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追手

 ダラダラと過ごしているとミエナが寝巻きのまま出てきて「さむっ」と言って小屋に引き返し、上着を羽織ってから戻ってくる。


「あー、もうスッカリお昼だね。あれ、やっほー、何食べてるの?」

「うわっ、ミエナちゃんだ」

「うわって何、うわって」


 ミエナが子供の頭をぽすぽすと叩くと子供たちは「わー! 食べられるぞー!」と言って散り散りに逃げていく。

 ……何をしたのだろうか、ミエナ。嫌われているわけではなさそうだが。


「あれ、いい匂いするね」

「ああ、ユタネラが持ってきてくれて」

「へー、声かけてくれてもよかったのに」


 俺との関係を誤解されたということを話そうかと迷って、無駄に引っ掻き回さない方がいいかと思って口を閉じる。


「あれ? ミエナさんユタネラさんが苦手なんじゃないんですか?」

「ちょっと気まずいだけで苦手でも嫌いでもないよ。お礼ぐらいはしたいし、また後で行こうかな」

「ん、僕もお礼をしに行きましょうか」


 シャルが行くなら俺も行くか。と考えているとクウカがお腹を空かせた様子で出てくる。


「あ、ロスくんおはよー。二人もおはよう」

「あ、おはようございます。ユタネラさんがご飯持ってきてくれたそうです」

「いい匂いだね。ずっと寝てたからお腹ぺこぺこだよ」


 クウカは俺の膝の上に座ろうとしてシャルに睨まれて別の場所に座る。

 ネネはまだ起きてこない。……まぁネネは気が弱いから知らない人が外にたくさんいる環境だと寝にくいのかもしれない。起こしたりはせずにもう少し寝かせておいてやろう。


「そういえばユタネラは薬師って言っていたな。回復薬とか作れるのか? 補充出来るならしておきたいが」

「魔法薬も作ってたと思うよ。というか、そういうのはエルフの方から人間に伝わってるからね。他にもいくつかエルフの里はあるけど、多分一番質がいいのはユタくんのだと思うよ」


 やっぱり長時間の研鑽が可能なエルフの技術は侮れないな。


「そもそもどういう仕組みなんだ? 回復薬って」


 皿を並べて食べる準備をしながら雑談がてらミエナに尋ねると、ミエナは寒そうに上着の袖に手を引っ込ませながら答える。


「んー、そうだね。あー、魔力の通りやすい物と通りにくいものがあるよね。魔力の属性にもよるけど。で、基本的に魔力の通りやすいものにしか魔法は込められないけどすぐに魔法が抜けていっちゃうでしょ」

「まぁ、そうだな」

「だから魔力の通りやすい物質に魔法を込めるんだけど、その時に他の物を混ぜながら魔法を込めることで、魔法が抜ける前に抜けにくい物質に変えることで作られているんだよ」

「……それ、魔法は保存出来ても発動出来なくないか? 完成品は魔力が漏れ出にくい物質なんだろ?」

「回復薬とか、使う時に飲み込むでしょ? あれで胃酸と混じって魔力が漏れ出やすい物質に変わるから魔法が発生するの」


 なるほど? と思いながら頷く。


「だから、作るときの分量や素の材料の乾燥具合とか混ぜる速さ、それに魔法を込めるタイミングとか、かなり難しいし、人によって出来が雲泥の差になるんだよね」

「そんなに違うのか?」

「うん。なんたってユタくんの回復薬は長年の研究の成果によってりんご味とかみかん味とかあるからね」

「すごい」


 回復薬ってまずいからかなり助かる気もする。いや、まぁ俺は最近飲まなくても魔法を取り出せるようになったが。


「じゃあ回復薬って胃酸と混ぜたら飲まなくても発動するのか?」

「まぁするけど、範囲が微妙にはなったりしそうだよね。普通に飲んだ方がいいよ。毒になるものでもないし」


 一応覚えておくか。あと、ユタネラのところにお礼をしに行くついでにその美味しい回復薬も買っておくか。シャル用に。


 イユリに聞けば分かることだが、シルガの使っていた爆発する薬瓶も似たような作りだったのだろうか。

 イユリの母はエルフなのだし、イユリの教え子であるシルガがエルフの薬師の技術を知っていてもおかしくない。


「どうかしたの? ランド」

「……いや、美味そうだなって、料理」


 朝食なのか昼食なのか微妙な食事をしてから、ネネがまだ寝ているのを確認してから四人でユタネラのところに向かう。


 ミエナは俺の方に目を向けて、少し不満そうに首を傾げる。


「ランド、私がユタくんのところに行くの嫌だったりしないの?」

「するわけないだろ。俺とミエナは変な関係ってわけでもないしな」

「……でも、もしも結婚するとかになったらここに住むことになるんだよ、私。私が迷宮鼠から離れたくないのは、私が迷宮鼠に必要だからじゃなくて、ただそこが好きってだけだから。絶対にここから離れられないユタくんとは違うの」


 ミエナの言葉の真意が分からず、彼女の目を見る。


「いや……俺がどうこう言う問題でもないだろ。真面目に、そういう方向で俺が好きってわけでもないだろ?」

「……もっと引き止められるというか、迷宮鼠にいてほしいって言ってほしいなって」

「……俺が死んでからもミエナの人生は長いだろうから、そんなに無責任なことは言えない。軽口を聞く仲ではあるけど……メレクと迷宮鼠に誘ってくれたのは、本当に嬉しかった。恩人だと思っている」


 深くため息を吐いてからミエナを見る。


「普通に、俺よりもしっかりしている偉い人だと思ってるんだ。自分の恩人に対して、ああだこうだと指図なんか出来ないだろ。……まぁ、ミエナがユタネラにそんなに興味なさそうだからというのもあるけど」

「パパ……」

「それほんとやめろ。出会った当初抱いていた尊敬とかそういうのがガリガリ削れていくから」


 まぁユタネラに気があるなら、もうちょっと迷宮鼠はどうするつもりなのかと聞くが、くっつくつもりもなく以前お見合いした程度でどうこう騒ぐ気にもなれない。


 シャルは不思議そうな表情でミエナを見て口を開く。


「ミエナさんがしたいようにしたらいいんじゃないですか?」

「いや……ただ構ってほしかっただけなんだけどね」


 ミエナに呆れながらユタネラの家に着く。

 まぁ、ハーレムパーティみたいなっているからミエナが疎外感を感じてしまっているのは分かる。


「多分、今の時間ならお店の方にいるからこっちから入った方がいいかな」


 ミエナはユタネラの家の裏側にある扉の方を指差してそちらに向かい、扉を開けたのと同時に手で俺を制す。


「ん? どうかしたか?」

「……人間がいる。一応隠れていた方がいいかも」


 エルフと交流をしている人間だろうか。それとも……あの魔族達を追ってきたのか。

 空間魔法で中を覗くとユタネラと数人の人間が話しているのが分かった。


「それで、ここの近くに恐ろしい魔族がきているかもしれないってことか。わざわざ知らせてくれてありがとうね」

「ああ、もしも見つけたら連絡を。しばらくすぐそこに拠点を建てるからな。彼等は非常に狡猾で卑劣な連中だ。会話が通じるように見えてもそれは君たちを騙すためのものだ。信用しないように」

「……どうも」


 ユタネラとの話が終わったのか人間達は店から出ようとしたので急いで店の陰に隠れる。

 ……追手だな。ユタネラはあの魔族を匿うつもりのようだが……どうしたものか。

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