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話し合い

 最悪の場合は切り捨てる。

 親切心で人を助けようとしているのに冷酷で合理的なものを前提として話を始める。


「まず確認なんだが、何日ぐらいあの兵士が居座ると思う?」

「んー、短くて二週間はいるだろうね」

「それだけの時間を待つのは無理だな。俺も忙しいし、そうしている間に魔族達も飢えるだろう」

「忙しないね。数ヶ月ぐらいいてもいいのに」

「そりゃ、エルフほど長命ではないからな。……まぁ、長命でも長居は出来ないが」


 あくまでも全員の疲れが取れるまでの間だ。

 第一に確実に誰も欠けることなく、第二に出来る限り早く、カルアとクルルと再会する。


 ……魔王への恩義もあるので魔族の助けにはなりたいという思いもないわけではないが、優先順位は後回しである。


 いくらかの前提を念頭に置きつつ口を開く。


「まぁ、兵士に見つからずに魔族を探すのは難しくはないな。油断していなければ俺やネネ、クウカは隠れながら行動出来る」

「んー、でも多分一軒一軒回るからあの小屋にいたらアウトじゃないかな?」

「俺は魔法で隠れられるし、シャルやクウカは人間だから問題ないが……ネネはどうか」

「んー、獣人だよね? あー、どういう反応するのか分からないかな」

「そうなるとネネにも隠れてもらうしかないか。……あと、シャルも世界一かわいいし強引にナンパとかされかねないのがな……」


 全員まとまって動けば俺の魔法で隠れることは難しくないだろうが、それだと休むという目的が果たせなくなる。


「……んー、それだと休めないよね。店番を代わりにしてもらえるなら、僕が代わりに探しに行くのでもいいけど」

「じゃあミエナも見つかって大丈夫だから連れていくか?」

「えっ……い、いや……んー、ミエナさんも疲れているんだろうし、一人でも大丈夫だよ。それに店番をするにも薬について知ってるミエナさんがいた方がいいだろうし」

「でもひとりで行かせるのはなぁ。魔族と戦闘にならないとも限らないし」


 俺がそう心配を口にすると、ミエナは少し眠たそうにしながらユタネラを見る。ユタネラ、ミエナが眠そうにしてるだけで俺との関係を疑うんだからもっとシャキッとしてくれ。


「まぁユタくんなら心配はいらないと思うよ。自衛ぐらいは出来るだろうしさ」


 ユタネラに目を向ける。

 エルフらしい細身で白い肌は控えめに言ってあまり強そうには見えない。運動能力はおそらく低いだろうからミエナと同じような魔法使いだろうか。


「……まぁ大丈夫なら任せるのもひとつの手段ではあるか。周辺の地形にも明るいだろうしな」

「でも、匿う場所がないんだよね」


 ユタネラが困ったように頬を掻いていると、家の奥からもぞりと大男が顔を出す。


「大丈夫だ。ちゃんと居座らずに出ていく」

「ヤドウくん。……あー、いや、ごめんね」

「いや、これだけしてもらっていて文句は言いようがねえよ。本来ならそのまま森で捨てられていたところだ。それに、ひとりでも仲間も見つかったらなんとか旅も出来るようになるだろうしな」

「……全員じゃなくていいのか?」


 俺が尋ねるとヤドウは寂しそうに頬をあげて無理に笑う。


「怪我をしていた奴もいる。助からないだろう」

「……そうか」

「…….話に入ってもいいか?」


 俺とユタネラが苦い顔を浮かべると、ミエナは仕方なさそうに息を吐く。


「いいよ。いいよね、ランド、ユタくん」

「……いや、まあ……だめとは言いにくいが」


 仕方なく追加の椅子を出してヤドウに渡す。

 ヤドウはそれに腰掛けつつ、俺に尋ねる。


「少し盗み聞きをしていたけど、色々と気を遣ってもらって悪いな」

「最悪見捨てるつもりだったから気にするな。……というか、俺はお前達の直接的な仇だろ」


 恨まれることこそあれど感謝されるような筋はひとつもないだろう。

 ヤドウから目を逸らしてそう言うと、ヤドウは仕方なさそうに苦笑する。


「……んなもん、知ってるよ」

「じゃあ」


 話そうとした俺の言葉を遮るようにヤドウは口を開く。


「仲間を」


 ヤドウは奥歯を噛むような表情を浮かべながら続ける。


「……仲間を助けるんだ。ひとりでも多くな。じゃあ、恨みとか言っていられないだろ?」

「……そうだな」

「お前はいい奴だと思ってるし、協力は出来そうだ。ありがたい。それで十分だろ」


 俺が返事を言おうとしたとき、シャルの手がきゅっと俺の手を握る。


「……ああ」

「まぁ、まず第一に……追い出されるのは仕方ない。ずっといられるわけもないしな。そもそも一時的に匿ってもらっていただけで、これ以上は望めない」

「僕としては働き者だから助かってたけどね。里のみんなも歓迎してたよ」

「人間との交易を考えるとそれも一時的なものだろう」

「まぁ、そうだね。……冷たいことを言うけど、君達としても長居出来る場所じゃないのは確かだよね、定期的に人間と関わる場所なんて」


 ヤドウは頷く。


「ここにいられる時間は短い。……どこかいい場所を知らないか?」

「……いい場所と言ってもな。大抵の場所には人間がいるか、人間では生きられないほど過酷な環境だ」

「だよなぁ。とりあえず、仲間を見つけるだけ見つけてアテもないが旅に出るしかないか」


 ヤドウの言葉を聞いてシャルの手を握り返す。


「……すまない」

「いや、助けてくれるだけありがたい」


 それからヤドウは人間のいなさそうな方向、ユタネラは人間のいる方向を探索することと決まり、俺たちは店番である。


 ……出来ることがなくて虚しいな。カルアがいたなら解決策を用意出来たのだろうか。……でも、カルアと再会してからだともう魔族達も飢えているだろうし、先に匿っても人数が多ければ見つかるだろう。


 少し考えてからハッと思いつく。


「……空間魔法なんだが、使える可能性があるな」

「空間魔法?」

「ああ、別の空間同士を結びつける魔法があるんだが、それを利用したら上手くいくかもしれない」


 正確な案はカルアと会ってから決める方がいいが、一時的に匿う場所を確保するぐらいなら……なんとかなるかもしれない。

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