実質本戦決勝戦の予選
◇◆◇◆◇◆◇
【グライアスサイド】
この時期は武闘大会があるため迷宮の高層には人がいなくなる。初代ギルドマスターグライアスにとっては、数少ない休暇のような時期である。
血と土で汚れている身体を払いながら、グライアスは気怠そうにため息を漏らす。
一度帰るか否か。そう考えていると、人の足跡を見つけて首を傾げる。
この時期に高層にいるような人間は珍しい。それに、そもそも高層に来るような探索者は少なく、足跡の大きさや歩く癖などで誰かを判別出来るが……それはグライアスには見覚えがない足跡だった。
「それに、降りている? 上がったような足跡は見たことがないが……。俺がいない間に俺が行かない高層まで迷宮に登ったやつがいたということか……?」
グライアスが最後に降りたのは二年前、現ギルドマスターのクルルが就任したときだ。その時に迷宮の高層に登って、今になって降りてくるような人物がいるとは思い難いし、足跡も一つしかない。
グライアスのような単独で高層に長時間居座る探索者なんて、いたら話題にもなるだろう。
勘違いか? 足跡をど忘れしているだけ……。グライアスは考えてみるが、答えが出ることはない。
けれど状況を思うと、二年前の闘技大会の後に迷宮を登って、それからずっと降りていないものがいるとしか思えない。
「……それは流石にないか。これより上は、俺でも生き残るのがやっとの階層だ。そんなところで二年も暮らした奴がいるはずがない」
そうは思ってみるも、嫌な胸騒ぎが収まらない。
「……迷宮内の楽しみもなくなってしまったし、仕方ない。一度帰るか」
グライアスはポリポリと頰を掻きながら、ゆっくりと迷宮の階段を降りていった。
◇◆◇◆◇◆◇
予選を含めた参加人数は300人超、その中の32人が本戦に出場することになり、優勝者が御前試合として勇者と戦うことになる。
勇者と会うことになるのは嫌だが……まぁ、別にいいか。
本戦までは時間があるが、予選は今からだ。
まぁ、予選なので大した相手ではないだろうと思いながら、そこそこの観客のいる闘技場に上がると……妙に見覚えのある人物が立っていた。
メレクが強いと評しており、実際に何度も闘技大会で優勝している人物。ギルド【炎龍の翼】のギルドマスターが、そこに立っていた。
後ろから半魔族である俺に対する野次と、対戦相手を応援する声が聞こえる。
……ええ、予選の一回戦から優勝候補と戦うことになるのかよ。シード枠とかにしておけよ。
これで負けたら、優勝するとか言っていたのに予選敗退のすごくかっこ悪いやつになるな。……流石に格好悪いというか、何というか…….。
せめて決勝戦で敗退とかならまだ体面も保てるというものだが……。
まぁ……どうせ戦うことになる相手だったんだから、予選でも決勝戦でも同じか。そう思っていると、対戦相手の男は露骨に顔を顰めて口を開く。
「ええ……嘘だろ。くじ運どうなってんだよ。なんで300人もいて、一番当たりたくない相手と当たるんだよ。絶対に優勝するって約束してんのに、予選敗退とか洒落にならねえぞ」
……完全に同じことを考えてるな。というか、俺のことを知っているのか、この男。
「あー、くそ、運が悪い。俺は【炎龍の翼】ギルドマスターのダマラスだ。噂はかねがね聞いていた」
「……まぁ、こちらもだ。優勝するとか大口を叩いていたことを後悔してる」
「お互い運がねえよな。まぁ、仕方ない。いざ」
ダマラスは気怠そうに剣を構え、それに合わせて俺も両手に剣を取り出す。
「ああ、まぁ、仕方ないな」
半魔族で嫌われがちな種族だから、本戦に出場しないように強い人と当てたのか。あるいは本当にくじ運が悪いだけなのか……。
まぁ、手を抜く理由にはならない。
開始の合図と共に爆発音が聞こえ、ダマラスが火炎を纏いながらこちらへと突っ込んでくる。
出し惜しみはしない。イユリとの特訓で得た魔法を発動する。
「……【空間拡大】」
一瞬で発動したその魔法が俺の目の前に発生するが、見た目では何も起こっていないように見える。
目の前にいるダマラスがこちらに全力で走っているが、非常に遠くにいるようになり、全くと言っていいほど進んでいない。
迷宮や、あの水が入った瓶と同じように、闘技場の空間が広がって距離が伸びたのだ。
「……悪いが、一方的に仕留めさせてもらうぞ」
剣を消して巨大な弓矢を取り出す。近寄るつもりはない。
ひたすら、遠距離から撃って一方的に仕留めてやる。
遠くに見えるダマラスに対して弓を引いて矢を放つ。連続で撃ちまくるが、簡単に避けられるか防がれる。
多少焦ってくれることを期待したが、俺が空間魔法使いということを知っているからか、気にした様子もなく一直線に向かって来られる。
矢を普通に防げるなんて人間離れしているな。
横に跳ねながら魔法を解除する。
空間魔法により伸びていた距離を爆走していたダマラスは闘技場が急に元に戻ったことにより、勢いよく俺の隣を飛び出していく
よし、場外で勝ち……と思っていると、場外の土に脚が着く直前にダマラスの脚から炎が吹き出て、ダマラスの身体を浮かすことでそれを回避する。
「あっぶねえ! 予選で場外負けとか洒落にならん!」
闘技場の中に着地したダマラスは息を整えながら俺に剣を向ける。
……新しい魔法は消費魔力も馬鹿にならないし、こういうやり方は無理か。
トン、トン、と地面の感覚を確かめつつ、再び剣を取り出す。
「……仕方ない。真面目に行くぞ」
ダマラスが振った剣を受け止め、剣同士がぶつかる。ダマラスの剣から火が噴き出て勢いを増して、力負けするのを感じ、剣を手放して大盾を目の前に出すが、それも吹き飛ばされる。
盾が吹き飛ばされる際に発生した炎に紛れてダマラスの側面に移動し、槍を突き出すと、火を纏った脚に下から槍を蹴り上げられて弾き飛ばされる。
魔法使いの反応速度や力ではなく、剣士の持つ魔法の練度でも展開の早さでもない。
魔法使いとしても、剣士としても一流。
……まぁ、だが……思ったほどでもないな。
「……今からお前では防ぎきれない技を放つ。悔いが残らないように、全力で抗え」
この程度なら問題ない。魔王には遠く及ばない。
剣を取り出し、槍を掴む。
「は、はは! スゲエ威圧感だな! ……優勝したら、一番手強かったのは俺って言ってくれよ? ギルドのやつに格好つかないからな」
「ああ。じゃあ……行くぞ」
多数の異なる武器種による高速連撃。俺の持つ最高の技。
【連なる戦の暦】。
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