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第10章 1 心境の変化

「ではこちらの荷物をお願いします。」


5階の病棟で私は看護師さんにお姉ちゃんの着替えの入ったボストンバックを渡した。


「はい。ではお預かりしますね。ではこちらがお持ち帰りいただく洗濯ものです。」


私の持ってきた荷物と引き換えに洗濯用の着替えが入ったボストンバックを預かる。


「ありがとうございました。」


頭を下げると、私はナースステーションを後にした。



「ふう・・・寒いな・・・。」


病院を出ると、外は曇りで今にも雨が降り出しそうな空模様だった。冷たい風が頬にあたるたびにピリピリ痛む。



 今は2月―


早いものであれから一月が経過していた。あの日の夜・・・亮平と2人でコンビニへ行って戸籍謄本を取り・・2人で確認してみると、やはり先生が言った通りお姉ちゃんは養女になっていた。そのことにショックを受けた私を亮平は慰めてくれて・・・その日から亮平の私に対する態度が少しだけ変わった―。



 病院のバス停でバスを待っていると、突然カバンの中からスマホの着信音が流れてきた。


「?」


取り出してみると着信相手は亮平からだった。スマホをタップすると私は受話器を耳に押し当てた。


「はい、もしもし?」


『鈴音、病院はもう出たのか?』


「うん、今バスを待っているところ。それよりどうしたの?まだ16時だよ?仕事中じゃなかったの?」


『今、営業で外回り中なんだよ。お前、今日15時ごろ病院へ行くって言ってただろ?だからもう病院出たところかと思って電話を入れたんだよ。』


「ふ~ん・・そうなんだ。」


『鈴音。お前・・今日は実家に戻るんだろう?』


「うん。お姉ちゃんの洗濯物を持って帰って来たからね。これから帰って洗濯しなくちゃ。」


『そっか・・・。なら俺の家で飯食べて行けよ。母さんには連絡入れておくから。』


「え?でも・・それじゃおばさんに迷惑だよ。」


すると亮平は言った。


『そんな事言うなって。母さんは・・鈴音の事好きなんだよ。本当の娘みたいに思ってるってよく言ってるんだから。母さんは鈴音と食事するの楽しみにしてるんだよ。』


「うん・・・分かったよ。」


『それじゃあな。』


そして電話はプツリと切れた。


《 母さんは・・鈴音の事好きなんだよ。 》


 私の頭の中にさっきの亮平の言葉が頭の中で木霊する。おじさんとおばさんが私の為にすごくよくしてくれるのは理解している。前から両親を亡くした私を何かと世話を焼いてくれていたけれども、お姉ちゃんとの関係性を理解してからはより一層、親切に接してくれるようになった。けれど・・・おじさんとおばさんに良くして貰えば貰うほどに私の中でお姉ちゃんに対する罪悪感で一杯になってしまう。


 今なら・・何故お姉ちゃんが私の事を憎んでいたのかが理解できる。それは全てお姉ちゃんが養女だった事に起因していたんだ。子供が生まれなかった両親・・それでお姉ちゃんを引き取ったら、5年後に私が生まれて・・お姉ちゃんは自分の地位が脅かされると思ったんだ。だからお父さんやお母さんに嫌われないように私を可愛がってくれて・・・優等生を演じ続けていたんだ。そして家庭教師だった松本先生や進さん・・。お姉ちゃんは何故か私に取られてしまったと考え・・それで私を憎むようになった・・。


「また・・大切なものを奪っていく人間だって・・・思われちゃうかな・・?」


そして私は溜息をついた―。






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