19
いつもお読みいただきありがとうございます!
「リンゴでも食べるか?」
「いただきまっす!」
あ、アーロン様の真似になってしまった。
フライドチキン美味しいんだけど、そろそろさっぱりしたものが欲しいところだったのよね。
ユージーン様はネメック侯爵令嬢が一緒に持ってきてくれた果物ナイフで手際よくリンゴを剥いていく。しかも、うさぎの形にリンゴの飾り切りだと!!?
「このウサギなら可愛いだろ」
「いや、そもそもなんで公爵家のご令息がリンゴ剥けるんですか?」
影の統率に何か関係があるのかしら?
「そんな期待した目で見ても意味がないぞ。身内が狩り好きでよく連れていかれたから炊事全般がそこそこできるだけだ」
「ふぉーなんですね」
シャリッシャリシャリシャリ
私がリンゴを食べる音だけが部屋に響く。
食べるのに集中していると、ユージーン様の手が私の額に当たった。
「げ。まだ結構熱があるぞ」
「ふっふっふ。ユージーン様。青いですね。熱があると思うからいけないのです。熱がない、平熱だと思っていれば熱は出ていません」
「なんだ、その根性論は」
「大体、熱が出た程度では休めません。学費を自分で払う方が高熱より何百倍もしんどいです」
むしろ、学費払わなきゃいけなくなるという恐怖でおちおち寝ていられない。昨日のように気絶したら別として。
「そのことなんだが……君の家の借金を肩代わりするから俺と結婚しないか?」
ん? なんかもう一個リンゴ剥こうかみたいなノリで重要なことを言われた気がする。昨日途中で不覚にも気を失っちゃったからね。
「もしかして平民の恋人でもいるんですか? 身分的に結婚できないという」
「そんなのはいない。本の読み過ぎだ」
「では、実は男性が好きでお飾りの妻が欲しいとか」
「まさか男性同士の恋愛の本を読んでるのか!?」
「前に目安箱で話題になってたから一応聞いてみたんですよ~。で、そうなんですか? アーロン様とか? 殿下とか?」
「断じて違う!」
「ふむ」
ふむ。どっちでもないのか。
「私は契約書さえ書いてもらえればお飾りでもなんでもいいんですけど」
「いいのか!?」
ユージーン様、なんでそんな嬉しそうなんでしょうか。そんなにお飾り妻欲しかったのか。
第二王子殿下への令嬢方のアプローチがすごくて忘れてたけど、あなたもアプローチ結構されてたもんねぇ。いいねぇ、ボンボン且つ顔面偏差値が高い人は。選ぶ気があるなら選り取り見取りで。
「借金返済してもらえるなら。条件は嫁に行っていろいろな雑務をこなしつつ、暗部に入ればよいのでしょうか? 私、害獣は狩れますけど人間は自信ないです。むしろこの年齢から訓練をして使い物になるのかどうか……でも書類仕事なら徹夜でも! 三徹なら余裕です! サインの偽造もできます!」
運動神経が超絶イイわけじゃないしなぁ。逃げ足だけは自信あるけど。
一応、できることをアピールしてみる。三徹とサイン偽造……他になにかないかな……。
「そーゆー犯罪まがいは求めてない……。君はハキハキしているし、一緒にいたら面白いから……」
「なるほど! ギャグ担当ですね! ユージーン様を笑わせるオシゴトですね!」
「いや、違う。その……」
「なるほど、女除けで結婚するにしてもユーモアはあった方がいいですもんね! ユージーン様、そんなに言いづらそうに気を遣って頂かなくて大丈夫ですよ! 分かってますから! 借金返してやるからうちで契約妻になれなんてヤバイ老貴族みたいに鬼畜なことははっきり言いづらいですよね!」
「だから違う!」
「いえいえ、身の程は弁えています。うちの借金の額を考えると……ん? うちの借金の額、ご存知ですかね?」
「調べたから知っている。それに契約ではなくてだな!」
「さっすが公爵家ですね!」
「好ましいと思っている相手だから結婚をしないかと言ってるんだ!」
「え?? 当たり前じゃないですか? 選り取り見取りなのに嫌いな相手に申し込む人はいないでしょう? よっぽど変な性癖を持たない限り」
リンゴを食べ終わると、ユージーン様は疲れ切った様子で帰って行った。
契約書は作ってくれるらしい。
本気にしてもらえないユージーン。




