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「あなた……お金で買われるように結婚してもいいの?」
次の週から私は普通に授業も生徒会も出ていた。フライドチキンは偉大である。
珍しくネメック侯爵令嬢と生徒会室に二人きりになった時、果物のお礼とこの前の無礼な態度の謝罪をするとこう聞かれた。ユージーン様の婚約云々のお話よね。
「はい。むしろ私にあの借金分くらい価値があったということなので良かったです!」
契約書を見るまでは安心できないが、頭の中の大部分を占めているお金の心配がなくなると世界が輝いて見える。今日は大雨だけど、それでも世界は輝いて見えるのだ!
むしろこれで「ドッキリでした!」とか、契約書に違う内容書いてあったら凹む。いや、むしろユージーン様を呪い殺すか祟り殺す自信がある。
「政略結婚も同じようなものじゃないですか? むしろ、加虐趣味のある老人のところや相当問題のあるご子息のところじゃなくて良かったです!」
「それならいいけれど……」
ネメック侯爵令嬢は不満そうだ。
「ええっと、何か問題がありましたか?」
もしかしてユージーン様のこと好きだったとか??
「学生のうちからお金で買われるような結婚が決まるのは……なんだか……受け入れられなくて……」
なるほど。確かに私も友達が借金返済のために老貴族に嫁ぐって決まってたら嫌かも。友達いないけど。このくらいの年齢の時って潔癖だって言うもんね。おばさんのようにしみじみと考えてしまった。
「借金は働いてコツコツ返そうとも考えたんですが、年数がかかります。それなら借金返済と引き換えに婚約する方が手っ取り早いかなと。災害もまたいつ起きるか分かりません。これ以上借金を増やすわけにもいきませんし、税を上げて領民の女性や子供たちが親から引き離されたり、売られたりするのは嫌ですから」
晴れ晴れとした笑顔を私は浮かべているだろう。ネメック侯爵令嬢はそんな私を眩しそうに見た。
「あなたの覚悟をバカにしたような発言をしてしまったわ。ごめんなさい」
うん。まぁその辺りは価値観の相違だから仕方ない。借金のないボンボンの発言だから。
私も生まれる家が違ったらそうだったかもしれない。
また災害が起きて備蓄もなくなって税が払えなくて、女性や子供達が売られてしまうのは私が嫌なのだ。やはり借金は早めに返しておくに限る。
「いえ、気にしていません。そう考える方もいらっしゃるでしょうし。一つ聞きたいのですが、アンネット様にうちの隣の子爵領の話をされましたか?」
そう、私が気になっていたのはアンネット様がなぜ生徒会内での話を知っていたかなのだ。ネメック侯爵令嬢がアンネット様に喋ったという可能性が一番高い。だが、他の人かもしれない。
「それは私ではないわ。さすがに生徒会内での話を役員ではない方にはしないもの。証拠もないデリケートなお話だったのもあるけれど」
「そうですよね……。となると眼鏡令息……? いや、アーロン様が婚約者にポロッと喋ったとか……」
「おそらく殿下がアンネット様に喋ったのよ」
ネメック侯爵令嬢は「おそらく」と言いながら確信を持っているようだ。
「殿下はあの方のことがお好きだもの。見ていれば分かるわ。相談したときに喋ったのではないかしら」
ふふっと笑うネメック侯爵令嬢。私はポカンと口を開けた。




