第5話
統一歴4020年 フォルトナ共和国東部沖合 共和国海軍大洋艦隊 指揮・通信艦【グラウス】
艦隊、と一纏めにするには多過ぎる戦闘艦の群れはフォルトナ共和国が20年前に計画した『外洋艦隊編成計画』によって誕生した共和国初の本格的な外洋艦隊である。
指揮・通信艦を旗艦とし空母1隻、ミサイル巡洋艦2隻、ミサイル駆逐艦2隻、フリゲート12隻の戦闘艦17隻とその他の支援艦を中核とした艦隊は母港であるグライド海軍基地を出航し、共和国の長年の敵であるエリノア連合王国の艦隊を叩くべく、連合王国へと進路をとっていた。
長年の陸軍国であるフォルトナ共和国に対しエリノア連合王国は昔からの海軍国であり、艦隊の運用も共和国とは比較にならないノウハウを有していた。
しかし保有艦艇を全て一纏めにして運用する共和国海軍に対し連合王国海軍は連合王国が世界各地に多数の海外領土を保有している関係上艦艇を複数の艦隊に分けており、その配置も分散していた。
その為、今連合王国本土にいる艦隊はミサイル駆逐艦2隻とフリゲート4隻を中核とした艦隊が2個のみであり、現状は共和国が非常に有利であった。
「連合王国の主力艦隊が戻って来る前に本土を落としたいな。」
指揮・通信艦【グラウス】の艦橋で艦隊司令がそう呟くが、共和国と連合王国は地続きなので、陸軍兵力が多い共和国が侵攻における唯一の難所であるリトノア狭地を抜ける事が出来れば本土(島国では無いが)の陥落は容易だと判断されていた。
「情報部からの報告によれば、事前の打ち合わせ通り連合王国主力艦隊の出撃は我々の妨害工作により遅れてる模様です。ただ現地の諜報員との連絡が急激に取れなくなってるそうなので連合王国の秘密情報部が動いたのかもしれません。」
「秘密情報部か、出撃が遅延してるだけ成果はあったのだから、彼等の犠牲も無駄ではなかったのだろう。問題はどれだけ時間を稼げたかだな。」
そもそも極度の緊張状態にあるのに本国の守りを手薄にした連合王国海軍司令部は無能以外の何者でも無いが、数十年間緊張状態なのでこの状態に慣れてしまったのだが、国家の存亡がかかっている今現在はなんの慰めにもならない。
最も海軍戦力を他に派遣してる変わりに陸軍戦力と空軍戦力は増強してるのだが、連合王国の最大のアドバンテージである海軍戦力の穴を埋めるには少な過ぎた。
「情報部の知り合いから聞いた話ではスフィアナも何やら動き始めたようですが、ガードが硬過ぎて諜報網の構築が出来ないって嘆いてましたね。」
「情報総局辺りが動いたんだろうが、情報部ももう少し頑張ってほしいものだ。」
司令官はそう言うが、共和国情報部だってスフィアナに対し何もしてない訳ではなく、これまで多数の諜報員を送り込んでいる。
だが、何かしらの作戦を実行する前に送り込んだ諜報員の大半と連絡が取れなくなり、なんとか作戦実行な人数を確保しても直ぐにアジトが襲撃されて作戦計画が潰れるのだ。
何せ未だにスフィアナで諜報網が構築出来てないのだから相当なものである。
「ところで連邦軍の動きは?」
「我が国との国境地帯周辺に連邦陸軍が部隊を展開させてるようですが、場所が場所なので兵力は少数との事です。ただ連邦海軍の方は積極的に艦隊を展開してますが、向こうから我が国と事を構える気は無いようで遠目で監視するに留まってます。」
フォルトナが何か行動を起こしたらスフィアナも連邦軍を国境沿いに展開させるのはいつもの事なので、戦争中の今は特段珍しい事では無い。
最も、その国境が海抜数千m級の山岳地帯という地形を除いたらの話だが。
基本的に山脈というのは人モノが行き交いするには向いてない地形なのだから。
「一応、スフィアナに対する攻勢計画はあるのでしょう?」
「スフィアナに対する牽制も含めてだが、8個師団約10万人の兵力は陸軍としても少なくない筈なんだがなぁ〜」
そもそも共和国陸軍は50個師団約60万人を編成しており、対帝国方面に20個師団約24万人、対連合王国方面に15個師団約18万人、国内に7個師団8万人を割り振ってるので8個師団約10万人の兵力は決して少なくない。
というよりも共和国の人口約1億人の人的資源を可能な限り吐き出してコレなのだから、これで勝てなければ更なる動員をするしか無く、勝っても負けても共和国経済はボロボロになる。
そして帝国の対共和国方面は20個師団約20万人、連合王国の対共和国方面は10個師団約8万人なので共和国が先に連合王国を落とそうとしてるのがよく分かる。
ちなみに連邦の対共和国方面は5個師団約4万人なので地形を加味してもかなり少ない。
「司令、本艦隊の南方に複数の艦影をレーダーで探知しました。距離は約400、恐らく連邦艦隊かと・・・」
「連合王国との航路保護と警戒監視か。」
スフィアナに潜入中の数少ない諜報員からも2個艦隊規模の艦艇が出港中なのは既に把握している。
問題は彼等の目的である。
「現状不利な連合王国海軍に対する情報収集でしょうか?」
「連合王国とは友好国とはいえ連邦は中立だ。わざわざ艦隊を出して利敵行為を行うとは思えんが・・・」
現状、海での戦いに於いて不利なのは連合王国海軍の方である。
その為スフィアナが戦闘海域に中立国の立場を利用して艦隊を出して連合王国の変わりに共和国海軍艦隊の情報収集を行うというのは十分に考えられる事であった。
だが、それを行えば共和国に対する利敵行為となり、中立国である連邦の立場は崩れる。
その為、司令は否定的な立場なのだ。
最も、それを確認する方法はないのだが。
同時刻 スフィアナ連邦 東部沖合 連邦海軍第6水上打撃群
ミサイル巡洋艦【ラフィー】
連邦海軍が有する6個の艦隊のうちの1つである第6水上打撃群は第6巡航艦隊と第12巡航艦隊から構成される打撃群であり、その内訳はミサイル巡洋艦2隻、ミサイル駆逐艦2隻、汎用フリゲート4隻であり、航空戦力は各艦搭載の対潜ヘリくらいしかないが、それでも十分な攻撃力を有していた。
そしてそんな第6巡航打撃群の旗艦でもある【アルトア級】ミサイル巡洋艦3番艦【ラフィー】のCICでは乗員達が全力で共和国艦隊の情報を収集していた。
「共和国海軍大洋艦隊の戦力の8割を投入とは中々だな。」
艦隊司令は各員から上がってきた情報を見ながら驚き半分、呆れ半分でそう呟いた。
当然ながら軍艦も機械である以上、メンテナンスや修理・交換は必要であり、その為艦隊の全てが出撃というのは現実的では無い。
一応、メンテナンス無視で出撃させる事は可能だが、下手すれば大海原で機関故障して漂流という事態も有り得るので普通は有事でもない限りしない。
今はその有事なのだが、共和国海軍は8割の艦艇数でも問題ないと判断したのだろう。
ちなみに連邦海軍も第1空母打撃群及び第5水上打撃群が定期検査やメンテナンスなどでドック入りしてるので出撃する事は出来ない。




