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「どうやって貧乏伯爵家が公爵家に取り入ったのかしら」
「体使ったんじゃない?」
「えぇ~、泣きついたんでしょ~」
うん、予想通り。やっぱこうなるよね。
ネメック侯爵令嬢と有志のご令嬢達で立ち上げた放課後の講習会。アンネット様はいないよ。
指定された部屋には中々の人数が集まっていた。希望者は事前に参加表明の紙を提出して参加するシステムである。
ユージーン様と私の婚約について周知されたら陰口がすごいことになった。それは講習会の開始を待っている今でも同じである。良識ある方々は何も言わないんだけどね。
そういえば、婚約に際して契約書にサインしたけど大した内容書いてなかったのよね。うちへの支援額が書いてあるのはしっかり確認して……大切なのはそれに付随する条件! 白い結婚だとか愛人を別邸に住まわすとか書いてなかったのよね。どこかに小さい文字で書いてないかと隅々まで目を凝らしたけど、専門家に笑われただけだった。「契約書を読み込むのは大切です! 素晴らしい」とか言われたけど、絶対あの人笑ってたからね。
うちの両親は公爵家からの婚約打診を詐欺だと思っていて、本当だと分かって父は泡を吹き、母は嬉し泣きしていた。いやいや、封蝋まで偽装できないでしょ。
というか、話は戻ってそこのご令嬢方よ。私のこの貧相な体をどうやって使うのだろうか。謎である。
あと、そういう普段の態度の悪さがいじめや差別につながってるところもあると思うんだよね。ほら、あっちの子爵家のご令嬢は顔を顰めて陰口言ってる集団を見てるよ。
そーゆーとこあるから「これだから庶子は」とか言われるんだよ……陰口聞こえるように言ってるの、ほとんど庶子出身の方なのも痛い。もちろん、陰口言ってない庶子の方々の方が多いけれども。
チーン
ネメック侯爵令嬢がグラスをカトラリーで叩いたことで、ザワザワしていた室内が静かになる。そのチーンは一回誰でも人前でやってみたいと憧れるやつだ。
ネメック侯爵令嬢はゆっくり陰口を言っていたグループのテーブルに近付いた。
「やる気がないなら出て行ってくださる?」
こわっ!
まさかしょっぱなからここまで言うとは思ってなかった。注意して何事もなく講習会スタートするんだと思ってたよ!
「ここはやる気のある方々がマナーなどを学ぶ講習会です。必修ではありませんし、始まる前から酷い態度で私語ばかりの方は邪魔になります」
完璧な笑みでネメック侯爵令嬢は陰口グループに語りかける。怖い。笑顔であることが余計に怖い。陰口グループの令嬢達は揃って青ざめている。青ざめるなら陰口言わなきゃいいのに。
「困ったわ。やる気のない方にやる気を出させるなんて私にはとてもできませんの。あなた達がいると講習会がスタートできないわ」
ネメック侯爵令嬢、なぜ本日はそんなに怖いのでしょうか。もしかしてキレていらっしゃる??
先生がよくやるじゃん? みんなが黙るまで何もしなくて「皆さんが静かになるまでに〇分かかりました」というあれ。あれよりよっぽど嫌だわ~。
席が遠くて陰口が聞こえなかったらしく興味津々にこちらを見ている参加者や、「あんたらのせいで始まらないじゃないの!」とばかりに陰口グループを睨んでいる参加者もいる。
「そんなにバートラム嬢の婚約に文句があるなら、オールドリッチ公爵家に申し出ればよろしいわ。今からでも行ってらっしゃい。ユージーン様は生徒会室にいらっしゃるわよ。勇気があるのね。私、公爵家に盾つくなんてとてもとても」
怖い怖い怖い怖い。
「それに泣きついたり、体を使ったりして婚約しただなんて。淑女としてそんな発想が出るなんて恥ずかしい限りだわ。痴女なのかしら。公爵家への酷い侮辱だわ。そんなことも分からない方々は講習会よりも先に学ぶことがあるものね? 常識とか」
怖すぎてむしろ伝説的瞬間に立ち会っているのではないかと思えてきた。ジャスミン・ネメック侯爵令嬢の生涯の中で語り継がれるべき名シーンよね、これ。
長くなったので分けてます。




