない。我慢して花も見ようじゃないか。
途中で婚約者を連れて来たアーロン様と合流する。アーロン様の婚約者は小柄で可愛らしい方だ。これでは大柄なアーロン様と並んで歩くと歩幅を合わせるのが大変だろう。
「俺の婚約者のニコラだ」
「よろしくお願いします」
アーロン様の婚約者はシュペール伯爵家のご令嬢だ。可愛い方だなと思って挨拶したら、アーロン様の背中を彼女はバンバン叩いている。
「もうちょっとマシな紹介しなさいよ! 『ニコラだ』ってだけ言われてどうやって会話すんのよ! 信じらんない! かっこつけてるつもり!?」
「痛い! 痛い!」
軽いノリで会話している二人。背中を叩いてはいるものの、お似合いである。尻に敷かれている感じがビシバシする。
「こいつ、デリカシーないでしょう? 苦労してない?」
いや、デリカシーは私も含めて生徒会男性陣はみんなあまりないんじゃないでしょうかね。
「もうさー、お見舞いのフライドチキンでっかいのを持って行くって言ってたからあり得ないよね。体調悪いのにフライドチキンにかぶりつくとか無理だから!」
「あ、もしかして一口大にしてくださったのは」
「そうそう。体調万全な時にかぶりつくフライドチキンが一番美味しいのよ!」
ニコラさんはとんでもなく話しやすい、他人を自分のペースに巻き込むのがうまい人だった。口調が最初から砕けすぎていて、ちょっと丁寧な近所のおばちゃん状態である。私が言うのもあれだけど、この人ほんとに令嬢なのかしら。
気さく過ぎるニコラさんたちと庭を歩いてお菓子を用意させたという目的地まで歩いていたので、気付かなかった。
護衛の騎士が多いなとは感じていたが、お城にいる上に王族がいるしこんなものかな、と軽く考えていたのである。
「おや、母上もお茶会ですか?」
「あら、ケネス。そうよ。あなたはここで何をしているの? そんな大勢で」
「災害補助金の件について学園で声があがったので独自に調べていたのですよ。今は皆に庭を案内しているところです」
「あぁ、あの件ね」
え、めちゃくちゃ高貴そうな人がお茶飲んでるんですけど……。重そうな髪飾り頭につけてるし……。それに、数名の令嬢たち。王子の登場に分かりやすく顔を輝かせている。
あ、ネメック侯爵令嬢もいる。ん? じゃあこれって……。
「お疲れ様。ちょうどいいわ。ここでお茶にしていきなさい。ここにいるご令嬢たちにも意見を聞いてみましょう。テーブルとイスを用意してちょうだい。みんなもいいわね?」
いや、いいわね?って言われても王妃様の決定に「ダメです」って言いにくいでしょう……。
それに白々しい演技が入っていたけど、これって決まっていた感じですよね?
いくらボンボン王子とはいえ、王妃が小規模のお茶会してるって知らなかったなんてないだろうし。
テーブルとイスってそんな簡単にストックしてるものなんですか? いかにも仕事できますって感じの女性使用人たちがあっという間にテーブルとイスを用意し、クロスを引き、ティースタンドとティーセットが置かれ、あれよあれよという間にユージーン様がイスを引いてくれて……座らされた。
騙された。なにが「庭の美しい花でも見て行こう」だ。そういえばユージーン様が「約束のお時間です」って言ってた!




