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「あ、バートラム嬢。確認なんですが放課後は図書室でいいですよね? この前、生徒会の時に相談させてもらった課題のレポートの件です」
急に会話、いや会話じゃないか。いたたまれない空気の中に入ってきたのはマネー子爵令息だ。あの眼鏡令息ね。なんか名前間違ってる気がしなくもないけど……。
「はい、図書室でお願いしますね」
「良かったです。ん? 何かお取込み中でしたか?」
「いえいえ、終わったところです」
眼鏡令息と放課後に約束なんてしてないんだけど、このタイミングなら助け船かなと全力でのっかることにした。にしても眼鏡令息、演技うまいな。そしてこの空気の中、よく私に話しかけられたよね……やっぱり王子達と一緒にいると頭おかしくなるのかしら。
「あ、お名前をうかがっていませんでしたね。そして誰が呼んでいるかも分からないのにサロンには行けませんし、先約があるので無理です。私、以前いじめにあったことがあるのです。寮の部屋に頼んでもいないのにデリバリーサービスが届いて料金請求されたり、先生が呼んでいると言われて教室に行ったら備品がすでに壊されていて、私がやったと言われて料金請求されたり。ですので、呼び出しなどには一切応じないことにしております」
つまり「用があるなら自分で来いや」である。
にしても私、お金が絡んだことしか覚えてないわね……。他にもあった気がしなくもないけど……。
あ、デリバリーサービスというのは寮の部屋にシェフが作った料理を持ってきてもらうことね。基本、寮生は食堂で食べるんだけど、特別料金を払えばそういうこともしてくれる。私は絶対しないけど。
あの時は寮母さんが「こんなケチな子がそんなことするわけない!」と味方になってくれたので払わなくって良かった。たまに寮母さんの仕事のお手伝いしててよかった。勉強ばっかりって中々できないのよね。
料理はどうせ廃棄されるということで寮母さんと半分こした。ただ、あまりに良い料理(めっちゃお高い)だったので、食べ慣れていない私はお腹壊した。そんな私を見て寮母さんは「ほら、絶対あんたじゃないねぇ」と笑っていた。
教室の備品についてはまぁ熱弁を振るうしかなかったよね。うちがいかに貧乏で物を大切にしなければならないかとか。たまたま掃除の使用人が私より前に誰かその教室にいたことを証言してくれたので何とかなった。
これ以来、人間不信である。
生徒会室に呼び出された時は図書室に他に人がいる状況で、眼鏡令息が「殿下が呼んでいる」と言ってくれたからついて行ったのだ。もちろん、いつでも逃亡可能な準備万端でついて行ったのだが。
上級生のご令嬢は目を瞬かせたが、
「わ、わかりました。今日は先約がおありなのですね」
と引き下がってくれた。
あ、名前聞くの忘れた。いや、私は聞いたよね。名乗らなかったのはあっちよね。
「あれはスピネー伯爵令嬢ですね」
エスパーなのか眼鏡令息。彼は私の頭の中の疑問に答えてくれた。そんなに顔に出てたかな。
「あぁ、あの港を持ってる伯爵家ね」
つまりボンボン、左団扇である。
「では、図書室で」
「分かりました」
人の目があるので、眼鏡令息はそう言って教室から出ていく。助かったから一応、お礼がいるかなぁ。お金使いたくないから、仕事肩代わりするのでいいかな?
「嫌がっていたので阻止してきましたよ」
「それは良かった」
眼鏡令息を廊下で待っていたのはユージーンだ。たまたま一緒に歩いているところで、ウィロウ・バートラムが上級生に絡まれている?現場を見たのだ。
「自分で行けばよかったじゃないですか」
「私が行くとあらぬ嫉妬が出てしまうかもしれないからな」
「うっわ~。そりゃあそうですけど。わざわざ言います、それ?」
公爵令息であるユージーンが出ていくと、さらにめんどくさい事態になりかねないので眼鏡令息を行かせたというわけだ。
「でも、スピネー伯爵令嬢ってあの人の取り巻きですよね?」
「取り巻きではなく友人じゃないかと思うがな」
「サロンに呼び出しって何の用事でしょうね? 怖い怖い」
「明らかに高位貴族からの誘いをあれほど嫌がるのは面白いな。もしかしたら学園卒業後にうちで働かないかという誘いかもしれないのに」
眼鏡令息はそっと二の腕をさする。ユージーンは満足げに笑うと自分たちの教室へと足を向けた。




