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「もし子爵家を潰すような動きがありましたら、私は何らかの形で動きますね」
驚いた様子のアンネット様を置いて、サロンを出る。
心臓がバクバクいっている。でもあれ以上あの場にいるとちょっとね。
お隣の子爵家が補助金の不正をしたことは確かに許せない。
でも、子爵家は軒並み他の貴族たちが税を上げる中、上げていなかった数少ない貴族家のうちの一つだ。それで助かった領民も多いだろう。
立ち退き云々も「お金払うからさっさと出ていけ」って言うだけじゃなくて、ちゃんとフォローしてたらしいしね。
それに何よりも、うちにご飯を恵んでくれたのはお隣だ。災害が起きてすぐの時に食糧持ってきてくれたもんね。あとはちょくちょく、困窮するうちの伯爵家にジャガイモくれたんだよね。
不正は良くないけど、見抜けない国にも問題がある。
私ははっきり言って、ご飯の恩は返すタイプである。というかご飯の恩は忘れない。王子の前で子爵家の不正の話はしたけれど、それはお国の問題を指摘するためだ。物的証拠はない。
学園が建前だけでも平等で良かった。爵位の圧力になんとか対抗できるからね。
公爵家相手に私が動けるわけなんてない。でも、去り際に一言言わずにはいられなかった。
いいよね、お金持ちって。簡単に人を脅せて。あ、アンネット様は脅してないか。
簡単にニンジンちらつかせて人を思うままに動かせるんだから。ムカつく。世間体が気になって支援もしていない公爵家なのにね。
「バートラム嬢」
後ろからユージーン様が追いかけてくる。やばい、ついてきてもらったのに放置してしまった。
「あ、勝手に出てきてしまってすみませんでした」
「いや、気にしなくていい。だが、就職先を断って良かったのか? 公爵家なら給料もかなりいいだろう」
「確かにお給料は高かったですね。ただうちの借金もなかなかなので、あのお給料でも返すのに何年かかるかなと考えてしまいました。もういっそ金持ちの老人のところに援助を交換条件に嫁いだ方が早いかなって考えちゃいますね。それに、私にも譲れないところはあるので」
譲れないというか気に喰わないだけなんだけどね。
はぁ、それにしても現実(借金)って厳しい。やはり、お金である。1にお金で2にお金、3と4も一緒で5にもお金である。私の頭の中って金策と肉のことばっかりだもんね。学園卒業した方が給料いいところに就職できるけれども、う~ん。
はぁ、お金があるアンネット様のところみたいなお家はいいよね。
心臓バクバクが落ち着いてきた。さっきまで緊張状態だったから気が抜ける。
「あー、その。金持ちの老人のところに行くくらいならうちに来ないか?」
「ん?」
ユージーン様って変なこと言うよね。びっくりして足がもつれかけたじゃないの。
「オールドリッチ公爵家で雇うということですか?」
公爵家ならさっき提示された給料と同じくらいかな? 公爵家にも格があるんだろうけど。
「あー、そうではなくて」
「いや、雇わないなら思わせぶりなこと言わないで下さいよ」
上げといて落とすとかやめてよね。あら、また足がもつれかけた。私、さっきまで極度の緊張状態だったもんね。
「ふらついてる。大丈夫か?」
「あ、はい」
ユージーン様はわざわざ立ち止まってくれる。さすがボンボン。紳士である。
「さっきのは雇うという意味ではなく……うちが支援するから嫁いでこないかという話だ」
んん? そういえばさっきアンネット様に婚約打診してる云々って言ってたけど……。
マジですか。ご乱心?
「おい!?」
ユージーン様の焦った声が聞こえる。ごめん、めまいがしてきた。
名誉のために言うけど、決して令嬢の必殺技:失神じゃないのよ。あれは困った時やショッキングな時にやるやつで……。
なんか目が回って気持ち悪いのよ。えーと、昼ご飯食べたっけ。昼ご飯、昼ご飯……食べた記憶がない。
そこで私の意識は途切れてしまった。不覚。
ユージーン、タイミングの悪い男……笑




