22
いつもお読みいただきありがとうございます!
「放課後にマナーの講習会をする??」
王子の怪訝な声が部屋に響く。
「マナーだけでなくても構いません。ですが、マナーが一番手っ取り早いかと。授業でもマナーは習いますがついていけない方もいらっしゃいますし、何より授業だけでマナーは身につきません。実践できる場が増えるのはいいことではないでしょうか」
「それと庶子の差別とどう関係があるんすか?」
アーロン様が不思議そうな顔だ。
「高位貴族といきなり仲良くなるのは不可能に近いですが、講習会の中で仲良くなったり、意見を交わしたりできるようになれば差別やいじめも減るかと。いじめや差別はする方の性格の問題なので、注意しても一時的にしか改善しないでしょう。そういう方々に最も効果があるのは、高位貴族が庶子の方々と仲が良いとか後ろ盾となっていることなのではないかと」
ネメック侯爵令嬢の発言に皆考えるように黙る。
王族と高位貴族と下位貴族、貴族と平民などの明確な身分制度がある限り差別をなくすのは無理だろう。身分制度がない国でも移民だとか障害があるとかで差別があるって聞くし。
今回はピンク頭が庶子の出であり、第一王子という王族が絡んでしまっていたので庶子への差別が大きくなっているわけなので――。庶子がいなかったら養子かあるいは潰れているお家もあるから一概にダメとも言えないし。そもそも親の下半身事情の話だし……ピンク頭みたいなことをしなければ庶子が過剰に叩かれることもなかったわけで……。難しい。
「いいのではないでしょうか。お茶会の実践の中で領地の特産物を出して紹介するなど宣伝にもなりますからね。メリットもあってマナーも身につくなら参加するのでは? おそらく女性がメインでしょうから、男性は男性で討論会や語学の勉強会などを準備してもいいかと」
ユージーン様が口を開いて賛成する。
「へぇ、おもしろそうっすね。でも俺は剣術稽古とかの方が良いなぁ」
「それならグループに分けてもいいだろう。その方が興味のあるものに参加しやすい」
「みんなで交互に授業みたいなことするのもいいですね」
アーロン様や王子達もノッてきた。
「バートラムさんも手伝ってくれない?」
ワイワイ言い始めた男子達を眺めていると、ネメック侯爵令嬢が私に近付いて囁いた。めっちゃ良い香りがする。高い石鹸お使いですね。
「勉強に支障が出ない程度なら……」
「あら、ユージーン様と婚約するなら大丈夫でしょう? それに、公爵家に嫁ぐならマナーは勉強しないと」
ぐはっ。痛いところを突かれた。私、粗暴だからね。所作はいちいち美しいなんてことはないからね。猫被ったらお茶会中はなんとかなるけれども。でも、高位貴族のお茶会っていろいろめんどくさいんだよね……うちお金ないからほとんど参加してこなかったし。
「お願いできるわね?」
ネメック侯爵令嬢、そんなにマナー講習会やりたいのか? なんか怖い。
「ネメック侯爵令嬢が中心になってやるんでしょうか? 講習会とかお好きなんですか?」
ハッキリ言って、私みたいなのにマナー教えるなんて物好きだ。野ザルにマナー教えるようなものだ。ピンク頭だって強かな野ザルみたいなものだった。
よほどのもの好きでないと教えるのは続かないだろう。
「人脈はたくさん持っておいて損はないもの。それに教えるのって元々好きなの」
「ソウナンデスネ」
あ、まずい。あまりの物好きっぷりにヤバイ人を見る目で見てしまった。
「でも、参加者の中から交代で授業をするのも面白いわね。自分の得意な事で授業をするのよ。刺繍教えたり、護身術や勉強教えたり。そういう方が楽しいかしらね」
「勉強教えて他人の成績上がったら、私は困りますけどね」
私の成績下がるようなら、私より成績が上の人をテスト前に怪我させなきゃいけなくなる。
「あら、ユージーン様と婚約するなら大丈夫よ」
「さすがに今更成績は落とせませんよ」
「……確かに婚約が決まった後、成績が落ちたらあまり印象良くないものね。じゃあ勉強はなしで。放課後なんだし、実践メインにしましょうか」
男子は男子でなんか盛り上がっていて、ネメック侯爵令嬢は勝手にウンウンと頷いている。
「バートラムさんは何か得意で人に教えられることある?」
「借金取りからの逃げ方ですかね」
さすがにこれはネメック侯爵令嬢には賛成されなかった。




