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ユージーン視点です。
「無事、婚約できてよかったな。ユージーン」
「お嬢さんを僕にくださいってやったのかぁ?」
「やるわけないだろう。格上からの申込だぞ?」
生徒会室で盛り上がる王子とアーロン。
「バートラム伯爵は婚約の申込を詐欺だと思っていたらしく、本物だと分かって泡を吹いていました。伯爵夫人は支援額を見てずっと嬉し泣きをしていて二人とも話になりませんでした」
「うわぁ……カオス」
「ユージーン、大変だな……」
「バートラム嬢は書類を隅から隅まで確認して、同行した専門家に色々質問して気に入られてましたね」
「一番しっかりしてるな」
「全然ピンクな雰囲気がないっすね。ビジネス?」
「彼女の家にはまだ学園に入る年齢ではない弟がいて、彼が一番冷静でしたね。『お義兄様、うちの姉はあんなんですけど本当にいいんですか? 返品不可でお願いしますよ?』と言われました」
「しっかりしてる弟だな」
「ってか心配されてる?」
「ま、ユージーンはこれから頑張ればいいだろう」
遠い目をするユージーンの肩を王子がぽんぽんと励ますように叩く。
「殿下はどうするんっすか」
「アンネット嬢はバクスター公爵家の跡取りに正式に決まりましたからね」
「あぁ。だからアプローチする間もなく失恋確定だな」
ため息をつく王子。クールな見た目なのでため息は物憂げで似合うはずなのに、性格をよく知っているせいであまり似合っていないと感じてしまう。
バクスター公爵家は、アンネット嬢が第一王子の婚約者だった頃から養子を迎えて後継者教育を施していた。今回、養子は喜んで元の家に戻って幼馴染と結婚し、幼馴染の子爵家を継ぐようだ。王妃教育が施されているアンネット嬢を国外に出すわけにもいかず、無難な落としどころとも言えるが、第二王子の婚約者にはならないという公爵家からの明確な意思表示である。
アーロンと二人で王子を慰める言葉を探していると、生徒会室のドアが開いてネメック侯爵令嬢が講習会から戻って来た。
「お、講習会お疲れー」
アーロンが声をかけるが、ネメック侯爵令嬢に睨まれたのはユージーンだった。
バンっと手に持っていた資料を机に乱暴に置くと、ネメック侯爵令嬢はユージーン達の前まで近づいてくる。
なんだか怖い雰囲気に三人とも口を開けないでいた。この人ってすっごい大人しかったはずだよな? 侯爵令嬢なのに偉ぶったところがなくて、むしろ引っ込み思案なのか大人しいなと思ってて……バートラム嬢が生徒会に入ってからやっと話す機会が増えてきたというか……。
「ユージーン様。婚約者を守る気はあるのですか?」
「え?」
ユージーンは思わず聞き返してしまったが、ネメック侯爵令嬢の眉間のシワが深くなったので初期対応を間違えたようだ。
「バートラムさん、今日の講習会で陰口をかなり言われていました。体を使って公爵家に取り入って婚約したとか、泣きついたんだとか」
「あいつ、気にしなさそう」
アーロン、それは本当の事だとしても言っちゃだめだ。そんな気はする。彼女ならご飯をひっくり返されたら激怒して暴力を振るいそうだが、お金やご飯が絡まない限りはおそらくどうでもいいというスタンスだろう。
ネメック侯爵令嬢はアーロンを睨む。この人、こんな人だったのか? 会計の女子生徒で大人しいとしか認識していなかったが……他の女子生徒と違って媚びてこないし……発言する時も遠慮がちだったし……。
「確かにバートラムさんは、陰口はそよ風のようなものと気にも留めていなかったのですが。気にしなかったらそんなことを婚約者が言われてもいいのですか? アーロン様の婚約者も陰口はかなり言われておられますよ? 『あんな脳筋の婚約者で大変そう』とか『あの脳筋、身長が高いから歩く速度違いすぎて大変そう』とか」
「え、そうなの?」
いや、ネメック侯爵令嬢。それは陰口って言うよりアーロンの婚約者への同情では?
アーロンの方が陰口の対象では? 主に脳筋のあたりが。
「これは今日の講習会でバートラムさんに陰口を言ったり、賛同したりしていた女子生徒のリストです。一部すでに講習会から追い出しました」
さらっと怖いことを言いながら、ネメック侯爵令嬢はメモをユージーンに渡す。
「女性には女性の世界がありますし、男性にも男性の世界がありますが……格上の公爵家が何らかの対応をすれば、バートラムさんへの反応は変わると思います。いくら気にしていないことでもずっと言われ続けるのはストレスでしょうから」
ショックを受けているユージーンたち三人との会話を強制終了させ、ネメック侯爵令嬢は簡単に片付けをすると帰って行った。
入れ替わるようにバートラム嬢が入ってくる。
「え、何かありましたか?」
「バートラム嬢、週末出かけよう!」
「ネメック侯爵令嬢、あんなにカッコよかったのか……」
凍った空気を読んだバートラム嬢のセリフと、なぜかデートに思考が飛躍してしまったユージーンのセリフ、そして恋愛に関してはチョロい王子の呟きが見事に重なったのだった。




