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いつもお読みいただきありがとうございます!
真面目回。
明日も更新します。
「長くなりますが、いいですか?」
「か、構わない」
何かに気圧された様にボンボン王子はカクカク首を縦に振る。アーロン様が面白がって横ですぐ真似をする。それを見てユージーン様と眼鏡令息が吹き出しそうになる。ムードメーカーかよ。
「ユージーン様の仰る通り、私の祖父の時代に洪水が起きました。父に代替わりする少し前でしたね。確かに災害補助金の申請は煩雑だったと聞いています」
王子は頷きながら先を促す。ネメック侯爵令嬢は真剣に聞いてくれている。
もう、この人が王妃になるのがいいんじゃないかな?
「まず、申請の受付窓口は財務部でしたが担当者によって言うことが違います。『ここの書き方が違う』『この項目も書かなければならない』など書類を持って行き、人が違うと不備をいろいろ指摘されます。それで書類の提出が遅れます。それを何度も繰り返すことでさらに遅れます。つまり、お金が入るのが後になります」
「それは酷いな」
「それに財務部の方々のやる気のなさがその時は目立ちました。今では変わっているのかもしれませんが……。書類を出してもなかなか申請が通ったという連絡が来ません。災害の復興にはお金がたくさん必要なのに来ない訳です。だから、祖父や父は借金のお願いに駆け回ることになりました。しかし、時期が悪かったのです。先代国王陛下が税率を上げたばかりで、貴族家で大きな金額を貸してくれる方はいらっしゃいませんでした。だからうちは高利貸しから借りる羽目になりました」
ネメック侯爵令嬢が痛みを堪えるような顔をしている。もう、ほんと、この人王妃になるのがいいんじゃないかな? 婚約者いないってことは親が恋愛結婚推奨か王族の婚約者になるのを望んでるんじゃない? あれ、そういえばネメック侯爵令嬢って以前婚約してたけど相手が病気で解消したんだっけ? 細かいことは忘れちゃった。
「それは別にいいんです。ただ、許しがたいことがありました。それは同じく災害の被害があった隣の子爵家の領地のことです。そちらの被害はうちに比べると五分の一程度でしたでしょうか。ですが、最終的に補助金をうちの倍以上はもらっていらっしゃいました」
「それは……どういうことだ?」
「父から聞いた話ですが、わざと被害を大きく申請したようです。つまり、不正ですね。被害状況を見に来られると困るからと、立ち退きを命じている開発予定の地域も被害を受けたかのように偽装したようですよ。これは出入りの商人の話なので決定的な証拠はないのですが」
生徒会室にシンとした沈黙が落ちる。
つまり子爵家は災害補助金の大半を復興ではなく、開発に使ったのである。
国からの補助金って返す必要ないからお得よね。
うちは貧乏だけど、私も家族もそれを恥じてはいない。祖父と父が領民達のことを考えて駆けずり回り、その時の最適解を出した結果なのだから。
甘いスイーツが買えなかろうが、流行りのドレスが着れなかろうが、そんなことはどうでもいいのだ。たまにはスイーツだってステーキだって食べたいけど。
結局災害から数年後、付き合いのあった伯爵家が事業で成功し、余裕ができたからとお金を貸してくれたのだ。そのおかげで借金取りがうちに来ることもなくなった。母も私も弟も売られる心配をしなくて良くなった。まぁ、借金は変わらずあるんだけれども。
ちなみにその伯爵家のお子様は婚約者がすでにいたので、借金のカタに婚約ということにはならなかった。
「そういった不正がまかり通るようなら解決が必要かと。うちのように借金まみれになる家が減るのはいいことです。早く補助金が出れば領民達も助かります。生徒会とは関係ありませんが、殿下が指揮を執って見直してもいいのではないかと愚考します。災害で困った経験のある家の生徒に聞き取り調査もできますしね」
ボンボン王子は神妙な顔で頷いた。
図書室でよく一緒になるあの男爵令息に、意見書出さないかと声をかけといて良かったわ~。彼も困ってたもんね。なんか私に怯えてたような気がしなくもないけど、別にピンク頭みたいに脅したわけじゃないし。私、目つき悪くなってるのかしら?
しばらくかかるが、のちにボンボン王子は災害対策の部署を作ることになる。これまで財務部が片手間でやっていた仕事だったが、きちんと部署を作ったのだ。
これは彼が行った重要な政策として評価されるようになる。それに伴い、生徒会で行った目安箱も評価された。
これは目安箱に入った珍しくまともな意見書であった。




