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川口直人 87

 電話を切り、背もたれによりかかるとため息をついた。


やっと…やっとあの女と手を切ることが出来た。たった2ヶ月程の出来事だったのに、とても長く辛く感じた。


だが…。


「鈴音…ようやく全て終わったよ…。半年後、必ず迎えに行くよ…。だから…どうかそれまでは他の誰とも付き合わないで待っていてくれ…」


そしてもう一度ため息をつくと、帰り支度を始めた―。



****



23時―


マンションに帰り、ようやく人心地がついた俺はスマホを握りしめていた。


「あいつにこの時間電話しても構わないかな…?」


出来れば今夜中に岡本に常盤恵利と別れた事を知らせておきたかった。虫の良い話と思われるかもしれないが、岡本から鈴音に他の男と付き合わない方がいいと忠告しておいてもらいたかったからだ。


「だけど…。岡本だって鈴音の事を好きなわけだしな…」


他の男に鈴音が取られてしまうのは、辛いことだけど…我慢出来る。だが岡本にだけは絶対に渡したくは無い。


俺はスマホを操作した―。




『もしもし…』


電話口からはあいも変わらず不機嫌そうな岡本の声が聞こえてくる。本当に相変わらず無愛想な男だ。


「こんな時間にすまない。今、少し時間いいか?


『ああ、いいぞ』


何処かけだるげに返事をする岡本。そこで俺は今日あった出来事全てを報告した。

川口家電の社長に就任した事、ようやく常盤恵利と手を切ることが出来たこと、ただ正式に婚約解消をするのは半年後になるということを。



『ふ~ん…つまり、半年後正式に婚約解消した後に…ひょっとして今度は鈴音の元へ戻るつもりなのか?』


案の定、婚約解消の話になると岡本が尋ねてきた。


「ああ、勿論そのつもりだ」


お前に鈴音を取られる前にな…。


『そうか…鈴音にプロポーズするつもり…なのか』


そんなのは答えを聞かなくても分かるはずなのに岡本が尋ねてきた。


「ああ、当然だろう?その為に…今まで俺は必死になって頑張って来たんだから」


すると明らかに不機嫌な様子で岡本が言った。


『そうかよ。…せいぜい頑張るんだな。話はそれだけか?明日も朝が早いんだ。用件がもう無いなら切るぞ」


「あ、ああ…ごめん。悪かったな。それじゃ…切るよ」


『ああ。じゃあな』


そして俺たちは電話を切った。



「さて…次は和也に連絡を入れるか…」


俺は再びスマホをタップした。


和也はきっと俺が常盤恵利と別れられた事を喜んでくれるに違いない。俺は何としても鈴音と再び恋人同士に戻りたい。岡本は今の所何を考えているのか分からない節があって油断は出来ないし…和也と2人であいつを説得して…俺は鈴音と必ずやり直すんだ。


そう、心に決めた―。




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