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思わぬ加勢

 助かった。本当に助かった……が、ネネは俺の味方というわけではない。

 一部だけ利害が一致したというだけのことだ。


 あくまでもネネは俺の意見とも食い違っていることを間違えてはならない。

 俺がネネの一挙一動に警戒していると、シャルがペコリと頭を下げる。


「……ごめんなさい。その……は、早とちりしてしまって」

「いや……まぁ、シャルが怒るのも仕方ないところはあると思うし、頭を下げるほどじゃ……」

「いえ、その……嫉妬してしまって……冷静さを欠いていました」


 ……いや、第三者のネネが庇ってくれたことで俺が真っ当な奴みたいになっているけど、かなり問題のある行動をしてしまっていると思うが……。


 ……いや、もしかして普通なのか? 11歳の女の子と一緒に寝る普通なのか?

 ……どうなのだろう。周りの人からは突っ込まれまくってはいるが……貴族とかなら普通に結婚しているような年齢なのだし、ネネが言うように一緒に寝ても何もしないのは真っ当な反応なのではないか。


 むしろそれで我慢出来ている俺は偉いのでは……? と、思っていると、ネネの尻がふんっと俺の上をグリグリとして座り直す。


 あっ、はい。普通にダメですよね。分かってます。


「……あの、何でネネさんは、ランドロスさんの上に乗ってるんですか?」


 ……今更な反応だ。……カルアも突っ込んでないし、マスターも無反応だったので、案外上に座られるというのは普通なのかと思っていた。


「……もっと前に突っ込んで欲しかった」

「す、すみません。あまりに馴染んでいたもので、そういうものなのかと……」

「ランドロスが逃げないように抑えていた。あと、案外座り心地がいい」

「そ、そうですか。ランドロスさんが嫌ではないのならいいんですけど」


 この状況、嫌そうに見えないのか……?

 モゾモゾと抜け出そうとすると、腕が捕まれて背に回され、関節を極められる。


「逃げるのはやめておいた方がいい。折れるぞ、腕」

「暴力に走りすぎだろ。やめよう。話せば分かる」


 俺とネネがバタバタと動いていると、カルアが首を傾げる。


「……あの、何でそんなに揉めてるんです? あと私はヒモじゃないです」

「この馬鹿男が、ひとりで戦おうとしているから止めてる。返り討ちにあったくせにな」


 返り討ちじゃない。相討ちだ。勝ったとは言い難い状況ではあるが、相手も俺以上に怪我を負ったので負けじゃない。


「……えっ、ランドロスさんが、負けたんですか?」

「ああ、死にかけで戻ってきた。今は見た目は戻っているが、回復し切れていないせいでマトモに身体を動かすことも出来ない状態だ」

「負けてないからな。引き分けだから。むしろ相手の方がダメージは多かったから俺の勝ちと……痛い、痛い! やめよう、関節を変な方に曲げるのはやめよう」

「私には偉そうに言っていたのに、こんな間抜けを晒しているわけだ。そのくせ反省もせずにひとりでどうにかしようとしている」

「次は魔力切れには気をつける。負けないから大丈夫だ! ……う、腕が、千切れる、千切れる!」


 関節がおかしな方向に曲がっていくと、カルアが不安そうに口を開く。


「……あ、あの……とりあえず、その拷問みたいなのはやめませんか? ランドロスさんが可哀想です」

「喜んでいるから大丈夫」

「喜んでない」


 クソ、この状況でどうするべきか。シャルとカルアに失望されて捨てられるという可能性が回避出来たのはいいが、逃げられないし、暴力に訴えられるせいで会話すら成り立たない。


 どうするべきかを考えていると、ネネが口を開く。


「……一度、ちゃんと考えた方がいい。自分ばかりが背負い込んで、周りのやつがどう思うかぐらい」

「……それ、お前が言うのかよ」


 ネネの方がよほど……と思っていると、腕が離されて、ネネが立ち上がる。


「眠い。寝る」

「……ネネ、あまり一人では出歩くなよ?」


 俺が最後にそう声をかけると、ネネは短刀を俺の前に突き出す。


「……そういうところだ。お前に腹が立つのは」

「……ネネも似たようなことを言ってるだろ」

「ふん。……二、三日は大人しくしていろ」

「ああ、まぁ、それぐらいならいいが……」


 シルガは闘技大会の時にやってくるだろうから、それまではどうでもいい。逃げようとしたのは、バラされるのが怖かったからだしな。


 ああ、痛かったと思いながら腕を動かす。


「……ん?」


 腕がちゃんと動く。……まさかネネ、脅しに見せかけて解していってくれたのか?

 ……いや、たまたまか。


 ネネが去っていき、部屋に残った三人の視線が俺に寄る。


「……あの、ランドロスさん。……結局、私達は何で呼ばれた感じなんでしょうか? 謝るためですか?」

「…………そんな感じで」


 マスターに目配せをすると、悔しそうに俺を見ていた。……諦めてないな、マスター。


 ……少なくとも、最低でも闘技大会が終わるまでは話せない。何をされて脅されようと……。


「……ランドロスさん、だいぶグッタリしていますけど、大丈夫です? さっきも怪我をしたと言ってましたし……」

「擦り傷だから大丈夫だ。……ちょっと俺も夜中の間ずっと起きていたから眠いだけだから」

「……僕、肩をお貸ししましょうか? 部屋に帰って寝ますよね?」


 俺が立ち上がろうとすると、マスターがトンと俺を押してベッドに倒れさせる。


「ここで寝ていけばいいよ。歩くのも大変だろうしね。……あの、ごめんね、ふたりとも」

「えっ、い、いえ、事故は仕方ないですし、むしろ僕のランドロスさんがご迷惑をおかけして申し訳ないです」

「いや、その、全然嫌というわけじゃなかったから、大丈夫。本当に、ごめん」


 マスターはペコリと頭を下げたあと、居心地が悪そうに部屋から出て行く。

 まだ涙の跡も残っていて、かなりの罪悪感を覚えるが……それでも、シルガのことを話すことは出来ない。


 シャルは俺とマスターを交互に見た後、俺にペコリと頭を下げてからマスターの後を追った。

 カルアと残されて、カルアは俺の寝巻きを整えてから布団を上に被せる。


「私の力ではおんぶとか出来ないですから、申し訳ないですけど、ここをお借りしましょうか」

「ああ、そうだな」

「……あの、色々とよく分からないんですけど……その、マスターの様子などを見るに……何かあったんですか?」

「……やはり、シルガがいた。マスターにシルガのことを隠そうとしているが……隠していることをマスターに勘づかれて……秘密を話さないと、脅迫として、一緒に寝ることになってしまったことをふたりにバラすという具合でな……」


 ある程度の事情は分かっていたカルアは小さく頷く。


「ああ、それでネネさんが庇っていたんですね。ネネさんもマスターにはシルガさんのことを隠したいから。じゃあ、ネネさんはなんで怒っていたんですか?」

「……俺がひとりで解決しようとしてるのが気に入らないらしい」

「……なるほどです。……私はネネさんに賛成ですね」

「……知ってるよ。だが、俺が一番強いんだから、俺がやるのが一番安全だろう」

「……戦闘のことは分からないですけど、ランドロスさんが危ないことをするのは反対ですからね」


 チョンチョンと鼻を突かれる。


「……ああ」

「……その、それと……マスターが脅迫として秘密をバラしていくってことは、他にも脅迫の材料になる話がありますよね? 一番最初に秘密を全部話したら脅迫になりませんし」

「…………おやすみ」

「あの、何をしたんです。マスターと一緒に寝た以上に何かやったんですか?」

「おやすみ」

「ランドロスさん、ランドロスさん……起きてください、とぼけないでください」

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